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詳細鑑定しかできない勇者、魔王を戦わずに討伐する

作者: 唯野丈
掲載日:2026/01/27

1/28 デイリーランキング48位

異世界転生/転移〔ファンタジー〕 -短編部門 

応援していただきありがとうございます。


1/28 誤字脱字を修正しました。

 俺の名前は佐藤一郎。成績も普通、スポーツも普通。ごくごく普通の男子高校生だ。

 

 その日は新作のゲームを買いに行った帰りだった。待ちに待ったポケッ○モ○スターの新作。ルンルン気分で帰路に着く途中、地面に魔法陣が展開され、光に包まれた。


◇◇◇


 目を見開くと、そこは豪華な調度品に囲まれた玉座の間だった。


 俺を含め、同年代の男女がざっと10人程度落ち着かない様子でキョロキョロしている。


 すると、金髪碧眼、白磁のように透き通った肌の絵に描いたような美少女が部屋に入ってきた。


「勇者様、どうか我が国をお救いください」


 どうやら、美少女はこの国の王女らしい。


 説明もテンプレ通り。魔王がいて、世界が危機で、異世界召喚。


 正直、聞き流していた。

 

 「それでは、ステータスを鑑定させていただきます」


 うん。完全にテンプレだ。


 順番に鑑定していく。剣術の加護だの、四属性魔法適性だの、千里眼だの強そうなチートスキルが次々と出てくる。

 

 そんな中、


「こちらが、勇者様のステータスです」


 鑑定用の水晶の中に、文字が並ぶ。


 ――レベル1

 ――スキル:詳細鑑定


 地味だな、と思った。

 だが次の瞬間、文字が“増えた”。


 通常なら一行で終わる説明が、十行、二十行と展開される。

 注釈、条件、例外、相互作用。


 ……なるほど。

 鑑定というよりむしろ仕様書だな。


 俺は、少しだけ笑った。


◇◇◇


 その日、冒険者ギルドは、騒がしかった。

 王国が異世界召喚を敢行し、勇者を10人も召喚したからだ。勇者パーティに入り、魔王を討伐すれば、富と名声が手に入る。

 勇者パーティ入りを目指して、王国中の冒険者がギルドに詰めかけていた。

 

 強そうな奴、人気者、実績持ち。

 誰もが“分かりやすい強さ”を持っている冒険者はスカウトされていくが、俺は焦らない。

 

 詳細鑑定は、本人も知らない情報すら開示する。まぁ、たまに見たくもない情報も見えてしまうが。


 一人の神官が目に入る。

 手足も細く、いかにも気弱そうな女の子。

 気後れして他の勇者に声が掛けれないようだ。


 本人が手にしているギルドが発行したステータスカードを見せてもらう。


名前:リーネ

職業:神官

レベル:12

 HP:F

 MP:F

 筋力:F

 魔力:A

 スキル:回復魔法


 うん、弱いな。

 念の為、詳細鑑定発動。顔が好みのタイプだから、覗き込みたくなった訳ではない、よ?


《鑑定結果》

 

名前:リーネ(14歳)

職業:神官

レベル:12

 HP:80

 MP:80

 筋力:30

 魔力:150

 スキル:回復魔法(他者:初級、自己:上級)

 魔力放出効率:F

 魔力変換効率:A

 詠唱速度:遅

 性格:極度の怖がり、人見知り

 恋愛傾向:白馬の王子様が来ると信じているタイプ。

 身長:159cm

 体重:41kg

 スリーサイズ:B72、W54、H76

 性感帯:…


 慌てて、詳細鑑定を切る。流石に少女の性癖を覗き見るのは倫理的に良くないだろう。

 出来ればこの子と旅をしたいな。顔が良いし。ただ、このステータスって…

 

……

………


 一旦、少女の元を離れて、会場を見渡す。

 誰にも話しかけられていないオッサンが会場の片隅で酒を煽っている。まずはステータスカードを確認。


名前:シグレ

職業:魔法使い

レベル:30

 HP:F

 MP:C

 筋力:F

 魔力:B

 スキル:精神魔法


 あれ?売れ残ってる割には強いんじゃね?

 詳細鑑定発動。


《鑑定結果》


名前:シグレ(32歳)

職業:魔法使い

レベル:30

 HP:20

 MP:100

 筋力:15

 魔力:160

 スキル:精神魔法(特級)のみ

  「混乱」、「認識阻害」、「幻覚」、「狂化」

 固有特性

 「ダメージコンバータ」

 HPにダメージを受けた際に、最大MPの10%分MP回復

 痛覚耐性:強

 被ダメージ:増

 好みのタイプ:守ってあげたくなるか弱い乙女

 好きな下着:ふんどし。締め付けたいタイプ


 ふむふむ、なるほど?全く要らない情報が時折混ざっているが、良い感じ。

 魔法体系については、事前に王宮魔導士からレクチャーを受けた。

 その中でも精神魔法の成功確率は相手の抵抗値に依存。相手に敵意があると、ほぼ掛からないと言って良いほど使い勝手が悪いが。

 

 これは、いけるかも。

 

 後は、最後のピースが足りない。可能な限り攻撃力が低い人がいないかな?


……

………


 辺りを見渡す。

 すると、明らかに屈強そうなムキムキの女性。

 あれは!?伝説のビキニアーマー!?

 合理性のかけらもないビキニアーマーを装備するなんて、どういう人なんだろう。


《詳細鑑定結果》


名前:ミザルーナ(26歳)

職業:戦士

レベル40

 HP:200

 MP:20

 筋力:252

 魔力:0

 装備:

 「呪いのビキニアーマー」

 高い防御性能の代わりに、全ての攻撃がダメージ1(固定)になる。一度装備したら最後、他の装備の効果を全て無効化する。

 固有特性:成長速度極大(筋力のみ)

 精神耐性:大

 身長:176cm

 体重:70kg

 スリーサイズ:B99、W85、H103

 恋愛傾向:恋に恋する乙女。そのせいで処女。

 性感帯:…


 おっと、またスキルが横道に逸れ始めた。何なんだろうこの詳細鑑定スキルは。俺の欲求不満か何かを参照してるのか?

 

 まぁ、良い。全てのピースは揃った。

 後は、残った奴らを一通り詳細鑑定で見てから、特に良い人材がいなければ、パーティメンバーは彼らで決定だな。


◇◇◇


 かくして、俺のパーティメンバーが決定した。

 神官リーネ、魔法使いシグレ、戦士ミザルーナに加え、一応、勇者の俺。

 

 世間からのパーティの評価は最悪だった。

 それはそうだろう。

 弱い回復魔法しか使えない神官。攻撃魔法の使えない魔法使い。同じく攻撃手段のない戦士。これで評価される方がおかしい。

 だが、実戦ではそうじゃなかった。


「あははっ!楽しいですねぇ」


 顔の良い少女リーネが笑いながら槌を振り回す。その度に、顔面が潰れていくモンスター。

 リーネに傷が付こうとも、その瞬間に自動回復。


 そのはるか後方。

「はぁ、はぁ……いい、いいぞミザルーナ! もっと、もっと魂を込めて私を打ち据えてくれ!」

 シグレが頬を染めて悶える。……ダメだ、こいつ。一線を超えている。

 ミザルーナも同じ感想を抱いているのであろう。殴りながらも顔が歪んでいる。

 

 やがて、周囲で生きているモンスターはいなくなった。


「よし!戦闘終了!今日も完璧だ!」


 戦闘というか、虐殺だけど、まぁいっか。


◇◇◇


 さて、何が起きていたのか解説しよう。

 

 神官リーネは、詳細鑑定で見た通り、極端に魔力を放出するのが苦手な娘だ。だから回復魔法を他人にかけると威力が激減する。だったら、自身にかけてしまえば良い。強化魔法も同様。


 ただ、彼女は戦闘に不向きな性格をしている。強化魔法や回復魔法があるからといって、モンスターを倒せるようにはならないだろう。

 だから、魔法使いシグレに「狂化」を掛けさせた。

 精神魔法の問題点はレジストとMP消費。

レジストに関しては、リーネが受け入れれば良い。弾かれるようなら、何度も何度も掛け直せば、確率論的にそのうち掛かる。


 精神魔法の大きな欠点である常時魔力消費は、シグレの固有特性で何とかなった。

 端的に言えば、彼は殴られればMPが回復する。

 問題は、彼が紙耐久なこと。普通の冒険者が殴ったら、数発で死んじゃう。

 その点、ビキニアーマーさんの呪いは素晴らしい。どんなに殴ってもダメージは1固定。


 我ながら完璧なコンボだ。

 唯一の誤算は…

 俺はため息を吐きながら、頬を赤く染めたシグレに詳細鑑定をかける。


《鑑定結果》


 好みのタイプ:筋肉質な女性

 性癖:筋骨隆々な女性から手加減なしに殴られること


 …シグレの性癖が歪んでしまった。

 世界を救うためだから、まぁ、いっか。


◇◇◇


 俺たちは、前評判を完全に覆して、一番先に魔王城に辿り着いた。


「リーダー。この巨大な門、動かないですね…どうしましょう」

 

 俺の背後に隠れながら声をかけてきたのは神官リーネ。

 リーネは、あれだけの殺戮を繰り返し、今や敵味方から、畏敬を込めて「血濡れの気狂い神官」と呼ばれてるのにも関わらず、いまだに出会った時と変わらず、引っ込み思案で怖がりだ。カワイイ。


 俺は門に対して詳細鑑定をかける。


《鑑定結果》


「魔王城正門」

 招かねざる者を拒否する魔王城の正門。

 物理オブジェクト。破壊不可。

 強力な封印術式が施されており、門を開けるには、各地にいる魔王軍四天王が所有するオーブを集め、門の台座に設置する必要がある。

 

 ふむふむ。なるほど。


「ミザルーナさん。ちょっと」

 門扉を見分していたミザルーナさんを呼び戻す。


「何だ?勇者よ」


「これ。装備して」


「…は?」


「だから、これ、装備して」

 門を指差しながら、再度言う。


「出来るわけないだろうが!」

 顔を真っ赤にして怒るミザルーナ。


「全く、我儘だなぁ。ミザルーナさんは。シグレ!言わなくても分かるよね?よろしく」


「御意!」

 

 すかさずミザルーナに「認識阻害」魔法を掛けるシグレ。


 かくして、無事に?ミザルーナに魔王城の門が装備される。

 すると、呪いのビキニアーマーの効果で、魔王城の門の効果は無効。

 魔王軍四天王を倒さずして魔王城への侵入を果たした。


◇◇◇


 魔王城の敵は、外部の敵より一段と強かったが、片っ端から魔物を狩り続け、とっくの昔にレベルがカンストしたうちの可憐なリーネに及ぶものはいない。

 

 あっという間に魔王の間に辿り着く。


 俺たちが魔王の間の前に到着すると、自動的に扉が開く。

 そして、魔王の姿が目に入った。


 …あれは、ヤバい。本当にヤバい。人間が勝てる相手じゃない。生物としての格が違う。

 本能でそう悟る。

 少しでも攻略法を見つけるために、詳細鑑定を使う。


《鑑定結果》

 

名前:グラ=エンディア

職業:魔族(魔王)

レベル:999

 HP:9,999

 MP:9,999

 筋力:9,999

 魔力:9,999

 固有スキル:

《魔王の肉体》

 受けるダメージを80%軽減する。

 状態異常は全て無効。

《魔力炉心》

 戦闘中、MPが毎秒回復する。

《クアドラブルマジック》

 高次元の四属性魔法を操る。詠唱破棄、同時詠唱も可能。

 性格:大の戦闘好き。勇者パーティとの戦いを最大限に楽しむために、最近、魔王城を大幅改修した。

 

 うん、ヤバい。まずもってステータスがヤバい。何だよ。あれ。9,999って。上限って999じゃなかったのかよ。文字通り桁が違うよ。

 こんなのとまともにやり合ったら、いくら命があっても足りない。

 俺の可愛いリーネちゃんが潰れたトマトになってしまう。

 何か、策はないか…


 詳細鑑定を発動させたまま、周りを見渡す。


 あっそうだ…あれが使えるかも。


◇◇◇


王城の謁見の間は、ざわめきに満ちていた。


 赤い絨毯の先、玉座に座る国王の左右には重臣たちが並び、その視線は一様に俺たちへと注がれている。

 称賛、畏敬、そして――恐怖。


「魔王を退けたこと、まことに見事であった!」


 国王の声が高らかに響くと、拍手が起きた。

 だが、その拍手の中で、俺のパーティは誰一人として胸を張らなかった。


 リーネは視線を伏せ、手を組んでいる。

 ミザルーナは腕を組んだまま、どこか居心地悪そうに壁を睨んでいた。

 シグレに至っては、拍手が聞こえないかのように目を閉じている。


 そして、玉座の前に一歩進み出た王女が、無邪気な笑顔で言った。


「ねえ、サトウ様。魔王との戦い……どんなだったの?」


 その瞬間、謁見の間が静まり返った。


 英雄譚を待つ沈黙。

 剣戟と魔法、死闘と勝利――誰もがそれを期待している。


 俺は一瞬だけ、仲間たちを見た。


 誰も、俺を止めなかった。


「……そうですね」


 俺は小さく息を吐き、口を開く。


「魔王は、噂通り……いえ、それ以上でした」


 ギャラリーたちが頷く。

 想像通りの答えだ。


「桁違いの魔力。圧倒的な肉体。正面から戦えば、我々は一瞬で消し飛んでいたでしょう」


「では、どのように……!」


 誰かが思わず声を上げる。


 俺は、少しだけ笑った。


「戦いませんでした」


 一拍。


 理解が追いつかない沈黙。


「……戦わず、勝ったのです」


 王女が目を丸くする。


「え?」


「魔王は、戦うためにそこにいました。

 誰かと殴り合い、全力をぶつけ合い、勝つか負けるか――それを、心から望んでいました」


「そのために、魔王は最高の舞台を作り上げていました。戦闘中、横槍が入らないように玉座の間自体を異空間に切り離す高度な魔法。そして、その切り離しは、闘いに集中するために自動化処理が施されていました」


 沈黙。


「自動化処理のキーを担っていたのが玉座の間の扉。この扉が勇者パーティの侵入の有無、戦闘中か否かなど、自動的に判断するシステムでした。判断しているということは、世界から意識があると認定されるのではないか、そう考えて、シグレに使ってもらったのです」


「認識阻害魔法を」


「えっと?つまり?」


「つまり、魔王の間を騙し、魔王と勇者が戦い続けていると誤解させることで、魔王を異次元に幽閉しました」


 誰も、拍手をしなかった。


 英雄譚が、そこにはなかったからだ。


 長い沈黙の後、国王が深く息を吐いた。


「……魔王は、もう脅威ではないのだな」


「はい。少なくとも、我々が生きている間は」


 国王は、ゆっくりと頷いた。


「ならば――これもまた、討伐であろう」


 再び、拍手が起きる。


 今度は、どこか戸惑いを含んだ拍手だった。


 謁見が終わり、王城の廊下を歩きながら、王女が小声で言った。


「サトウ様って……意外と、怖い人なんですね」


 俺は苦笑した。


「いえ。ただ――」


 立ち止まり、振り返る。


「戦う以外の勝ち方を、知っていただけです」


 廊下の窓から、青い空が見えた。


 この世界は、今日も何事もなかったかのように回り続けている。


 魔王を閉じ込めたまま。


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