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ターゲット《咲楽》

 

 緑川千花が学校の焼却炉の中で、焼死体で見つかったのは翌日の午後だった。


校内を捜索していた警官が異臭に気付いて、焼却炉を確認すると真っ黒な焼死体が中で横たわっていたそうだ。


そして、すぐに検死解剖に回されてその遺体が千花であることが確認された。


さすがにいじめグループの瑞希を含めて残り三人は、恐怖を隠せない様子で青ざめていた。


*******


「冗談じゃないわ! 幽霊なんて馬鹿じゃないの? きっと、きっと誰かが友佳の復讐をしているに違いない。きっと……」


 瑞希は未だに真那や千花の事は友佳がやったとは認めようとはしなかった。

死んだら終わり、霊魂なんてあるわけがない。そう信じていた。


それでも少し、瑞希の周りでは友佳が自殺してからおかしな事が続いていた。

違和感を憶えたのは友佳が死んだ翌日からだ。朝起きて鏡を見た時ふっと黒い人影が瑞希の目の端をよぎった。瑞希はドキッとして慌てて振り向いたが何も居なかった。


 学校では授業があまりにもつまらなくてウトウトしていたら、急に耳元で気味の悪い呻き声の様なものが聞こえてギョッとして辺りを見回したが、周りの生徒達はキョトンとした顔で瑞希を見ているだけだった。


残されたグループの弥生と笹川咲楽ささがわさくらは自分たちも呪い殺されると恐怖で怯えている様子だった。この二人も友佳が死んでから、呻き声を聞いたり黒い影を見たりしているようだ。


「私さ……。今日、学校が終わったら神社へ行ってお祓いしてもらうんだよね!」

咲楽が瑞希と弥生に恐る恐る言って苦笑いしていた。


「えっ!? 私もだよ! 親がなんか頼んだみたいでね。神社へお祓いに行くことになってるの……」


弥生もお祓いなんて笑えないよね……と溜め息を吐いた。


「死んだら終わりに決まってるでしょ! 真那も千花もきっと誰かに殺されたに決まってる。人間にしかこんな事出来るわけ無いじゃない! お祓いなんて意味ないわよ!!」


瑞希は二人に向かってそう言い捨てると、目も合わさずにそのまま鞄を持って教室を出て行ってしまった。


「相変わらず感じ悪いなぁ~!あんな風に言ってる瑞希が一番ビビってんじゃないの?」

瑞希がその場に居なくなったのを良いことに咲楽は正直な気持ちを口にしていた。


「信じたくないんだろうね。死んだら終わりってのが瑞希の口癖だから……」


弥生は頑なに霊魂を信じない瑞希の気持ちを何処か理解しているようだった。


*******


 あの日から、私は李慶師匠と連絡を取り合い自分の能力と向き合うようになっていた。友佳が恐ろしい悪霊になってしまう前に復讐など辞めさせたいと強く願っていたからだ。


『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前! 悪鬼消滅! 破―――!!』


李慶師匠は私の目の前で九字護身法をやって見せた。


「これは怨霊化した友佳さんが、さらに悪霊化してしまった場合に闇子さんの身を守る為のものだと思っていて下さい」

「はい……わかりました」

「この手に集中して九字を唱え、そして悪霊を切ります。心に迷いが生じると命に関わりますからね。迷いは禁物です」


師匠は私の手を握ってそう告げるとそっと手を離した。


「言葉では無く心の声で語りかけて友佳さんを説得するんですよ! それだけハッキリと視えると言う事は友佳さんの魂に繋がっているはずですからね!」


李慶師匠にそう言われて私は黙って頷いて、九字の切り方を何度も繰り返していた。


「まずは、自分の身を守る事が先決ですからね。悪霊化してしまった霊魂は説得は出来ないものだと諦めて下さい」


師匠はそう言って私に念を押していた。


*******


【ヒタヒタヒタ……ヒタヒタヒタヒタヒタ……】


 学校の帰りに神社へお祓いに行ってから、自宅のマンションへ戻った咲楽は少し前から家には誰もいないはずなのに部屋の前を何かが行ったり来たりしているような気配を感じて、耳を塞ぎ縮こまって怯えていた。


【ヒタヒタヒタ……ヒタヒタヒタヒタヒタ……】


足音の様なものが、少しずつ大きくなっているのに気付いた咲楽は恐怖でベッドの下へ潜り込んで身を縮めて耳を塞いだ。


【ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ……ガチャ!!】


暫くして部屋のドアが開いた……。


(嘘! 嘘! 嘘! 誰? やだ……怖い!)


咲楽は恐怖で声を上げそうになって、慌てて自分の手で口を必死で抑えていた。

それでも身体の震えは抑えきれず肩が小刻みに震えていた。


咲楽は怖くて閉じていた目を少し開けてドアの方を見た。


そこには……。

見覚えのある少女の足があった。


(あの靴下……あの日の友佳のだ。嘘!? そんな筈無い!)


目の前の足が誰かを確信した咲楽の目からは恐怖のあまり涙が流れていた。


(ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ)


お経を唱えるかのように何度も何度も謝りながら咲楽は思い出していた。


*******


「イヤーーー! 助けてーーーーー! 来ないでーーーーーー!!」


 そう叫びながら放課後の校内を逃げまわっていたのは友佳だった。


「アハハハハハハハハハハハハハハ!! 逃さないよ~! アハハハハハ!」


その後を咲楽は笑い声を上げながら楽しそうに友佳を追いかけていた。


「イヤーーーーーー! 来ないでーーーーー! もう許して! お願い!」


捕まってしまったら、またどんな酷いことをされるかわからないという恐怖に叫び声を上げながら、友佳は必死になって咲楽達から逃げまわっていた。


「無理ーーー! こ~んな面白い遊び! やめれるわけ無いじゃん!」


咲楽はそう叫んで逃げまわる友佳を追い回していた。


逃げ惑う友佳を追い詰めて、身を縮めて隠れ込んでいた掃除用具の入ったロッカーの中から、友花の髪の毛を思い切り掴んで引きずり出してやった、あの時の友佳の恐怖で歪んだ顔はたまらなかった。


「キャーーーーーー! イヤーーーーーー! やめて! イヤーーーーーー!」


泣き叫ぶ友佳の身体にタバコの火を押し付けたり、洋式トイレ中に友佳の頭を押し込んだりして、咲楽は瑞希たちと一緒に友佳をボロボロにして笑っていた。


*******


《許さない!! 許さない!! 許さない!! 許さない!! 許さない!!》


 咲楽の頭の中に友佳の恨みの籠もった声が何度も何度も繰り返し聞こえる。


(殺さないで! 殺さないで! お願い! 殺さないで!)


聞き入れてもらえるわけ無いとわかっていても、咲楽は必死で友佳に懇願していた。


ヒタヒタと友佳は部屋の中を歩き回り、そして、ベッドの前で足を止めた。


(嫌だ! 嫌だ! 死にたくない! )

(死にたくない!死にたくない!死にたくない!)


咲楽はベッドの下から這い出て必死で部屋を出て逃げ出した。


(死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!)


すぐに玄関のドアを開けて外へ出ようとしたが鍵が空いてるにも関わらずドアは開かなかった。


(嘘!? なんで? なんで? 開かないのよ!)


咲楽は諦めて泣きながら両親の寝室へ逃げ込みベッドの下へ身を潜めた。


(来ないで! 来ないで! 来ないで! 来ないで!)


そう心の中で叫びながら、咲楽がゆっくりと目を開けると……。

目の前で血だらけの友佳の顔がニヤリと不気味な笑いを浮かべて、ベッドの下を覗き込んでいた。


「キャーーーーーーーーー!! イヤーーーーーーーーー!」


咲楽は叫び声を上げたが、すぐに無数の腕に髪を掴まれ引きずり出されて、二十一階のマンションの部屋の窓の外へ放り出されていた。放り出された咲楽の身体はふわっと宙に浮き、そのまま急降下して地面に強く叩き付けられて無残な姿に変わっていた。


咲楽の亡骸を見つめながら友佳はニヤリと不気味に微笑むと、《あと2人》と呟いていた。


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