第02話 これが有名な異世界転移!?
昨今、異世界転移は珍しい事ではなくなっていた。
一学年に一人は異世界に召喚されたり、転移したり、転生したりしていて、一年に一度はどこかの学校で一クラス丸ごと異世界召喚されてしまったとニュースで報じられるような今日この頃だった。
そして異世界に行った者は、大抵はしばらくすると帰ってきて、その際は偉業を成し遂げて一回りも二回りも成長していたり、驚くようなチートスキルを身につけていたり、異性にモテモテになったりしていた。
中には帰ってこない者もいたが、それらの多くはクラスで弱い者いじめなどをしていた鼻持ちならない連中で、異世界でざまぁされて帰ってこられなくなったのだが、誰もそういった者が帰ってこなくても悲しむことはなく、むしろ浄化感を得られてスッキリさせてもらっていた。
他には異世界での生活に馴染み、自らの意思で戻ってこない者もいたが、そうした人たちも「居場所を見つけられてよかったね」と心から異世界定住を祝福されていた。
「私は異世界に定住は無理だから、なんとかして元の世界に帰らないと……」
來楓はそう思ったが、まずは何をどうしたらよいのかわからず途方に暮れた。
「───と、とりあえず……お弁当でも食べようかな」
異世界転移のショックで空腹感は吹っ飛んでしまっていたが、來楓は義務感で昼食をとろうと決断した。
幸い、背の低い木が近くにあり、その枝をいただいて箸の代わりにすることができた。
衛生的にはやや難はあるものの、背に腹は代えられなかった。
しかしお弁当を開き、枝を箸として持っても、食は進まなかった。
これからどうしたらよいのか考えがまとまらず、來楓はボーッと草原を眺め続けた。
上空には大きな鳥が飛んでいた。遠くてわからないがトンビだろうか?
草原には小動物でもいるのだろうか?
背の高い草を掻き分け、何かが來楓に向かって近づいているようだった。
トンビとおぼしき鳥も上空での旋回を止め、こちらに向かって羽ばたいてきた。
その様子を他人事のように眺めていた來楓だったが、しばらくして事態に気付いた。
「あ、あれ? 草原に何かいる? 真っ直ぐこっちに向かってきてるみたいだけど、たまたまかな? あとあの鳥───あの鳥もこっちに向かって飛んできてるよね……? しかも、あの鳥って何ッ? すごく大きいんだけどッ? トンビじゃないよね? ワシなの? なんだかちょっと怖いんだけど大丈夫かな……?」
不安になった來楓はお弁当を持ったまま立ち上がると、二、三歩後ずさった。
そんな來楓の目の前に草原を掻き分けてやってきた小動物が正体を明らかにした。
それは三匹のゴブリンだった。
背丈は百二十cm程で、緑色の肌に粗末な腰布を巻き、手には粗削りな棍棒を携えていた。
「うそぉーッ!? 本物のゴブリンだーッ!」
來楓はゲームなどでゴブリンというモンスターのことを知っていた。
また、異世界から帰ってきた者がテレビのインタビューで「異世界にはゴブリンというモンスターがいますが、異世界ではそこら中にいるポピュラーなモンスターです」と受け答えしている番組を観たこともあった。
來楓は咄嗟に逃げようと踵を返したが、しかし、その目の前に先ほどの鳥が飛来し、來楓の行く手を阻んだ。
來楓の行く手を阻んだのはハーピーだった。
小柄な女性のような姿だが全身が羽毛で覆われ、手は人間の腕だったが足は猛禽類のような鋭い鉤爪で、背中には大きな羽が広がっていた。
「こっちは本物のハーピーだーッ!」
來楓は同様にハーピーのことも知っていた。
「ど、どどど、どうしようッ……! そ、そうだスキル! 私、何かスキルを持ってないのッ? ステータス! そうよ、ステータス! そう言ったら何か表示が出て自分のスキルがわかるんだよねッ!?」
しかし來楓が何度「ステータス!」と叫んでも何も表示されなかった。
そうこうしている内にもゴブリンは來楓にジリジリとにじり寄ってきた。
「やだやだやだッ! 来ないでーッ!」
咄嗟に來楓はお弁当箱を振り上げてゴブリンに対してすごんで見せた。
「来るなーッ! 来たら酷いことになるぞ-ッ! 私だってやる時はやるんだからねーッ!」
しかしやはりゴブリンには効果がなく、二匹のゴブリンが同時に來楓に飛びかかってきた。
「わーッ! やっぱりダメかッ! いやーッ! 来ないでーッ!」
咄嗟に來楓がその場に蹲った。
───すると、來楓が今までお弁当を振り上げていた場所をハーピーの鋭い鉤爪が通過した。
「───えッ……!?」
危うくお弁当ごと、手を切られそうになって來楓は顔からサーッと血の気が引いた。
ハーピーはそのまま正面から飛びかかってきたゴブリンと鉢合わせて激突すると、両者はもつれ合って転がった。
「い、今、ハーピーは私のお弁当を狙ったの……?」
一瞬、難を逃れたかに思えた來楓だったが、残るゴブリンが間髪入れずに飛びかかってきた。
「いやーッ! やめてーッ!」
咄嗟にお弁当箱で顔を覆った來楓だったが、そのお弁当箱をゴブリンの節くれだち、不潔そうな爪が伸びた手が掴んだ。
そして來楓を強引に振り解くようにしてお弁当箱を奪った。
「ああッ! お兄ちゃんの愛妹弁当がッ!」
咄嗟に來楓はお弁当を奪い返そうとしたが、次の瞬間、お弁当箱に先のゴブリン二匹とハーピーが群がり、奪い合いを開始したのでその機会を逃してしまった。
「あ、あれ……? 私じゃなくてお弁当を獲り合ってるの……?」
來楓のお弁当は中身が無残な姿で略奪され、ゴブリンとハーピーは一心不乱に俵おにぎりやダシ巻き玉子を貪った。
「お、お腹が空いてるのかな……? と、とにかくこの隙に逃げないと……」
來楓はモンスターたちを刺激しないよう静かに後ずさった。
そして十分に距離が開いたと思い踵を返して駆け出したが、丁度、お弁当を食べ尽くしたゴブリンとハーピーが顔を上げ、逃げる來楓に再び迫った。
「食べるの早すぎーッ! 来ないでーッ!」
來楓は必死に旧校舎に逃げ込もうと走ったが、すぐにゴブリンとハーピーに追いつかれてしまった。
「やめてーッ! もう私は何も持ってないよーッ!」
すぐ後ろにモンスターが迫った気配を察し、來楓は最悪の事態を覚悟したが、その時───。
「お嬢ちゃんッ! しゃがむんじゃーッ!」
それは鍬を振り上げた用務員姿のお爺さんだった。
言われるがまま來楓がしゃがむとお爺さんはバットをフルスイングする要領で鍬を振った。
鍬は空を切ったが、その勢いに気圧されてモンスターたちは怯んだ。
さらにお爺さんの肩に乗っていた真っ白でフワッフワの猫が「ニュゥーッ!」と可愛い鳴き声を上げてジャンプすると、ゴブリンの顔に飛びつき、爪を立ててバリバリと顔を引っ掻いた。
「ギャギャーッ!」
たまらずゴブリンはフワッフワの猫を振り払おうとしたが、その手を軽やかに躱し、フワッフワの猫は別のゴブリンに飛びかかると、そのゴブリンの顔もバリバリと引っ掻いた。
「た、たすかった……?」
そう安心しかけたのも束の間、今度は上空からハーピーが鉤爪を振りかざして來楓に襲い掛かった。
「ピピッ! ピキィーッ!」
ハーピーは鷹が獲物に襲い掛かるように來楓に狙いを定めた。
「そうだったッ! まだ、ハーピーがいたんだったーッ!」
油断大敵を痛感した來楓は咄嗟に腕で顔を庇ったが、鋭いハーピーの鉤爪に対してあまりに無防備だった。
「あ───……ッ!」
ハーピーの鋭い鉤爪が來楓をかすめ、制服が切り裂かれた。
幸い制服だけで済んだが、その切れ味は鋭く、まともに引っ掻かれたら大怪我は免れそうになかった。
上空に舞い戻ったハーピーはぐるりと旋回を始めた。その姿は猛禽類が地上の獲物を狙う姿勢そのものだった。
「また来るぞッ! お嬢ちゃんッ! ニュウッ! 今のうちに校舎に逃げるんじゃーッ!」
そう叫ぶとお爺さんは來楓の腕を引っ張って旧校舎に走った。ゴブリンの顔をさんざん引っ掻いていたフワッフワの猫も後に続いた。
そんな三人をゴブリンは尚も執拗に追いかけてきたが、三人は旧校舎に逃げ込むと同時に扉を閉め、間一髪のところでゴブリンたちの追撃を遮断することができた。
來楓は扉の鍵をしっかりとかけた。
さらにお爺さんが机や椅子を扉の前に積み上げ、容易に扉が突破されないようにバリケードを築いた。
しばらく扉を叩いたり、こじ開けようとゴブリンが扉の前で騒いでいたが、しばらくすると諦めたようで静かになった。
難を逃れた來楓は緊張が解けてその場にへたり込んだ。
「ニュゥ……」
そんな來楓をフワッフワの猫が心配そうに見上げた。
早速、モンスターに襲われるという今回のお話はいかがでしたでしょうか?
(,,•﹏•,,)ドキドキ
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この後も、皆さまに「面白い!」と思っていただけるよう頑張ります。
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