第03話 命の恩人
「あ、ありがとうございます。助かりました。私は三年生の須藤 來楓です」
來楓は用務員のお爺さんにお礼を述べた。
「わしは古井 久造じゃ。そしてこっちは───」
久造がフワッフワの猫を抱き上げて「ニュウじゃ」と紹介すると、ニュウは元気よく「ニュゥッ!」と鳴き声を上げた。
「ニュウちゃん、ありがとうね。……あれ? でもニュウは猫のような、でもちょっと違うような……。私の知らない新しい種類の猫なのかな?」
「そ、そうじゃな。ま、まあ、確かにニュウは新しいと言えば新しいな」
「久造さんは学校の用務員さんですか? 私は自分の学校に用務員さんがおられたことを知りませんでした」
「ま、まあ、わしらは裏方で、生徒の皆さんとは直接関わらんからな」
「それでも私は三年生ですし、二年以上学校にいました。ですので一度くらいお姿をお見かけしてもおかしくないような気もするんですが……」
來楓がそう言うと久造はドキリとした様子だった。
來楓は眉間に皺を寄せて頭を捻ったが、何かを思い当たったようでパッと顔を明るくした。
「あッ! わかりましたッ! 新校舎が完成したんで、それで着任されたんですねッ!」
そう來楓が合点が言った様子で手を打つと、ダラダラと冷や汗を流していた久造は息を吹き返し「そ、そうじゃッ。その通りじゃッ」と殊更に自分は新校舎が完成したので着任したという事を強調した。
「それより來楓ちゃんはどうして旧校舎におったのじゃ? ……もう旧校舎には誰も残っておらんと思ったのじゃが……」
久造とニュウは顔を見合わせた。
「私はいつも旧校舎の園芸部の部室でお弁当を食べていたので、旧校舎が閉鎖される今日、最後のお弁当を食べようと旧校舎に残っていたんです」
そう説明されると久造とニュウは「そ、そうか……」「ニュゥ……」と本当に残念そうだった。
「それよりこの後はどうしましょうか? どうにかして元の世界に戻りたいんですけど、何か方法をご存じありませんか?」
「う、うーむ……」
「ニュ、ニュゥ~……」
久造とニュウは腕を組んで唸った。
「と、とにかくまずは落ち着くんじゃ。日も暮れてきたようじゃし食事をして今日はゆっくり休もう」
久造は何かをすぐに始めなければと落ち着かない様子の來楓をなだめた。
「でもまたゴブリンとハーピーが襲ってくるかもしれませんし……」
來楓はそのことが不安でとても落ち着いていられなかった。
「それなら大丈夫じゃ。ワシが見張りをするし、窓に板を張って簡単には校舎に侵入できんようにする。じゃからまずは食事をしよう。腹が減ってはなんとやらと言うことじゃし」
「でも食事をするといっても食べ物がないんじゃないですか?」
來楓は兄が作ってくれた愛妹弁当をモンスターたちに奪われてしまっていたし、他に食べ物は何も持っていなかった。
そんな不安そうな來楓に久造は胸を張って「それなら心配せんで良いぞ」と自信たっぷりに笑みを浮かべた。
「ニュウ、來楓ちゃんを職員室のロッカーに案内しておくれ」
そういって久造に頭を撫でられるとニュウはゴロゴロと喉を鳴らした後、元気よく「ニュゥッ!」と鳴いて立ち上がり、來楓に付いてくるよう尻尾を振った。
來楓は半信半疑だったが、誘われるまま、ニュウの後を追った。