第1章 FILE09:暗殺
最終的に、捕虜になることを選んだのは百騎長以上の者36名の内17名になった。魔法でその身を拘束されるのを嫌った者もいるが、そのほとんどが司令官を置いて帰ることはできないと自分の意思で残った。十騎長はその全てが残存部隊を統率するために解放されることが決まった。
そして、兵達が撤退した後の砦に魔王レイバ率いる魔王軍が半年ぶりの入城を果たした。
「レイバ様。只今、砦内部の調査を行っております。しばらくお待ちください」
レイバに軍師のパンドラが報告をしている。そして、レイバの周りには4人の黒騎士達が、いつものように控えている。
「ルノア司祭」
捕虜となった者達と共に、広場の隅に立っていたルノアを見つけレイバが歩み寄る。
「司祭のおかげで、無血開城できた。礼を言う」
「いえ、ヴァネッサ上級千騎長の御決断のおかげです。私は手助けをしたに過ぎません」
レイバは、真っ直ぐ自分を睨み付けている。亜麻色の髪の女性を見る。
「貴女がヴァネッサ殿か。ルノア殿がした約定はすべて守らせてもらう」
そんなことを、やっている横でハットがルノアに小声で話し掛ける。
「本当に、この方が金眼の魔王ですか。実は影武者としか…… どう見てもどこか貴族のボンボンにしか見えないのですが……」
ハットの言葉に、ルノアが笑みをこぼした。
「私も、初めはそのように感じました。それでいて、したたかな面もありますから、あのルックスも罠のひとつです。甘く見ると……」
ハットと話をしていたルノアが、目の前にいたレイバを突然突き飛ばす。不意をつかれたレイバはしりもちをついた。
ルノアの突然の行動に、4人の黒騎士達は己の武器に手をかけ、パンドラ、ヴァネッサ、ハットにグロウ、そして、その場にいたすべての者達の視線がルノアに集まる。しかし、彼らが目撃した光景は、右胸から矢を生やしゆっくりと崩れ落ちるルノアの姿であった。
「ルノア司祭!」
すばやく立ち上がったレイバが、地面に倒れる前にルノアを抱きとめる。
「お怪我はありませんか。レイバ様」
ルノアが微笑む。
「バカなことを言うな。怪我をしているのは司祭だ」
ハットが駆け寄り、矢を引き抜くと同時に治療魔法で傷を塞ぐ。引き抜いた矢にはルノアの血液と緑色のドロリとした液体が付着している。
「毒矢! レイバ殿、配下に浄化の魔法を使えるものはいますか」
「私の知る限り、いませんわ」
レイバではなく、パンドラが即答する。
「ヒューガー、ジェニス、暗殺者を早急に捕らえろ。手足の一本、もいでもかまわんが、生かして捕らえろ。そして、毒の種類をはかせろ」
怒気を堪えて指示を出すレイバに「御意」と言葉を残し、ヒューガーとジェニスと呼ばれた黒騎士が各々の部隊を率いて暗殺者の追跡にうつる。
「ヴァネッサ殿、そなた達もこのまま拘束させてもらう。それなりの待遇は約束するが、そなた達の中にこの件に関与している者がいた場合は覚悟してもらう。ディーヴァ、追撃部隊を編成しておけ、場合によっては殲滅戦もある」
矢継ぎ早に指示を出すレイバの手を、ルノアが握る。
「レイバ様、い、いけません。む、無駄に血を流すことはしないでください」
荒い息の下で必死に訴える。その思いを伝えようと、力いっぱいレイバの手を握る。
「お願いです。レイバ様」
「わかった。わかった約束する。だから、しゃべるな。毒の回りが速くなる」
微笑を浮かべて頷くルノア。だが少しずつ意識が遠のいていくのを感じる。
レイバとルノアの元に、パンドラとなにやら話していたハットが、深刻な顔をしてやって来た。
「ルノア司祭、聞こえますか? やはり手持ちの薬では対応できない。薬師も毒の種類がわからなければお手上げだ。残された手段はルノア司祭に自分で浄化の魔法をかけてもらうしかない。魔導式の構築はできますか?」
頷くとルノアは魔法を発動させる魔導式を構築する。が、薄れていく意識では、構築するそばから崩れていく。それでもルノアは無理やり魔法を発動させた。
「ガイアよ。浄化の…奇跡を我に…」
しかし、ルノアの意識は急激に大きくなった闇に飲み込まれた。どこか、遠くの方で自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
次回予告
意識を失ったルノアは過去の情景を見る。
その悪夢から覚めたルノアがいた場所は……
次回 夢現 前編
風が貴方に物語を運ぶ
ここまで読んでいただいた方に感謝。
ルノア、どうなるのでしょうか。
まあ、死んでもらっちゃ困るのですが。
しかし、新しい魔法が出たと思ったら、また回復系魔法です。
そういえば登場人物も戦士系ばっかりですね。
設定上はレイバと黒騎士のヒューガー、ジェニスは通常イメージできる方の魔法戦士なんですけどね。黒騎士の残り2人は身体強化系の魔法を使う魔法戦士。
魔法使いと言うイメージに近い設定の登場人物は、軍師のパンドラぐらいのものでしょうか、外伝2のミレイちゃん(1章後半で登場予定)も魔法使いですけどこの娘はどちらかと言うと文官系ですし。
その辺は少し考えて見ましょう(笑