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ターゲット 《弥生》

 

 翌朝、登校すると臨時の全校集会があって笹川咲楽が自宅のマンションから飛び降りて死んだ事を知らされた。真那や千花の事件で、ショックを受けて自殺したんだろうと校長は目頭を押さえながら壇上で状況を説明していた。その校長の傍らで、友佳が不気味な笑いを浮かべて瑞希を見ていた事など誰も気付いてはいなかった。


*******


「あと残されたのは瑞希と弥生でしょ? 弥生は家で部屋に閉じこもって出て来ないらしいよ!」


 瑞希が気分が悪いと言って午後から早退したので、クラス中が友佳が本当に自分をいじめていたグループの生徒を呪い殺しているんじゃないかとみんな好き勝手に騒ぎ出して授業どころじゃなかった。


「私さ、最近良くこの教室で影を見るんだよね。スゥーッと目の端を横切る感じで……。あれってもしかして友佳なのかもしれない」

「私も! 廊下で誰もいないはずなのにスゥーッと何かが私を通り抜けて走って行くような感じがして……。そのあと、気持ち悪くて暫く金縛りみたいに身体が動かなかった」


 私以外にも、少し感の鋭い生徒はいるようで何人かの生徒は教室や廊下やトイレで黒い影を見たり、誰もいないのに気配を感じたりしているようだった。


怨霊化して人を呪い殺して行き着く先は悪霊に取り込まれ人であったことすら忘れて延々と人を呪い殺しその魂を喰らう忌み嫌われるものになるだけ……。


師匠が言っていたように説得なんて出来ずに、ただ祓ってしまう事しか出来ない。


今なら私の声が聞こえるのだろうか? 早くしないと、友佳が悪霊になんてなってしまったら、私は友佳を祓うことなんて出来ないだろう……。

それ程親しい友人では無かったけれど、友佳は気の優しいクラスメイトだった。


今日こそは友佳を見つけて、話さなければいけない。

……手遅れになる前に。


*******


 私は放課後……。教室に一人残って友佳に語りかけていた。


「友佳! 友佳! 私の声が聞こえるなら少しで良いから話を聞いて!」


私は友佳が、まだ人であった事を忘れていない事を願いながら友佳を呼んだ。


《……闇子ちゃん? ……どうして私を呼ぶの? どうして?》


友佳は私の前に姿を見せると、私の頭の中に語りかけてじっと私を無表情で見つめていた。


「友佳!!復讐なんてやめて!お願い!!このまま続けていると悪霊に取り込まれて友佳が友佳でなくなってしまうのよ!!だから・・・もう」


“ガシャーーーーーーーーーーーーーン!!”


私が必死に友佳に復讐をやめるように説得していると、いきなり友佳の机の上の花瓶が大きな音を立てて砕け散った。


《ウルサイ! ウルサイ! ウルサイ! ウルサイ! ウルサイ!》


友佳が耳を塞ぎ地団駄を踏んで、何度も何度も私に向かって叫んでいた。


《もう遅いよ! やめられない。……契約したんだから……やめられない》


私を哀しそうに見つめる友佳の目からは真っ赤な血の涙が流れ落ちていた。


「けいやく? 契約? 誰と? 何の? 何の契約? 友佳! どうして?」


友佳はただ首を横に振って、そのまま何も言わずにスゥーッと消えてしまった。


「友佳! 友佳! 友佳! 行かないで! だめよ! 戻って来てーーー!!」


私が必死になって叫んでも友佳はもう姿を見せてくれることは無かった。


*******


 学校を休んで、自宅にいた弥生は部屋に一人でいても友佳の事が頭から離れずどうしても落ち着かないので、繁華街へ出ることにした。人がいたほうが怖くないし友佳に見つからずに済むかもしれない。そう思って弥生は近くの駅から電車に乗った。


それなのに……。

電車に乗ってから駅に着くまでずっと耳元で、気味の悪い呻き声がしていた。弥生はゾッとして電車を降りてからは後ろを振り返りながら出来るだけ早足でショッピングモールへ向かっていた。


(怖くない。怖くない。怖くない。怖くない。怖くない。怖くない)


人が大勢いれば大丈夫だと思っていた自分に後悔していた。生きている人間を相手にならこんな誤魔化しも利くのかもしれないが、友佳はもう死んでいるのだから人がいてもいなくても大して変わりは無いのだ。


(来ないで! 来ないで! 来ないで! 来ないで! 友佳!)


【ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピーー】


スマホの着信音が突然鳴ったので、弥生は驚いてビクッと飛び上がった。胸に手をあてて少し気持ちを落ち着かせて出てみると友佳の不気味な笑い声が聞こえてきた。


《フフフフフフフフフ♪ 弥生ちゃんみ~つけたぁ~♪ フフフフフ》


(友佳だ! 友佳だ! 何処? 何処? 何処から?)


「キャーーーーーーーーーーーーーーー!イヤァーーーーーーーーーーー!!」


弥生はその場にスマホを投げ捨てて走り出した。その様子を見ていた人達は訝しげな顔をしたまま困惑していた。


(来ないで! 来ないで! 来ないで! 来ないで! 死にたくない……死にたくない!)


弥生は恐怖で頭が可怪しくなりそうだった。本当に友佳が自分を呪い殺そうとしているなんて嘘だと思いたかったから弥生は瑞希のあの言葉を思い出していた。


(死んだら終わりでしょ? 瑞希が言ってたもん。今のは誰かの悪戯!)


生きている人間の仕業だと思いたい。怨霊なんていない。瑞希もそう言っていたじゃないかと、弥生は一生懸命自分に言い聞かせていた。


*******


「死んでやる! そして呪い殺してやるから! 許さないから! 絶対に呪い殺してやるから!!」


最後に友佳が自分たちに言い残した言葉だった。


 あの日は、千花が友佳の髪をザックザックハサミで切って燃やしたり体操服も上履きも燃やしてしまって、その後プールに友佳を全裸にして突き落としたんだった。(やり過ぎじゃないの?)弥生は心の中でそう思っていたが、口に出せるわけなかった。


水の中から浮き上がって来た友佳は恐ろしい形相で自分たちに向かって叫んでいた。


「必ず半年以内に呪い殺してやるから! 謝ったって許してやらない! みんな地獄に道連れにしてやる! 必ず後悔させてやる!」


弥生は恐ろしくて身震いしたが、瑞希は声を上げて笑いながら言い返していた。


「バッカじゃないの? 死んだら終わりでしょ? 呪いなんてあるわけ無いでしょ! やれるもんならやってみろだわ! 死ぬ事なんて出来もしない癖に!!」


そう言って水面に浮き上がってくる友佳の顔を何度も足蹴にして、瑞希は笑っていた。


プールに友佳を置き去りにして、五人でカラオケBOXに寄り道して夜遅くに帰宅した時には友佳は瑞希のマンションの屋上からすでに飛び降りて死んでいた。


(死んじゃったんだ。本当に……。本当に友佳は私たちを呪って死んだ)


弥生は眠れなかった。怖くて怖くてその日から殆ど熟睡なんて出来なかった。瑞希たちと違って一番気の小さい弥生にとって友佳の死はショックだった。


(怖い怖い怖い怖い……。死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!)


真那や千花のこともあって、両親も少し心配して弥生を神社へお祓いに連れて行ってくれた。しかし、お祓いの最中に神主が心不全を起こして突然倒れて救急車で運ばれてしまった。友佳の呪いはそれ程強いものなんだと思い知らされただけだった。


*******


(ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ)


 走りながら弥生は必死に謝り続けた。許してもらえるとは思っていなかったけど、もう他に言葉が見つからない。


《許さない!! 許さない!! 許さない!! 許さない!! 許さない!!》


すぐ後ろで友佳の声が聞こえる。振り返ったらきっと捕まって殺されると思って弥生は振り返れなかった。


(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ !死にたくない! 死にたくない!)


 弥生はショッピングモールを出てただただ走り続けた。どうすることも出来ずただただ、走って逃げるしか出来なかったから……。


(私は一緒にいただけ、何も何もしていない。何もしていない!)


息を切らせて弥生は信号待ちをしながら必死に友佳に訴えかけていた。


《何もしなかった? 笑ったでしょ? 笑ってたでしょ? 楽しんでたでしょ?》


(違う違う違う! 笑ってないと瑞希に瑞希にいじめられるから!)


《ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ!!》

《許さない!! 許さない!! 許さない!! 許さない!!》


無数の腕に両腕を掴まれて弥生の身体は前のめりになって道路へと飛び出した。


【キーーキーーキーーーキーーーー!! ドーーーン!!】


 走って来たトラックに弥生の身体は跳ね飛ばされて、宙に浮いてそのままアスファルトに叩き付けられていた。その身体は腕も足も首も折れ曲がって直視出来るような状態では無くとても無残な姿だった。


その弥生の横でまた友佳はニヤリと笑って《あとは瑞希だけ》と呟いていた。


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