第2話 霧の館と吸血鬼 ①
霧の館と吸血鬼、発展編
博麗神社前にて……
「私は八雲 紫──ですわ」
八雲 紫と名乗る女性が唯ならぬ事を優はわかっていた、先ほど相対した時、既に……。しかし、優はあの時、本来なら勝っていた、ただ力が急激に抜けた事、実はこれには覚えがある。
優達が宇宙人と闘った時、優が最後に放った技がある。その技を放った後に、優は全身から更に力が更に溢れてくるような感覚を覚え、同時に全身から力が一気に抜けて倒れかけた。
その時の状態と八雲 紫と相対した時の脱力感は優には瓜二つと言えるほど酷似した現象だった。まさか八雲 紫が原因? いや、ならばその時に身に感じた力もあった筈……。
「どうかしら? この世界の居心地は? あなたが元居た世界と比べて、力も動き易さも断然違うと思うけど」
「は? 力? 動き易さ? 何を言って……いや、確かに、この世界に来てから、突然体に力が戻ったし、それ以上にまだ力が湧いてくるようだ。体も全体が軽い」
優の体の状態は、八雲 紫と相対して脱力した時の以前より良好だった。優の状態や徐々に膨れている力を見た霊夢は八雲 紫の行動に対して良からぬ気配を感じ取る。
「紫、あんた何か企んでるんじゃないでしょうね……」
「企んでる? 何の事かしら?」
「とぼけないで」
「別にトボけて無いし、何も企んで無いわよ」
「じゃあ、私があなたから感じるこの嫌な予感はどう説明するのかしら?」
「気の所為では無くて? 私は単純に暇を持て余したスキマの妖怪ですわ」
霊夢はその赤い瞳で、紫を疑いの目で睨み、紫もその紫の瞳で霊夢の赤を打ち消すような視線を放ち、笑み混じりで睨み返す。唐突、その霊夢と紫の視線の間に今まで二人が感じた事が無いほどの強い圧を感じ取る。
二人が圧を感じ取った横方向を向くと、そこには優がただ一人、霊夢と紫を見て立っていた。更に優は自身では気付かぬうちにまた目の色を金色に変え、霊夢を驚かせ、紫を圧倒した。
「おい二人とも、喧嘩するつもりなら、俺が相手になるぞ。もしくは後にしろ、向こうに妙なモノが来ているからな」
優は鳥居の在る側の空を指で差し示し、霊夢と紫は優の指の先を見て更に驚く事になる。空には、血のように"紅い何か"がゆっくりだが、徐々に空全体に広がっていた。
「こ、これは……!?」
これに逸早く驚きを示し、声を発したのは霊夢だった。何故なら霊夢にはこの"紅い何か"に対し憶えがあるからだ、自分が一度体験して来た現象だからだ。
「紅霧! まさかレミリア、また同じ事を?!」
「あら、大変ね。でもまたあなたが解決に行くのは大変じゃないかしら? 折角だし、ここは彼等に任せてみてもどうかしら?」
「彼等? 優を向かわせると言うの!? 冗談は止して! 私や魔理沙でも苦戦した相手なのに、外来人が勝てるワケないじゃない!」
「決め付けるのはイケナイ事よ? それに、彼等はやる気満々みたいですわ」
紫が優の立っていた方向へ霊夢を向かせると、そこには優と先ほどまで倒れていた少女と背の高い少年が立っていた。少女は肩を回したり首を捻ったりなどするが、一方の背の高い少年は自分の頭を一発殴って『大丈夫でス』と言った。
「よくわからないけど、話は聞かせてもらったよ。これからその……れみりあ? とやらをどうにかするんだよね」
「だったら僕達に任せてくださイ! 僕達はこう見えて、スゴイんでス!」
「ねぇちょっと紫、この外来人達一体何やってきたの?」
「見てのお楽しみですわ♪」
「おい、誰か来るぞ」
霊夢が紫に外来人達が一体どんな事をしてきたのかを尋ねたところ、何やら楽しそうに返す紫。そこへ優が突然何者かの気配を察知して鳥居の側を振り向くと、竹箒に跨った金髪靡く少女が音速に近い速さで飛んでやって来たのだ。
「霊夢! 大変だぜ! また紅い霧だ!」
金髪の少女は古風な魔女のような服装で、どうやら霊夢とは知り合いのようだ。少女が降り立った時、霊夢以外の見知らぬ姿と見知りの姿を黄色の目で捉えた。
「何だ? 随分と集まってるな、しかも外来人じゃねぇか。霊夢、まさかこの紅霧とこの外来人に関係でもあるのか?」
「無きにしも非ずね、今のところは……」
「それより霊夢、レミリアんとこからまた……」
「それを今からこの三人に向かわせるところよ」
「そうか、なら早速……あ? おい霊夢、今私の耳には『この三人に向かわせる』って聞こえたんだが?」
「間違いなく私はそう言ったわ」
「"この三人"ってどの三人だ? 私とお前と紫の事か?」
「いいえ、この"外来人三人"の事よ」
「…………はぁぁ!?」
少女は大変驚いた、自分が知る異変解決のスペシャリストである霊夢が、何故ぽっと出の外来人を異変解決に向かわせるのか。それに対し紫も霊夢に何の否定の反応も見せない事にも。
「おいおい! 幾らなんでも外来人に向かわせるには無理があり過ぎ、いや無理なんじゃないか!? つかお前、この異変に頭でもヤられたのか?!」
少女は霊夢に駆け寄り、服の胸ぐらを掴んで揺さ振りだした。すると霊夢は少女の手首を掴んで少女の揺さぶる行動を止めて少女の耳にしか聞こえないように小さな声で話し始めた。
「私だって正直、私自身が向かった方が良いと思う。でも、今回の件は只事じゃなく紫が絡んでる可能性があるから、私は様子を見る事にする。あんたも今回は様子を見なさい。もし危なかったら私達が出れば良い」
霊夢の言葉に少女は掴んだ胸ぐらを放し、ホッとしたような安堵の表情を浮かべた。霊夢はおかしくはなってなかった、ただ怪しいのは"この三人の外来人"と"八雲 紫"だと言う事。
「なんだよ、そう言う事ならわかったよ。じゃあ私達はここで待ってるから、後は頼んだぜ」
「紫と言ったなあんた。なぁ、あの男口調の奴は?」
「彼女は霧雨 魔理沙、魔法使いだけど人間、あなた達と同じ」
「恰好の割に合わない名前してるね、私達と同じ日本人って事?」
「国籍は御想像に任せるわ。さて、そろそろあの紅霧の元凶へと向かってもらうわ。あなた達、お空は飛べます?」
「僕は飛行オプションを内臓してまス、大丈夫でス」
「私は青龍や朱雀に任せれば飛べるよ」
「俺は……」
「優はそう言えばらしい力も無いね」
「オプションも当たり前ながらありませんしネ」
「おいおい、俺を見くびるんじゃねぇぞ。今ここで飛んでやるよ!」
優はそう言うと一人目を閉じて息を落ち着ける。脳内でイメージをしてそのイメージの通りに波動や気を扱うと、直後優は開眼、全身を空中に浮かせてみせた。
「よし、上手くいった。どうだ? 悪いが文句は言わせないぜ!」
さっきまで飛ぶ事など出来なかった優が今は余裕を見せて飛翔し、簡単に旋回、急停止、急浮上、急降下、高速移動などをやって退ける姿に、一同愕然。地上と変わらない動きをする彼のこれはもはや才能なんてレベルでは無かった。
「さっすが優! 私達に出来ない事を平然とやって退けるッ! そこに痺れる憧れるゥ!!!」
「いやはや、やはり優さンあなたは凄い人ダ……!」
「この動き、まるで最初から飛べていたかのような慣れた動き……でも、察するに本当にさっきまで飛ぶ事を知らなかった。彼は一体……」
「げッ!? なんて奴だ、私だって完全に飛べるようになるまで数ヶ月掛けたってのに、こいつこの場で完全にマスターしやがった……!」
『さすが私が見込んだ通りね、あなたならいずれ必ず、この幻想郷で一番……いえ、全次元で一番強くなれる筈……そこに私は掛けてる』
「さぁ、説明するからそろそろ降りてもらえるかしら?」
優の仲間が喜んでる中で、霊夢と魔理沙の二人は優の才能に体を震わせる。そこへ紫が優に浮遊して近寄り、降りるよう伝える。
「あなた達にはこれからあの紅霧の元凶へと向かって退治してもらうわ。空から見ればわかるけど、広い湖の畔にある洋風の紅い館がある、そこが元凶。強行突破しても良し、話で何とかするも良し、あなた達の好きにして良いわ。ただし、この世界だと戦いは飽く迄遊び、弾幕ごっこ、殺さないのが基本よ。良いわね?」
「つまり、遊び感覚で手加減して戦えば良いって事だよね!」
「そんな手加減して良いならするが、相手が本気を出して来たら、こっちもある程度手段の一つとして殺さない程度に力を出して良いんだよな?」
「えぇ勿論」
「では早速行きましょウ、霧の範囲が大分広くなってきましタ」
三人は揃って意気込み、アントニオンは手の平と靴底からジェットを噴き出し、茜は青龍を呼び出して浮上し、優は先ほどの要領で波動と気を扱い、一斉に飛んで行った。霊夢と魔理沙は奇妙な眼差しで三人を見送り、紫は微笑みながらその場から姿を消した。
飛行し始めて数分、三人は紫が先ほど言っていた通りの洋風の紅い館を見つけた。早速向かおうとスピードを上げた束の間、三人の目の前が突然漆黒の闇に覆われる。
目の前だけでなく、周囲すらも闇で覆われ、一旦下に降りて地面に立つも、三人の視界は皆無になってしまった──が優は全く平気だった。何故か優の視界だけはクッキリと晴れ、闇が近づく事も無かった。
「なッ視界ガ……優さン! 茜さン! 何処ですカ!?」
「急に目の前がっ! 優! アントニ! どこ!?
「何だ? 闇が茜とアントニオンを覆って……」
「あれ〜?」
優が上を見ると、真上から両腕を広げたままゆっくりと降下してくる金髪の幼い少女の姿があった。これまた洋風の恰好の少女は首を傾げて優の目の前に降り立つ。
「変、あなたは闇に覆われない人類なの?」
「何を言って……いや、そうか。お前か、茜とアントニオンに闇を張ったのは」
「そうだよ〜。でも変、あなたにも闇を放ったのに、あなたは何故か闇に覆われない、どうして?」
そう、少女が不思議に思うのも無理は無い、優自身さえ不思議に思ったのだ。突然彼の目の前に黒い靄が現れたかと思ったら、途端弾けるようにして消えたのだ。
「さぁな? 俺もわかんねぇ」
「まぁイイか! ねぇ、一つ訊いても良い?」
「何だ?」
『あなたは食べても良い人類?』
少女が奇妙な質問をした直後、優に向かって黄色やら赤色など様々な色の光弾を少女は飛ばしてきた。突然の行為に優は驚くが、直ぐに状況を理解し、慣れない攻撃を軽々と躱してみせる。
「合図も無しにいきなり攻撃かよ、節操が無さ過ぎなんじゃないか? それともお前等はみんなこんな感じなのか?」
「楽しければそれで良いんだよ、合図なんて要らないよ」
「じゃあ俺もいきなし攻撃しても良いんだな?」
「そう……」
少女が言葉を言い終えようとする直後、青色のやや透き通った光弾が音速に近い速さで少女の眼前に迫る。あまりに突然の光弾、しかし誰がやったかそれは紛れも無く優。
だが、光弾の速さがあまりにも尋常じゃない。少女と優との間の距離は数十メートル、それもやや大声を出して普通に聞こえるくらいの距離で、その距離を光弾は一瞬で飛び越えた。
「えッ!?」
突然少女の目と鼻の先に光弾が現れた為、少女は驚くしか無く、咄嗟の行動も何とか当たらないよう頭を下げる事しか出来なかった。だが咄嗟の行動も光弾の速度故に避け切る事が叶わず、頭に被弾した。
「キャアッ!!」
「あッまずったか?! ちゃんと一番弱くしたんだがな……」
優は自分が放った青色の光弾が少女に被弾した事で心配になって如何なる危険があるにも関わらず駆け寄って行った。しかし少女は力無く倒れたまま起き上がる事が無い。
「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」
「大丈夫? しっかり? 何を言っているの? 私は今最高の気分よ……!」
「何だと!?」
「マグレかしら? 封印を解いてくれて、一応礼を言うわ、ありがとう」
優は先ほどの少女とは明らかに違うのを理解した。髪は背中まで伸び、口調に知識が溢れ出し、身長が伸びた姿に、優は驚きを隠せないと同時に、自身の体にも異常を感じた。
「うッ! 何だ、この感覚ッ……!?」
「あら、大丈夫? ま、私はあなたを食べられるならそれで良いけど。あなたを食べた後は、残りの二人も美味しく食べてあげる! 闇符『ディマーケイション』!」
少女から女性に変わった彼女は取り出した紙札を手の平に浮かべて宣言するように唱えると、紙札が光となって消えた。直後に女性は全体に向けて左右対称に女性を周回しながら広がる光弾を三段に分けて放ち、その後に優に目掛けて飛ぶ青色の光弾を複数連ねて飛ばす。
優は自身の体の突然の異変に苦しみながらも光弾を上手く引き寄せて躱し、青色の光弾も素早いステップで避けた。しかし、苦しみは優の中で更に深みを増し、耐え難いモノへと変わっていく。
「うぅッ! ああああがッ!!!」
「苦しそうね、あなた。その苦しみ、私が解放してあげるわ」
女性は髪の毛を翻し、目を鋭くすると不敵に笑い、貫手を構えて優に向かって高速で飛行する。優は腹や胸を抱えて苦しんだままで女性の迫り来る攻撃に気付かない。
そんな中、心臓が鼓動する音が間近に聞こえるほど体が緊張状態へとなり、全身がゆっくりとした心臓の鼓動に合わせて響き、体内の力が圧倒的速度で増幅されていくのを確かに感じた優。瞬間、全身の痛みが速やかに引いて行くと同時に例えようも無い、あり得ない、存在し得ない力が優の力の限界域を突き破った。
「じゃあね!」
女性が言葉を口にした瞬間、何かが潰れて、更に吹き飛んで何かに激突するような音が鳴り響いた。そしてその音から暫らく経って女性の弱々しい呻き声が聞こえてきた。
その場にはまず優が居た、ただ直立不動のままだったが、右手の拳に血がこびり付いていた。一方の女性はと言うと、何本もの木をへし折りながら数十メートル先の木で背を凭れ掛けて血に染まった鼻と口から血を流していた。
これはもはや他に考えようがない優の仕業だった。女性に攻撃される瞬間に目の色を金色に変え、顔を上げると同時に体を左下に捻り込み、回転で女性の顔面に右拳の一撃を刹那に叩き込んでいたのだ。
「い、いやぁ……! 来ないで……!! やめて……!!!」
優は右拳から血を滴らせながら女性にゆっくり、一歩一歩と近づいて行く。優が徐々に確実に女性に近づけば近づくほど女性は拒み、強く拒絶をする。
「私を殺すの?」
「殺す? いや──」
否定を口にすると優は即座に右手の平を女性に向けて緑色の波動を放つ。緑色の波動を浴びた女性の鼻や口の出血が止まり、傷が塞がり、骨折も治り、腫れも直ぐに引いていく。
「良いの? 私は妖怪、力もあなた達より優れている、いつかまたあなたを襲うかもしれないのに」
「それがどうした? 例えお前がどんな極悪な野郎でも、相手がどんな酷い奴でも、それで殺して良いって事にはならないんだよ」
「私はルーミア……あなた、いつか自分の言った事を後悔するわよ」
「どうだって良いさ、そん時はそん時、いつでも相手になってやる」
優は目を金色にしたままルーミアを背にして仲間の居る場所へと戻った。優が仲間の居る場所に戻り始めた頃、茜とアントニオンを覆っていた闇が晴れ、視界が回復していた。
「おーい、茜! アントニオン!」
「あっ! 優! 大丈夫だった!? ってあれ? 優、何か目が……」
「優さン、その虹彩の色は一体……」
「俺の新たな力だ。名前は超化だ!」
「名前早くない? まるで前々から考えてたみたいに」
「今さっき考えたばかりだが」
「そ、それはそうと、さっきの闇は一体何だったのでしょうカ?」
「さぁな? さぁ、さっさと先に行こうぜ」
「そうですネ」
「うん、行こう!」
続く
優が得た飛行能力、そして謎の力、超化……
遂にお目見え、優達の闘って来た敵のスケールを上回る強敵との"遊びとは言えない遊び"!
次回、超絶で最狂の三人が幻想入り
第3話 霧の館と吸血鬼 ②
御楽しみに