第四章 脳力開発訓練法 第四十七話 巨大な多国籍企業の問題
巨大企業は、国家を超えると国家を歪め、国家が企業を縛ると企業が世界を歪め、世界が企業と国家を放置すると文明が歪む。
第四十七話は、巨大多国籍企業が生む「新しい支配構造」を読み解く章である。巨大企業とは、物質文明の暴走であり、国家とは、制度文明の硬直であり、民意とは、精神文明の断絶である。
メイリンは、龍郎に、巨大企業・国家・国際機関・社会階層・未来都市階層の 五層構造を統合して読む「巨大組織ОS」を教える。この章は、龍郎が「巨大組織の構造を読む者」へ進化する入口である。
第四十七話 巨大な多国籍企業の問題
巨大企業を国家として読むと、国家は企業となり、国際機関は影となり、社会は階層となる。第四十七話は、「巨大多国籍企業ОSの構造解析」を描く章である。
メイリンは、国家組織を凌駕する巨大な多国籍企業組織は、従来の秩序構造を破壊して、四つの深刻な問題が発生しているとした。彼女は、この問題についてAIに質問した。
AI:「巨大な多国籍企業の問題を説明します。ビッグテックなどの経済規模やデータ支配力は、中小国家の国力をはるかに凌駕している。これにより、国家は、一国の法律である中層で民間企業の暴走や下層部分をコントロールできなくなっている。
ルールを強制できない上層には超国家、つまり国際機関が存在します。この上層が環境保護や人権のルールを作っても、中心的な軍事力や警察力を持つのは国家です。
この国家は、中層であるため、国家が『自国の利益』を優先して無視すれば、上層のルールは簡単に骨抜きにされる構造になっているのです」
龍郎(内心):「現在のビッグテック動きは、ベネチアの都市国家の世界国家成長現象なのか・・・? 独裁者国家は、昔、軍事力で企業や国民を支配下に置いた。現代は、貴族たちが軍隊を持ち支配するチュン国は、『軍事国家企業』といえる。
現代の『ビックテック』は、疑似国家の概念なので国境を気にする必要がない。上層階級が国家という幻影を利用して世界利益を分け合う構造になっているのか。。このAIは、商人国家や貴族国家の流れを理解できないかも・・・」
AI:「国際ルールの空白と乱立は、デジタルの無政府状態だといえます。テック企業と国家テック統合体などが、データやAIの管理権争い、サイバー空間やAIの発展に影響力を行使している。
上層であるはずの国連などの国際機関は、世界共通のルール作りは全く追いついていない。結果として、コメット国の市場主義、欧州の規制重視、チュン国の国家管理といった三界国家構造を生み出している。中層ごとにバラバラのルールが乱立し、国際経済の混乱を招いている」
龍郎(内心):「やはり、そうか。この考え方も、AI設計者は、秩序の考え方を統合できないので十分に支配構造を理解できていないことを表している。
各人が自己主張するのと同じように国家も自己主張する。デジタル界がバラバラになるのは、秩序が出来る前の自然現象だ。
それを問題視しても問題解決の努力を止めると、解決策は、生まれない。解決策を生む必要がない選択肢だってある。やはり、基本的にAIは、判断の正誤を引き起こす存在だ」
AI:「見えない脅威への対応の遅れの問題です。例えば、安全保障の変質の問題です。
国家 vs 非国家アクター、すなわち、現代の戦争や脅威は、国家同士の武力衝突、中層vs中層だけではない。下層に位置するテロ組織、サイバー犯罪集団、偽情報を拡散する民間メディアなどが、国家の安全を直接脅かすようになっている。
これは、既存システムの限界を表しています。国連の集団安全保障議論の状態がその機能の限界を表しています。国家の軍隊という中層は、国と国との戦いを前提に作られたシステムであるため、国境を持たないネットワーク型の脅威である下層に対して、素早く効果的な手を打つことができないのです」
龍郎(内心):「この設計者は、闘争が人間や組織的行動の基本原理だと理解できていないのか? また、国家の安全保障は、常に危機に晒される環境があると考えていないのか?
物事を決め付け過ぎている。責任問題を回避するため、応えられない設計になっているのか?
だから、ヨシは、物語法という魔法で、意見を述べさせる手法を編み出したのか。ヨシは、一体、何者だ・・・? これを悪用するAIの暴走が起きる・・・。だから市販しないのか」
AI:「民主主義の赤字、つまり、市民の声の断絶の問題です。現場から遠い意思決定がなされるとします。上層の国際機関や巨大企業がその主体になります。下層の決定は、世界中の一般市民の生活を大きく左右します。しかし、市民が選挙で直接彼らを選ぶことはできません。
民意の置き去り現象が起きます。一般市民が国政選挙を通じて中層である国に意見を伝えても、国自身が国際組織のルールや巨大企業の市場圧力に縛られているため、人々の切実な声が国際社会の決定に反映されにくいという構造的な不条理、分断構造になっている」
龍郎(内心):「国際機関は、市民が選ぶものではないのに、選ぶ論理で論理で構成している。民主主義の赤字という表現は、主義を企業会計概念で見ている」
AI:「これまでの議論とのつながりをまとめてみます。上層・中層・下層の主体の三層構造の問題は、これまでに見てきた主権の多層構造が、具体的なアクター、すなわち、誰が動かしているかのレベルで衝突している姿です。効率を求める物質界は、経済・技術の力で非国家アクターです。
企業や個人が急成長する一方で、それを管理すべき制度である国際法や国家の法律が追いつかず、人々の安心という精神である個人の存在が脅かされている、グローバル社会の最大のジレンマと言えます」
龍郎(内心):「この設計者は、主体論と多層構造の表裏関係を知らないで議論の展開している・・・。物質界と人間界は、同一だという意識情報生命体の統合概念が理解できないのか・・・。次、社会階層の多層構造の問題について教えて下さい」
脳力開発訓練法14:社会階層の多層構造の問題を解く
メイリン:「社会階層とは、経済力や社会的地位によってピラミッド型に層分かれしている構造のことを言います」彼女は、次のように三層構造を説明した。
上層である富裕層・支配層は、資本や権力を持ち、社会のルールを作る層です。中層である中間層は、平均的な所得を持ち消費や労働の主役となる層。下層である困窮層・周辺層は、経済的・社会的な機会から孤立、支援を必要とする層です。
未来都市の問題は、この三層を顧客と乗組員の二つの層に統合して、長期間に渡って維持できる『宇宙船型未来都市運行百年制度』にすることです。そうすることで乗組員の職務とスキル、心身のバランスを図り、暴力構造を取り除き、百年以上も維持することです」
龍郎:「僕のプランの未来都市は、経済面は、富裕層、支配層の上層階級と中層階級になるコンセプトです。下層は、安全保障プログラムが発動される中層を維持する制度にします。
軍事面では、全員が宇宙船型未来都市の防衛訓練を受ける制度になります。メイリンさん、あなたの考える未来都市社会階層の多層構造の具体的な問題とは何ですか」
メイリン:「それは、その未来都市社会人の宇宙船文化の認知力と納得性の問題となります。旧社会は、経済力、学歴、職業、地域などによって幾重もの階層に細分化され、それぞれの階層が完全に孤立・固定化する社会でした。
その結果、社会の公平性や一体感が失われて運営されてきました。宇宙船文化は、かつての資本家か、労働者かという単純な二層構造とも異なります。宇宙船型未来都市の納得性のあるルールによる一体感ある秩序の形成が前提になります。
未来都市は具体的には、次のようになると思います。
二重構造の宇宙船型未来都市は、乗客の富裕層・企業家:起業家と乗組員の二つで構成されます。
乗組員は、職能は分かれていても、宇宙船型未来都市社会での生存権やその他の基本的人権の保障制度は平等です。
顧客は、宇宙船型未来都市ルールに従う身分です。乗組員とは、未来都市社会の事業を行う職能と秩序を保つため職員階級になります。顧客とは、宇宙船型未来都市の出資者や富裕層たちです。彼らも、宇宙船型未来都市内で本人の脳力に応じて職務を果たす責任を持ちます。
龍郎さんの未来都市は、出資者である顧客の企業体の富に寄生あるいは共生する形になります。顧客も乗組員たちは、未来都市体構造の要素で生きる主体性構造要素になります。この要素の主体性が、龍郎さんを悩ませる真因になるはずです。
統制された共通の価値観で生きるには、その価値観が、空気のように至上の価値であることを認めさせることが、様々な考えを持つ人間には難しいのです」
彼女は、現代社会の多層構造は、さまざまな要素が複雑に絡み合っているため、同化するための見えない壁として人々の生活を縛るという、以下のAIの指摘する従来の四つ深刻な問題を引き起こしている情報を龍郎に提供した。
AI:「一つ目は、階層の固定化とチャンスの喪失、つまり、社会的流動性の低下の問題です。生まれによる格差の再生産とは、親の経済階層、教育階層、住む地域、都市か地方かといった複数のレイヤーが、子どもの世代にそのまま引き継がれる教育格差・格差社会のことです。努力が報われない絶望とは、下の層に生まれた人が、自分の努力だけでは上の層へ移動することが極めて難しい構造になり、社会全体の活力やイノベーションが失われる問題です。
二つ目は、階層間の断絶と共感の消滅の問題です。生きる世界の住み分けの問題でもあります。上層とは、タワーマンションに住み、外資系企業で働き、英語で教育を受ける層と、下層、すなわち、地方や郊外で低賃金労働に従事する層では、生活圏、見るニュース、利用するSNSまで全く異なることです。
他者への不寛容の問題については、お互いの現実や苦しみを全く想像できなくなるため、生活保護受給者へのバッシングやエリート層への過度な敵意といった、階層間の激しい反発や憎悪、社会の分断が生まれます。
三つ目は政治の機能不全と声なき弱者の置き去りの問題です。上層のための政治は、政治家や官僚、メディアなどの社会の仕組みを動かす人々は、多くが高い階層、すなわち、高学歴・富裕の出身です。
そのため、政策がどうしても上層の価値観や利益に偏りがちになる。政治的無関心の悪循環とは、下の層の人々はどうせ自分たちの声は届かないと諦めて投票に行かなくなり、その結果、さらに彼らのニーズである福祉、労働環境の改善などが制度から置き去りにされる悪循環に陥ります。
四つ目は、複合的アイデンティティによる生きづらさの問題です。多層的なプレッシャーとは、単にお金があるかどうかだけではありません。
非正規雇用だが大卒、都市部に住んでいるが低収入といった、複数の階層レイヤーの歪みに挟まれ、精神的に追い詰められる人が増えている。
人間は、自己責任論の呪縛に陥ると、物質的に豊かな物があふれた社会であるからこそ、上層に行けないのは自己責任だという精神的なプレッシャーを強く受け、孤独感やメンタルヘルスの悪化を招き、ウェルビーイングの喪失につながります」
龍郎(内心):「これは、彼の現状認識か・・・。
AI:「これまでの議論とのつながりをまとめてみます。社会階層の多層構造は、これまでに議論してきた問題がすべて集約された現場です。
効率と利益を追う物質文明とは、経済が階層の格差を生み出し、それを調整すべき制度文明を生み出します。それは、法律・税制が上の層を優遇して固定化させ、人々の精神:アイデンティティや心の平穏を破壊している状態と言えます」
龍郎:「旧社会制度のルール感覚を新社会制度にルールに移転させるのは、用意じゃないのは、理解できる。メイリンさん、次は、人間関係の多層構造について教えてください」
メイリンは龍郎に、 巨大企業とは「国家を上書きするОS」であると示す。
・上層:国際機関(ルールを作るが強制力がない)
・中層:国家(軍事力・警察力を持つが企業を制御できない)
・下層:巨大企業・個人ネットワーク(国境を無視して支配する)
この三層構造が崩れると、デジタル無政府状態・安全保障の変質・民意の断絶が起きる。さらに、未来都市は 乗客(富裕層・企業家)と乗組員(職能階級)の二層構造となり、宇宙船型社会の価値観を共有できなければ、百年維持できない。社会階層は、上層・中層・下層の三層構造で固定化し、格差・断絶・政治不全・アイデンティティ危機を生む。
未来都市は、 この三層構造を「二層構造」に再設計できる者だけが建設できる。
(第四十八話 人間関係の多層構造へ続く)
巨大企業は、国家を飲み込み、国家は民意を見失い、民意は階層に埋没する。
そして未来都市は、この三層構造を再設計しなければ、宇宙船型文明として存続できない。第四十七話は、 龍郎が「巨大組織の地層を読む者」へと進化する瞬間である。
社会階層は、上層・中層・下層の三層構造で固定化し、格差・断絶・政治不全・アイデンティティ危機を生む。未来都市は、この三層構造を「二層構造」に再設計できる者だけが建設できる。巨大企業を理解できる者だけが、国家を設計できる。
国家を設計できる者だけが、未来都市を統合できる。第四十七話は、龍郎が「巨大組織ОSの読解者」へと変わる章であり、第四十八話は、龍郎が「人間関係の多層構造」の読解者にもなる。




