剣の使い方
――数秒の沈黙。
捜査会議室の空気が、張り詰めたまま止まっていた。
その沈黙を、香山が破った。
「......では。」
ゆっくりと視線を巡らせてから、淡々と言う。
「上野悟楼は解放しましょう。
これ以上、拘束を続ける理由がありません。」
その言葉に誰もが納得した。
――数分後
捜査会議が終わり、捜査員が続々と退出していく。
ただ一人を除いて。
坂堂はひとり、机に顔を伏せて、先ほどの失態を引きずっていた。
そんな坂堂の背中を上倉が叩き、買ってきた缶コーヒーを渡した。
礼を言う声に力が入らなかった。
それに気づいているのかいないのか、上倉は場違いなほど軽い調子だった。
「いやー、さっきはやばかったなぁ。」
「ちょっ、助けてくれても良かったじゃないですか!」
そんな上倉に小さく苛立った。
「わるかった、わるかった。」
しかし、笑って誤魔化すだけである。
そんな二人を割くように、上倉の携帯が鳴った。
上倉は、画面を見て数秒止まり、表情を固くして電話に出た。
そんな上倉を見て坂堂は覚悟した。
「はい、上倉です。」
『香山刑事部長がお呼びだ。』
「......はい。」
相手は下田刑事部長だった。
――刑事部長室前
ドアの前で下田が二人を待っていた。
「君たちは自分が何をしたか分かっているのか?上はもうカンカンだぞ!」
「すみませんでした!」
凄まじい剣幕の下田に、坂堂は深々と頭を下げるしかなかった。
しかし、上倉は微動だにしなかった。
「上倉?」
「すみません。」
「はぁ、どうして私に報告しなかった。」
「ついうっかり。」
上倉はわずかに頬を緩ませていた。
この場でなぜそんな調子で入れるのか、坂堂には理解ができなかった。
「うっ!...うっかりって君は...あーもいい!」
反省の色が見えない上倉に、下田は呆れた。
「とりあえず、今はこっちだ。くれぐれも、失礼のないようにな。」
下田は、そう二人に釘を刺して扉を開けた。
「すみません。お待たせしました。」
「あー!お待ちしてましたよー!」
中に入ると、香山刑事部長はコーヒーを淹れている所だった。
意外にも機嫌が良い香山に、坂堂は一瞬固まった。
「どうぞ。座ってください。」
二人は促されるようにソファーに座り、コーヒーが差し出された。
それに続くように下田も移動するが――。
用意されたコーヒーは三つだけだった。
「あ、下田刑事部長は席を外していただけますか?」
「え、どうして?」
「すみません。ありがとうございました。」
「――ちょっと!」
下田は、半ば強制的に外へ出されていた。
坂堂は、下田刑事部長の扱われ方に、口をあんぐりと開けて呆気に取られていた。
二人の前に座った香山は、しばらく上倉を見つめたまま、何も言わなかった。
そんな香山に、坂堂は背筋が冷えるのを感じた。
「......言わなかったんですね。」
「すまん。言ったところで、高が知れてたからな。」
「......すみませんでした。」
坂堂は頭を下げた。
それを見て香山は、前屈みになり手を組んで優しく微笑んだ。
「いや、私は...
上倉さんのそう言う所、すごく尊敬してます。ただ、
俺には言ってくれても良かったのに......って、ちょっと拗ねてるだけです。」
それに上倉もつられて微笑んだ。
坂堂はひとり、蚊帳の外に置かれていた。
その頃――
荒川署の留置所から、上野悟楼が釈放されていた。
「え、どうして......。」
蹲っていた上野は、留置係の声と共に顔を上げた。
「もしかして犯人捕まったんですか?」
上野がそう問いかけても、警官は何も発せず、職務をこなすだけであった。
そして、坂堂は香山に尋ねた。
「あの......釈放される、上野悟楼さんにお話伺ってもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。今、荒川署で手続きを行なっている頃でしょうから、連絡を入れておきますね。」
「ありがとうございます。」




