第5話 霧の館と吸血鬼 ④
剣と魔法の世界で……(ry
魔女と侍の一騎打ち、勝敗の行方は俺のみぞ知る(メタァ)
第5話どうぞ
真紅の館にて……
優と茜は遂に目的地である『紅い館』に到着する……が、しかし、館の門前に紅 美鈴なる中華娘が二人の前に立ちはだかった。
事を急ぐ二人は、美鈴を上手く掻い潜り、優は茜を先に行かせる事に成功する。そして繰り広げられる優と美鈴の闘いは、序盤は美鈴が圧倒している様に見えていたが、それは美鈴が不利である事への裏返しだった。
美鈴の悉くの攻撃をあしらい、且つ受けて立ち続けた優は、『刹那の百裂拳』なる超神速拳打を浴びせて見事に美鈴を撃破した。優が入口に向かい、門前を後にして直ぐにアントニオンが館に到着し、美鈴に応急治療を施して同じく館の入口へと向かった。
優が美鈴との戦闘の最中、茜は館の裏から侵入を果たし、異常に広く巨大な図書館らしき場所に出ていた。矢鱈と背の高い本棚が所狭しと並べられていたその空間に、二つの影が存在した。
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「なぁにココ、場所自体は広いクセにそれを良い事に敷き詰められた本の山、それが理由なのか無茶苦茶なくらいに埃っぽい。どうやら外の明かりは疎か、空気の出入りも余り無いと見た……」
気分を悪そうに茜はハンドタオルをリュックから取り出して、鼻から口に掛けての範囲をタオルで覆って手で押さえる。埃っぽい空気が宛ら"有害スモッグ"の様な扱いである。
とは言え、埃の度合いが酷ければ当然ながら有害スモッグ同様に害を為すだろう。埃は常日頃から日常に存在する物で、その正体は『糸』なのだが、彼是混ざっている所為でアレルギーを起こす人も少なからず居る。
「しっかし、こんな古く寂れた所に何で蝋燭なんて古びた明かりがあるのかな? 何だか明らかに人は居ないと思うんだけど、って言うか居たら居たである意味凄いよ、皆勤賞とか何かあげたくなっちゃうよね……」
茜は伏し目がちに周囲を見渡しながら歩みを進める。そんな彼女の顔は、実際に口で違う方向で凄いと言わんばかりに眉を歪め、嫌な汗を数滴程度流していた。と、途端に茜の顔は元に戻り、他の周囲を見渡せる本棚の位置まで静かに移動し、そこから見える光景を覗いた。
光景の中心に居座っていたのは、薄紫の見るからにパジャマ服の衣装に身を包んだ紫髪の女性? だった。木製のアンティークらしき椅子に座り、同じく木製の重厚な机に何冊もの分厚い本を置き、僅かな蝋燭の灯りのみで読書に勤しんでいる。
茜側には背を向けているので、普通は後ろの様子など見える筈など無い。ので、茜はまるで古来の物語等に出て来る泥棒のような動きで真横を通過しようとした、が、ふと女性の様子を垣間見ようと視線を向けた時、紫髪の女性は本を開いたまま同じく垣間見る姿勢で茜を見ていた。
「ん────」
「む────」
目が合った、それだけじゃない、声の発生も同時だった、紛れも無い……これは両者共お互いの存在を認識したと言う事。お互いが同時に存在を認識した為か、二人共何故か気不味いらしく、暫しの間視線を合わせた。
「うぉふっ」
暫しと言っても三秒程度の時が流れた瞬間、先にその沈黙を破ったのは茜だった。だがしかし、沈黙を破った茜の反応が何とも緊張感が無く気の抜けた変な構えだったので、紫髪の女性は椅子から転げ落ちそうになった。
「だ、誰……? っと言うか、何そのポーズ、ツッコミ待ちなの?」
「いや〜反射的に執ってしまう癖のようなモノだと思って気にしないでくれたら嬉しい。まぁ確かに誰? だよね? 名を訊くならば自分からに則って、私は大島 茜。外の紅い変な霧を消しに来たんですけど、どうしたら消えるかな?」
素に直ると書いて『素直』、正に読んで字の如く茜は率直な事を問うた。ここまで質問が一直線だと遂々口走ってしまうような気がするが、存外に紫髪の女性は冷静に、こう受け応える。
「消えないわ。いいえ? 寧ろ消させないわ、巫女や魔法使いならいざ知らずだけど、まさかサムライが来るなんて微塵も思ってなかった。それが女のサムライだなんて、まるで冥界の彼の娘ね」
先程までの茜の変な構えに対しての態度が嘘であるかのような無表情に変わった女性、その双眸の鋭さは刃にも似た感覚である事を茜は覚えた。そう、この顔こそが茜ならよく知る、『敵を認識した時の表情』そのもの。
つまり今、現時点を以って茜は目の前の紫髪の女性に『敵』と認識された。その直後に女性は左手をやや上に翳し、その掌に光を集め始めた。紛れも無い攻撃態勢、逃げなければ大怪我は間違い無いだろう。
だが、それは茜には当て嵌らない事。何故なら茜は"どうせこうなる事"を予想していて尚且つ優が相対した女性を見て、皆"そう言う力の持ち主"である事を察知していたからだ。
「サムライ? 嬉しい呼び方だね、侍なんて光栄じゃん。そう、私は現代の女侍、龍虎二刀流第62代目継承者、大島 茜。どうせそんな事だろうと私は思ってたよ、うん、いやホントマジで。だからやるんなら気を付けなよ? 油断大敵ってのは、そっちみたいな人によく使うんだから」
口調はいつも通りではあるが、茜は背負っている大きなリュックの、出し口から柄だけ飛び出している四つの刀を取り出し、全てを腰に装備して内二刀を抜刀して構えた。二刀の内一つは柄巻が赤く、刀身に漢字で『朱』と刻まれていて、もう一つは柄巻が黒く、刀身に『玄』と刻まれている。
「朱雀、玄武。この幻想郷に来ての初戦だよ……さぁ、張り切って行こうか!」
〔はい! 頑張りましょう!〕
〔どれどれ、試しに水を纏わせましょうかのぉ?〕
その時、茜の背に巨大な虚像が出現し、言葉を発していた。その虚像の姿が伝承で名高い神獣の朱い鳳凰と玄い霊亀である事に紫髪の女性は目を見開いて驚いた。
「なッ……こっこれは、霊魂の中でも最高位の"神霊"……! 神鳥と神亀! こんな高度な使い魔を使役すると言うの!? 貴女、一体何者なの……?」
「私? さっき言ったよ、大島 茜。龍虎二刀流の第62代目継承者。あ、そう言えば龍虎二刀流って、元々は違ったんだっけ? 確か……『四神一刀流』? だったかな」
驚愕と共に女性は茜に疑問を投げ掛けた。女性から問われた茜は二刀を床に突き立て、腕を組みながら自己紹介を繰り返すように話をした。その話の中で女性は一つの名称に強く反応し、呼吸を落ち着けながら口を開いた。
「"四神一刀流"……知識なら有るわ。刀が発足した時代に直後で生まれた最古の一刀流剣術、初代当主は大島 四緒璃、降霊術の最高峰『神降ろし』が出来たと言う天才霊媒師。中でも相性が良かったのは『龍』、『虎』、『鳥』、『亀』の神獣で成り立つ方角の守護神、『四神』。素晴らしいわ、素晴らしいが故に恐ろしい、その末裔が私の目の前に居るとはね……」
「いやまぁ、確かに直属の子孫だけど、降霊術とか霊媒とか無理。龍虎二刀流はずっと剣術の家だし、この朱雀も玄武も、龍虎二刀流を継承した時から傍に居たからね。使役するなんて大それた事は出来ないよ」
床に突き刺した二刀を引き抜き、茜は刀を前に交差させて構える。紫髪の女性は一旦心を落ち着けて椅子から立ち上がり、女性の上半身程の大きさを誇る分厚い本を目の前で浮かせてみせた。
「良いわ、私も久しく覚悟が必要みたいね。私はパチュリー・ノーレッジ、此処、紅魔館内図書館を管理する魔女。大島 茜、と言ったわね? 残念だけど、私が貴女に負ける事は無いと断言するわ」
「へぇ、それは奇遇だね〜。私も"パチュリン"さんに負ける気が1ミリもしないよ」
この言葉が開幕となり、茜の目の前にパチュリーの放った火球が飛んで来た。しかし火球は茜まで紙一重のところで霧散して消えた。火球が霧散した先には二刀を背後にまで振るった茜の姿が在った。
「あれぇ? ひょっとしてお頭に来ちゃったぁ? 此処の人って結構堪忍袋弱いんだねぇ。そんな事じゃ色々大変でしょうに」
明らかに明から様な挑発を行う茜、その顔には戦闘に興じる狂戦士の如き笑みが浮かんでいた。その笑みの鋭さだけでも物を斬れそうな程だが、パチュリーの顔には一つも揺らぎが無かった。
容赦無い、躊躇無い、その二つと共に、"生きていようが死んでいようが"構いやしないと言う冷徹性が表情に色濃く出ていた。殺意では無い、彼女、パチュリー・ノーレッジにとっては"純粋な破壊"を行う程度の事なのだ。
「月木符『サテライトヒマワリ』……」
なるほど、と茜は覚った。
これが幻想郷に於いての当然にして必然なのか、と、半ば勘違いに近くも限り無く名答の考えに茜は至る。やる事は変わらない、こちらも同じ、喋る気が無いなら喋らなくて良い。
「────そう、私は語り続けるよ。刀で存分にねッ……!」
瞬間、茜の目付きが別人の様に鋭く変化するのと同時に館内の天井に浮かぶ緑の光球と黄の光球が互いに回転し合う。高速で回転する二色の光球は茜の立つ空間全てを埋め尽くさんばかりの光の雨を注ぎ落とす。
光の雨の内の一粒が茜の頭頂を直撃するその時、茜の頭上から空気が吹き付けて、頭上の光の一粒、またそれ以降の光の雨諸々を消し飛ばした。茜の頭上より吹き付けた強風は高い天井にまで届き、二つの光球を粉々にした後、茜の元へと戻るように周囲に風を起こした。
「ナイス"白虎"、そのまま力貸しといて」
静かに呟きかける茜を差し置くようにパチュリーは先ほどと同じ色、黄と緑の光球を弾幕として館内全体に展開した。弾幕は隙間こそあるものの、常人ならば見て避けるのは至難の業だろう。
刀を持って立つだけの茜に向けてパチュリーは展開した弾幕を動かした。其々が其々に倣う様に動き、個々が様々な軌道を織り成す中、茜は僅かに一歩だけ右足を前に出すと、直後に右足の下の床が陥没し、茜の足諸共に姿が消えた。
否、正しく言うと消えたのでは無く、"動いた"だ。茜は動いた、それも音速を上回る速さで跳躍し、館内の壁や天井を蹴りつつパチュリーの弾幕を全て躱しながら動いている。
縦横無尽に館内を『翔ける』茜も茜だが、それを目で追えていなくとも確実に茜を捉えるパチュリーもパチュリーだ。弾幕はばら撒かれはするものの、狙って撃たなければ当たるものも当たらない。
その弾幕を寸分違わず相手へ照準を合わせる集中力、弾幕を即座に展開して動かす精密性、そして何より無数の弾幕を瞬時に発生させる魔力量。茜は基、『彼等』は見ていた、パチュリーの持つ強さを。
〔茜様、此奴め中々に腕が立ちまする。殆ど動かんと言って油断しては、近づいた時こそ最大の危殆ですぞ〕
〔慎重に隙を見つけるしかありません、御武運を!〕
突如、老人と女性の言葉が茜の脳内に直接入ってきた。相手であるパチュリーの実力を示す様な茜への助言、確かに強い、彼此1分程弾幕を回避しているが一向にパチュリーの隙が見当たらない。
「どうしたもんかね……取り敢えず、流れを変えてみるしか無いか!」
茜は走っていた天井を蹴って地面に降り、大量に並ぶ本棚の列を突き抜けるようにパチュリーの立つ場所へと一直線に向かった。駆け抜けるとその軌跡として床が捲れ、剥がれ、まるでささくれの様に木材質の床が凹凸を作っていた。
パチュリーは黄と緑の光球の展開を止め、今度は左手の人差し指から水を流出させ、サッカーボール大の球体状に固定してから直接水弾を複数射出した。先程までとは打って変わって弾速が桁外れに速くなり、然れども茜は紙一重で見極めて弾幕を避けて行く。
超高速の疾走に依り、残り一息、たった一回の跳躍で到達し得る距離までパチュリーに接近した。己の立つ位置を理解しつつ、次に踏み込んだ右足で茜は"飛ぶ"様に跳び、そこから二刀を改めて構えた。
場は緩やかに流れる時と化し、加速する思考速度の主観時間増幅感覚から茜の目に映るパチュリーの動作が如実に確認出来る。パチュリーは人差し指を下ろし、右掌を目前の茜に向けて構える。
超高速で動く茜を直前にして最速で捉えたその様、接近する事を最初から読んでいたのは予想するまでも無いだろう。刀を扱う以上、必然に近距離戦闘が前提になる為、決定打を生み出すには近づく以外無い。
だがそれは茜も理解していた、そして読んでいた。相手も近距離に対しての攻撃を行う筈、その時、こちらが確実に躱せない攻撃だって撃ってくる、絶対に、でもそれこそが最高にして最強の瞬間だ、と。
「"青龍"!」
発言すら許されない刹那の、ホンの僅かな時間に呼んだ名前に呼応して、茜の体を素早く青い光が包んでいく。更に刹那、パチュリーの右掌に発火と集束を繰り返して何重にも力が溜められる。
恐らく、範囲は狭いが密度が高い、オマケに二人の距離は約5m、これだけ近ければ狭い範囲でも躱す事はほぼ不可能だ。間も無く繰り出される火炎の放出、パチュリーの右掌には真紅に滾る光のみが在った。
来るッ!
直感の瞬間、赤い閃光で目の前が覆い尽くされ、茜の体は正面から焼き焦がされるような熱を感じた。躱すのは困難極まる距離にしてこの攻撃、茜は視覚と聴覚と触覚を限界以上に引き出し、迫り来る火炎を体を横に捻り、水中を泳ぐような流動で一波を回避する。
第二波、1m縮んだ距離から間髪無く放たれる火炎は、自身が近づく事と火炎の放出速度が相俟ってより速く感じられる。動作と感覚は先程より速く、鋭く研ぎ澄まし、空中を僅かに触れるようにして蹴って火炎を紙一重で躱す。
第三波、更に1m縮んだ距離から即座に放たれる火炎は、目の前なんて言葉じゃヌル過ぎる。既に焼かれていて当たり前の距離、皮一枚が焼かれる一歩手前で耐え、その耐久に応えるように茜は力を振り絞って身を翻して回転し、三波も避けた。
最速に次ぐ最速の動作、息吐く暇は疎か、指先一つの余分な動きも許されない。続く第四波は集束の最中、残り3mの距離では接近は出来ても回避はもう出来ない、ならばこの状況を如何するべきか?
直後、パチュリー右掌から放出された火炎が茜を瞬く間に真紅に染めていき、茜の視界も赤い閃光に覆われていった。このまま火炎に呑み込まれ、無惨に灰と化して朽ちるだけでしか無い。
「────やっとだよ、やっとこれで攻められる」
唐突に茜の言葉がパチュリーの耳に入って来た。それもハッキリと明確にして明瞭な言葉、耳打ちの様な目前に居て一言一句逃す事無く聞き取れる程ブレの無い発言に、パチュリーは僅かな戸惑いから静止した。
その一瞬、パチュリーの両腕を断ち切らんばかりに二つの刀がパチュリーの足下から振り上がる。殺気すら感じない刀の高速接近を見ずして感知したパチュリーは両腕に魔力で形成した障壁を展開し、後方へ跳んで刀から逃げた。
刀は障壁に触れるも、風切り音を発しただけで上に振り切られた。跳躍から着地してからパチュリーが直ぐに両腕を確認すると、両腕の障壁が一部が尖った形に欠損していた。
詳しく見てみると、障壁の先に服の袖の二の腕辺りに辛うじて見える斬り込みが入っており、その斬り込みはパチュリーの皮膚の表面を肉薄していた。障壁の展開は間に合っていた、確実に間に合っていた筈なのに、袖の二の腕部分に斬り込みを入れている。
「私の持つこの刀は、実際の四神が宿る『神刀』。つまり、魔や超常の力を容易に断ち切れる力を持っているんだよ。まぁ、"まだ全力じゃないけどね"」
ふと、茜はパチュリーが立っていた場所の床から現れ、二刀を逆手に持って構えていた。その姿は若干の変化はあるが、衣服の違いを除けばこれと言った傷は何一つ受けていない。
そう、つまり茜はパチュリーの火炎が迫る寸前、制服を盾にして火炎を防いだのだ。と言っても、制服と言うよりはYシャツの上に着ていたセーターを何とか脱いでる途中、腕の辺りで止まったセーターに火炎が当たって焦りながらも逃れたに過ぎない。
それでも体が燃える事は回避出来たのだから大したものであろう。しかし、これに依ってパチュリーは茜の攻撃に対して最大に警戒を強め、もう二度と茜に接近など許さぬだろう。
「少々甘く見ていた節がまだ私には有ったみたい……もう次は無いわ、貴女は先の一瞬で私を仕留めておくべきだったと後悔する事になる」
「────へぇ、じゃあさ、次接近したら"私の勝ち"ってワケだ」
単純且つ簡単な解答を述べて茜は二刀を構え直し、今度は体の周囲に黒い光を纏った。パチュリーも今まで目前で浮かせていた分厚い本を投げ捨て、紙札を何処からか取り出してから左手に燃え盛る火の球を形成する。
「日符『ロイヤルフレア』!」
第二の開幕を告げるパチュリーの宣言、左手に浮かぶ火球を前方に放ると、それは莫大な熱量と範囲を持ち、館内全てを蒸発させる真紅の超爆発となった。烈火などと言う表現など疾うの昔から弱々しく感じる程の火炎。
「本気出してね"玄武"ッ!」
だが、茜は拮抗した、それは実物の太陽を彷彿させる絶大な赤き光の爆発に、漆黒の水流が茜の手足や刀から放出され、莫大な火炎とぶつかって相殺していく。否、寧ろ茜は勝っていた、漆黒の水流は茜の背中を中心に描く巨大な渦潮と化し、火炎を軽々と呑み込んでいく。
「まさか『ロイヤルフレア』が押し負けてる……? バカな……!? 私の持つスペルカードでも五本の指に入る魔法なのに!」
焦りを隠せないパチュリーはあり得ない事に一瞬、ホンの僅かな刹那に気を抜いてしまい、火炎の勢力を弱めてしまった。その直後、茜の水流が瞬く間にパチュリーの火炎を喰らい尽くし、序でに喰らった火炎を吐き出す様に柄巻の赤い刀から業火を放出する。
「一気に叩き込むよ! "朱雀"ッ!」
パチュリーに向かって突進する勢いのままに、右手の刀には水、左手の刀には火、双方交わる事無き属性は絶大な回転へと変化して"竜巻とも見て取れぬ竜巻"となりて、それは無双なる無数の連撃として、紫色の魔法使いを屠り去る────
「『朱玄嵐武』ッ!!」
高速で振るわれる左右の刀の薙ぎは業火と激水を帯びて放たれ、パチュリーの全身を斬り刻み、燃やし尽くし、溺れさせた。一瞬で生死の境に立たされたパチュリーは茜の攻撃に依って体力の9割を同時に削がれたのだった。
「ぐッゴォッボボッ……ばァッ!」
飲み込み、肺に入った水を、四つん這いとなって胃液混じりで吐き出し、一挙に押し寄せる溺水に依る疲労と徐々に現れる火傷に依る激痛がパチュリーを襲った。重複し、降り掛かる二つのダメージに耐え兼ねた彼女はそのまま項垂れた。
「あ、ごめん私お父さんに『闘う時は常に本気でやれ』って言われてるから、手加減難しかったんだ。大丈夫? "パチョリーさん"?」
「はぁ……はぁ……あなた、さっきからその名前の呼び方、ワザと間違えてるの……?」
「だったら何かな? "パンナコッタさん"」
「いい加減に────」
頭に血が上ったのだろうパチュリーは極大火球を一瞬で形成して茜に飛ばす。しかし火球を飛ばした途端初めて彼女は気付いた、茜が声の方向に居ない、何より自身の左真横から吸い寄せるような強烈な空気の流れが有る事に気が付いた。
「はい怒った、そうなったら闘いに於いて致命的な隙を作る事になる。私達からしたら常識中の常識だよ、常に冷静さを保つ事も一流の気質、その中でもアンタは『二流にも劣る三流』だよ、"パチュリー・ノーレッジ"さん……」
刹那にパチュリーは左真横を振り向くと二刀を両脇に構えて振り抜かんとしている茜の姿を目の当たりにした。反撃に転じたい一心に体を動かすが、体が思う通りに動かない上、意識だけが先行している為に実際の行動は遥か手前に置き去りの状態なのだ。
動けと念じて微動だにせず、避けろと思って転びもせず、逃げろと願って傾かず、パチュリーはただ茜が二刀を振るう姿を見るしか許されなかった。しかし、口だけは動いた彼女に、残された最後の砦が……
「火水木金土符『賢者の石』……」
彼女の持つスペルカードの中でも最高峰、五つの属性を宝石として形成し、同時使役する超高等技術の魔法だ。宣言完了と同時に形成される宝石の力の波動で茜は攻撃の途中で吹き飛ばされた。
「そう簡単じゃないのねぇやっぱり……しょうがない、みんな! 行くよ!」
茜が号令を掛けると腰に差していた刀四本が一人でに引き抜かれ、巨大な半透明の『朱い鳥』、『玄い亀』、『白い虎』、『青い龍』に変化し、茜が正眼の構えで持った一本の刀に鳥、亀、虎、龍が集約して纏まる。すると刀は純白の光と化し、形が変わっていく。
「『四聖獣祈願』……」
ものの数秒程度で刀は刃渡り150cmの超長刀へと変化し、柄巻も赤、黒、白、青の四色が同時に編み込まれている。名を"神刀『四神』"、茜の持つ四刀が本来あるべき姿の中の一つだ。
「『聖獣閃』!」
準備は全て完了した、後は標的たる敵、パチュリーを倒すのみ。神刀『四神』は超長刀であるにも関わらず、青いオーラを纏ってリーチを更に伸ばし、白いオーラを纏って振る速さを高速化し、黒と赤のオーラを纏って火と水を渦のように放出した。
横に振るうと周辺の本棚は上下真っ二つになって吹き飛び、斜めに振るうと床から天井までに深い斬り込みを与え、それは最早刀なのか怪しく思える程の脅威の斬れ味を誇った。横と斜めの薙ぎにパチュリーが形成した宝石が二つ巻き込まれ、力を発揮する前に粉々に砕け散った。
最後に茜は館内の天井一杯に跳び上がり、真上から神刀を思い切り全身全霊で唐竹に振り下ろした。残った三つの宝石の属性を全て解放して刀を止めようと足掻いても、パチュリーの攻撃は虚しく叩き割られた。
文字通り叩き込まれた神刀の下には残った三つの宝石が砕かれた衝撃で吹き飛ばされたパチュリーの失神した姿が有った。これにて終了、茜は着地すると元に戻った四刀を鞘に納め、その場を後にした。
「龍虎二刀流に敵は無し! なぁんちゃって♪」
茜が捨て台詞を口にしてる最中、優とアントニオンは紅い館の内部、出入り口前のホールに居た。取り敢えず侵入はしたものの、何やら進みあぐねていた。
「優さん、変でス。入り口の扉を抜けた瞬間から館内の範囲が変化しましタ……」
「あぁ、しかもずっとこっちを見てる殺気の根本らしき奴が階段の奥の道に居るぞ」
『こちらの存在に、しかも明確に気付くなんて、ただの人間じゃないわね……何なの? あの外来人……』
続く
分野は違えど様々な差で魔法使いパチュリーに勝利した茜。
正面玄関から先のホールにて優達を睨む殺気の正体とは一体……!?
次回、超絶で最狂の三人が幻想入り
第6話 霧の館と吸血鬼 ⑤