第3話 霧の館と吸血鬼 ②
霧の館と吸血鬼、発展編
ルーミアを打倒した優一行の次に待ち構える相手とは……
霧立ち込める湖にて……
幻想郷を覆い尽くさんと空満面に広がる"紅い霧"。これを止めるべく、八雲 紫に教えられた紅い館へと向かう最中、突然優以外の二人が黒い靄のような闇に包まれ、ブラックアウトしてしまい、そこへ現れたルーミアと名乗る奇妙な少女。
彼女はただ一人闇に包まれていない優に襲い掛かり捕食せんとするも、優が実力で圧倒的に上手だった為にルーミアは負傷、唯の一発の光弾で倒れた。だが、ルーミアは負傷しているどころか、以前の姿から成長し、驚異的な力を解放していた。
ルーミアの解放に伴い、優の体にも異変が訪れる。原因不明の激痛が優の全身を襲う中、ルーミアは容赦無く弾幕を展開する。それでも優は激痛に苦しみながらもルーミアの弾幕を回避し続けた。
しかし、優の全身に現る激痛は遂に頂点に達し、優を今迄に無いほど苦しめる。ところが、優の全身に響く激痛が心臓のゆっくりとした鼓動に同調し始め、途端激痛は和らいでいき、優自身の力の領域が押し広がった。
トドメを刺さんとするルーミアに、優はたった一撃の拳で圧倒した。が、優は何と、拳の一撃で重傷を負ったルーミアを自身の力、"波動"で癒し、その場を去ったのだった。
優が戻った頃には仲間二人の闇は晴れ、三人は対面した。そして仲間二人は優の明らかな力の違いと目の色に気が付き、それを問い掛けた時、優は確信しつつ答えた────
『俺の新たな力だ──』
力の名は超化、秘められた力を目の虹彩が金色に変わるほど解放する。その際に優の全身から金色の波動が闘気のように吹き出し、周囲に向けて波動の波紋が走り、触れたもの全てを薙ぎ払う。
新たに目覚めた力で、優は茜とアントニオンと共に、改めて元凶の紅い館に向かう。しかし、優達は道中少しばかり厄介な相手と巡り合う羽目になるのだった……。
────────────
ルーミアと遭遇した森林から離れ、次に優達が訪れたのは、何故か不思議と霧が立ち込める湖。肌寒さを感じる霧の中には僅かにダイヤモンドの如き煌めきが見えた。
「優さン、この霧、奇妙ですネ」
「確かに奇妙だな、ただの霧なのに何で肌寒いんだ?」
アントニオンは湖に立ち込める濃霧を見て言った。紅い霧だけならまだしも、ただの濃霧が湖に蔓延している事に奇妙さを感じ、またアントニオンには、濃霧の正体がわかっていた。
「この濃霧は、氷霧と言われる、微細な氷の結晶が大気中に浮遊する現象でス。ダイヤモンドダストと少々似ていますが、微細な氷の結晶が降り注ぐか、空気中を漂うかの違いでス」
「でも、このヒョウム? が、何で奇妙なの?」
「そこでス! これは本来、寒冷な地で主に観測される現象ですが、この場合、あり得ませン。博麗神社に居た時の温度は37度でしたが、紅い霧が現れた事によって太陽光が遮断され、温度は26度にまで低下しましタ。しかし、たった26度の涼しい程度の気温では、このような氷霧は見られませン。と言う事は、怪しいのはこの湖。更に決定的証拠として、湖に近くなるにつれて気温が徐々に下がっていき、現在、僕達の居る湖の気温は、−9度にまで下がっていまス! エルニーニョなどの異常気象を持ってしても、ここまで気温が低く、且つ限られた空間にだけ発生するのはどう考えてもおかしいでス、何者かが手を加えているとしか思えませン」
ここまでの思考を巡らせて得た結論は、常人ならばアントニオンに『お前は何を言っているんだ』の一言くらい飛ばすだろう。だが、優と茜はアントニオンの考察に納得していた。あり得ない日常を体感して来た彼等だからこそわかるのだ。
「しかし、この現象の正体は一体──んッ!?」
アントニオンの考察に納得して、更に考察を深めようとしたその時、優は何者かの気配に気付き、そのシルエットがハッキリわかるほど強く感じ取っていた。
「小さい体格……羽根? 女の子……? 冷気────氷ッ!!?」
優が感じ取ったシルエットは6〜7歳程の小さい身長、頭にリボンが着いていて、背後に羽根らしき左右3枚ずつの尖った物。そして何より、シルエットから流れてくる体の芯まで冷えそうな白い冷気が見え、確信を得た。
「そこに居るな寒気の正体。お前の全身から見えるほど出てる冷気、そして冷気に混ざった攻撃性が丸見えだ。霧に乗じて奇襲するつもりだったか?」
その直後、優の背中に向かって飛んでいく先端の尖った数本の飛来物。攻撃の存在に気付いた優はアントニオンと茜の肩を突き飛ばし、振り向きながら数本の飛来物を素手で掴んで止めた。
優の掴んだ飛来物はゴツゴツして歪な形を成しており、冷たく、手の温度で少し溶けていた。優は全身から青い色の波動を爆発的に放ち、湖の氷霧を消し去り、また湖の気温を元に戻した。
「うわっち! あちちッ!」
優の数十m先の真正面に水色を基調とした服を着た青い髪の少女が居た。シルエットの通り、リボンを頭に身に付け、尖った左右3枚ずつの羽根があった。
「あっ! 目の前にヒョウムの正体と思しき少女発見!」
「優さン、間違いありませン。少女の周囲の気温だけ異常に低いでス!」
「遂に姿を現したな、妖精とか言う何かそんなアレなんだろ。つか、俺を殺す気だったな、お前……!」
少女を見つけて第一声を放ったのは茜、続いて冷静に分析しつつ少女の状態を素早く把握するアントニオン。最後に少し怒り気味の優が言葉を放った。
優は素手で掴んでいた先端の尖った飛来物を握り潰した。握り潰された飛来物はバラバラに砕け、太陽光を反射してキラキラと輝きながら落ちていく。
「あ、あたいの攻撃を止めるなんて、や、やるじゃない……おま、えぇ……」
気を大きくして優達より強いと少しでも威張りたかったのか、少女は偉そうに言葉を放った。しかし、優の飛来物を砕く姿に驚愕し、途中から言葉が弱々しくなっていった。
「さっきの飛来物は氷、ならあいつは氷の属性。あまり触れなきゃ凍傷にならずに済みそうだが」
「優さン、ここは僕に任せてくださイ」
これから妖精の相手をしようとする優の前にアントニオンは腕を出して制止した。確かに、アントニオンはアンドロイド、ならば灼熱や極寒に対して気にせず有利に動ける。
「大丈夫? 相手は小さいけど割と侮れないかもよ?」
「心配要りませン、二人は先に紅い館に向かってくださイ! 恐らくもう少しで到着する距離でス」
「わかった。ちゃんと後で来いよアントニオン!」
優と茜はアントニオンの無事を祈り、紅い霧の濃い方へ向かって飛んでいった。アントニオンは手を振って二人を見送ると、即座にチルノの居る方向に向き直り、ニッコリ笑った。
「さぁ、ちょっとだけ遊びましょうカ? 話に聞く『ごっこ』デ。御心配無く、僕は人間ではありませんかラ」
「何を言ってるかわかんないけど、あたいは強いぞ、人間!」
勢いを取り戻した少女は意気揚々としてアントニオンに目掛けて飛びながら両手の平を突き出し、氷の針を大量に射出する。これにアントニオン、それは読んでいたと言わぬばかりに表情を明るくした。
「そうですカ、それは実に楽しみでス。ですが、僕はもっと強いですヨ!」
アントニオンは自身のコメカミに人差し指を当てると、瞳に黄色い光が集中し、直後に放出。黄色い光線は少女が出した氷の針に正確無比に直撃し、続けて連続で撃ち出して一瞬で全て蒸発させた。
「僕はアントニオン・ライブラリー。アンドロイドでス。あなたの名前を伺ってもよろしいですカ?」
これには少女も仰天せざるを得なかった。少女は彼を、アントニオンを唯の人間と見ていた故に、油断し切ったその心を撃ち破るが如くアントニオンの目から撃ち出された光線は見事少女の脳内を掻き乱した。
「あ、あ……あたいは、チルノ…………あたいはチルノだッ!」
しかし、アントニオンの光線は同時に少女の、チルノの闘争心を掻き立たせた。言葉に勇気を込めて自分の名を名乗り、全身から冷気を放出し始める。
また気温が下がり始めた、アントニオンは自分の視界に映る温度メーターを確認した。しかしアントニオンは超精巧に造られた『心』のある超高性能アンドロイドなので、体温維持装置くらいはある為、そう易々と肌が凍ったりはしない。
故にいつ、如何なる時も万能なのだ。
「くらえ!」
叫んだと同時にチルノは氷柱状に先端の尖った氷を全体にばら撒くように放った。拡散しながら自身に向かってくる氷柱をアントニオンは足の底のジェットブースターの出力を上げ、避けるのでは無く高速で前進した。
前進したアントニオンは丁度良い位置で体を後ろに反らし、宙返りを行う。宙返りによって足の底のジェットブースターの噴射が勢い良く飛び出し、炎の壁が如く迫り来る氷柱を押し退けるようにして蒸発させた。
「うわっつぁっちっちッ!!?」
ジェット噴射による炎の壁は氷柱の全てを薙いだ後、暫らくして消えていったが、余韻の熱風がチルノを襲う。実は宙返りの瞬間、ジェットブースターの出力を最大にした為、宙返りの間だけ噴射が最大だったので炎の壁を形成するに至ったのだ。
チルノが熱風に苦しむ最中、アントニオンはその隙を突いて急激に前進、気が付く頃にはチルノの目と鼻の先にアントニオンの余裕の表情があった。熱風を必死に防いでいたチルノにはアントニオンが一瞬で接近して来たと錯覚したに違いない。
「いつの間に!?」
「隙だらけですヨ、チルノさン!」
アントニオンはそう言うと足の底をチルノに向けてジェットブースターの出力を最大にした。容赦無くジェット火炎が噴射され、氷が蒸発してるのか、蒸気が蔓延し出す。
さすがにこれ以上は危ないと踏んだアントニオンはジェットの出力を下げ、チルノから遠ざかった。この蒸気、確実にジェット噴射は当たった、間違い無く。
「少々やり過ぎましたカ? 無事であれば良いのですガ……」
チルノの安否を気にするアントニオンだが、その考えは無意味だった。アントニオンが蒸気に少しだけ近づいた直後、蒸気の中から冷気と同時に先ほどのような氷柱が無数に飛んで来た。
「氷符『アイシクルマシンガン』!」
今度の氷柱は先ほどのようにかなり広範囲に拡散するのでは無く、狭範囲にほぼ直線を描いて飛ぶ。油断していた上に意表を突かれた攻撃に驚き、アントニオンは右肩と右胸を氷柱に刺された。
「オウ゛ッ!?」
自身の体内から空気が抜けるかのように呻き声を出すアントニオン。何故だ、確実に攻撃は入った筈だ、なのに何故彼女は無事なのか。
「何故、無事なのですか? 僕は確かにあなたにジェット噴射を浴びせた筈でス……」
「どうだ! お前の火をくらう時にあたいは氷のバリアを張ったんだ! 目一杯分厚くて目一杯大きいバリアを張ったからだ!」
「なるほド……」
そう、アントニオンが急速接近した時、チルノはまだ熱風を腕で払っていた。そこへアントニオンが急に目の前に現れた為、払っていた腕を反射的に自分の目の前まで動かし、その拍子で氷の盾を形成し、更に対抗出来るだけの冷気を出し続けたのだ。
故に無事、故に無傷、故にアントニオンは油断した隙を突かれ、氷柱を受けてしまった。しかしアントニオンはこの程度で手傷を負うほど脆くは無い。
「やりますネ、正直驚きましたし、危なかったですヨ」
そう言ってアントニオンは胸と肩に刺さっていた氷柱を引き抜いた。引き抜いた場所には無論服の穴が空いていたが、なんとアントニオンの肌が露出しているだけで傷一つ付いていない。
「お前痛くないのか?」
「御心配無く、先生が造った僕でス、僕の皮下装甲はマ○ンガーZも驚きの超絶特殊合金製、そしてこの一見普通の人肌に見える装甲はありとあらゆる衝撃を吸収するゴムと金属を編んで造ったような装甲なんでス。但し、皮膚装甲は斬撃に弱いのですが、あなたの氷程度なら傷付く心配は無さそうですネ」
「ならこれでどうだ! 氷符『ソードフリーザー』!」
チルノは紙札を取り出したと同時に技名を唱える。すると紙札は直ぐ様凍てついてしまい、跡を残す事無く粉々に塵々になって消えてしまった。
それからチルノは右手を握り拳から貫手に変えて下に構え、もう片方の左手で手首付近の前腕を掴んだ。直後、左手から冷気が溢れ出し、右手の前腕から氷が纏わり始める。
侵食するかのように素早く氷は右手全体を覆い尽くし、続けて氷は右手から継続的に形を更に伸ばし、数秒数える間も無くチルノの体とほぼ同じサイズの氷の剣を形成した。チルノが口にした技名の通りの剣がチルノの右手を媒介にして出来上がったのだ。
「なるほど、本気の斬撃と来ましたカ。良いでしょう、受けて立ちますヨ!」
アントニオンは余裕ある表情で身構えてチルノからの攻撃を待つ。そしてアントニオンの期待に応えるようにチルノは前進しながら氷の剣を縦に振るった。
やはりと言う具合にアントニオンはチルノの氷の剣の一振りを体を横に逸らす事で躱し、チルノの背後へ回り込む。次にチルノは振り返り、同じ縦でも斜めに、内から外へ薙ぐようにして氷の剣を背後のアントニオンに振るう。
これもアントニオンは氷の剣の軌道を先読みし、斜め軌道の時に一番避け易い剣の振り始めに向かって姿勢を下げた。またしてもチルノの背後に立ったアントニオン、今度は氷の剣に靴底を近づけ、ジェットを点火。
思い切り振るったのか、後ろ一杯まで振られたチルノの氷剣は、アントニオンのジェットにより、一瞬で刀身が半分以上も蒸発した。氷の剣が蒸発された事に驚き、咄嗟にチルノはアントニオンから遠ざかるようにして飛び退く。
氷の剣は刀身が半分以上も蒸発はしたが、即座に剣の氷が生えるようにして失った刀身を形成した。飛び退いて尚、チルノは勢いを失わず、続けてアントニオンに突進しつつ袈裟、逆袈裟に氷の剣を振るう。
当然ながらアントニオンは剣の軌道を先読み、またも避け易い位置へと移動して躱す。次にチルノは最後の逆袈裟から軌道を同じにしたまま振り直すようにして氷の剣を振り上げる。
しかしまた軌道を先読みされ、今度は斬り上げの為、一番避け易い振り終わり位置へと移動されて躱された。まだまだ、と氷剣を振り上げた状態から右へ回転し、不意を突くように右へと氷の剣を振るう。
だがまたもやアントニオンに軌道を読まれ、Uの字を描くようにしてチルノの氷剣を躱し、そこからアントニオンもチルノから距離を取った。何故だ、幾ら振っても届かない、幾ら振っても意味が無い。
何をどうやっても氷の剣が当たる気がしないチルノは諦めて氷の剣を自ら粉々に砕いた。崩れる音と共に氷の剣は粉状になって地面に落ちていく。
「なるほど、遂に勝負に出ますカ……では僕も勝負をしましょウ」
後に続くようにアントニオンも一発勝負に出ることにした。この一発で勝負を決する、そのつもりでアントニオンは右手の中指と親指をくっつけ、そっと前に出す。
チルノは紙札を取り出し、紙札の表面をこちらに見せるようにして向ける。完全なる停止世界、"パーフェクトフリーズ"を繰り出す為に敢えて。
暫しの静寂が流れた時、湖の水が一匹の蛙によって小さく波紋を作り出した。瞬間、チルノは斜め後ろ上空に飛び上がり、紙札は凍てついて砕け、次の瞬間には技名を唱えていた。
「凍符『パーフェクトフリーズ』ッ!!」
直後アントニオンの周囲を無数の色の弾幕が大量に押し寄せ、囲うようにして凍結し、その場を動かなくなった。アントニオンをしっかり捕捉し、そして逃げ場を無くす為、氷丸弾幕を五つの方向にほぼ直線距離にアントニオン目掛けて多量に放出する。
────筈だったのだが、次の瞬間……
アントニオンは笑った。嗤うかのように笑みを溢した。アントニオンはわかっていたのだ、チルノが次に出す攻撃の次に、出す攻撃の直前、必ず動きが止まる事を読んでいたのだ。
チルノは少なからず、いや、ハッキリわかった。相手は図ってなどいない、始めから単に予想をしていただけなのだと。それがどんな瞬間か、それは『これで決める!』と言う攻撃の瞬間だ。
現にチルノは氷丸弾幕を出す直前の行動を執っているが、思い切り放つが為に確実に動きが止まっている。途端、アントニオンは構えていた右手の中指と親指を素早く擦り、弾き鳴らした。
するとチルノの真下の地面から熱を放つ橙色の光が秒速何十メートルで押し寄せる。チルノは視線ごと顔も真下に移し、目前に迫る光が何なのかを理解した。
それは爆発だ、驚異的な速さで到達せんとする爆熱だ。これはアントニオンが幻想郷に来る前から使っていた、任意で狙った座標へと熱線を指から放ち、上空へと爆熱を解き放つ技。
それはまるで爆発位置を操作してるかのような、ある種スナイパーとも取れる奇妙な技。使用者であるアントニオン本人はこの技をこう呼んだ……
「『マニピュレイクラッシュ』……」
技名こそ変わってはいるものの、それは桁外れの火力を誇り、唯の人間なら一瞬食らうだけで骨身になる寸前にまで焼かれる。故にこの技には常にセーブを掛けている。
それでも火力はあまり低下せず、重度の火傷を死なない程度に負わせる事なら出来る。押し迫る爆熱を目の前に避ける事も防ぐ事すらもままならず、気が付けば昇る炎の中にチルノは居た。
再びチルノが気が付いた時には、既に勝敗が決していた。チルノはただ地面に仰向けに倒れていて、アントニオンはそんなチルノの前にしゃがみ込んで安否を気遣う。
「健康状態測定、異常無シ。重度の火傷と服の殆どを焼失、氷故か、爆発により羽根数枚と体の一部が溶解。それ以外は異常無し、ですカ……さすが、僕達とは違うだけありますネ、流石でス」
アントニオンはチルノを称賛した。その小さな体でよくぞ戦い抜いたと。遠ざかる意識の中でチルノはその言葉を耳にして、僅かに微笑んでからまた気絶した。
「──さて、そろそろ優さン達も着いている頃でしょうカ? 急ぎましょウ」
一方その頃、優と茜の二人は、紅い館の目の前まで来ていた。
「よし、着いたな。ここが話に聞いた紅い館だな」
「でも何だか殺風景にも思えるね。しかも見てよ、何か入口の前に誰か立ってこっち見てるし……」
二人は紅い館の門前、丁度入口の辺りに降りた。そこで二人が見たものは館張りに背の高い壁、それに合わせた門、そして如何にも門番らしき緑帽子の赤髪の女性が立ち尽くし、ただ一点にこちらを凝視する姿だった。
「そこの人、あなた達に問う」
女性はこちらに聞こえるような声で尋ね掛けてくる。女性と二人の間の距離は十メートル弱、声の感じから察して、こちらに対し敵意を感じる。
「何しにここに来た、まさか迷い人では無かろう、御二方」
それは疑って掛かってしかいない言葉で、ここから先は一歩も通さないと言わんばかりの迫力だ。無論、どんな迫力で押そうが二人の意志は変わりなどしない。
「ここから先を通りに来た! 俺は瀧沢 優! あんた等の凶行を止めに来た、正義の味方ってヤツだ!」
優は堂々とした態度で女性に対して名乗った。その直後、女性から向けられる敵意が更にハッキリとした。こうなったらもはや言い訳など無用だ。
「私の名は紅 美鈴、あなたがどうしてもここを通ると言うのなら、お嬢様の為にも、ここであなたを倒し、力尽くでお引き取り願うだけです」
続く
遂に到着した紅い館。その門前で構える門番、紅 美鈴。
漸く優が動き出す! その実力や如何に!?
次回、超絶で最狂の三人が幻想入り
第4話 霧の館と吸血鬼 ③
御楽しみに