第00話 学校でスローライフ
部隊を指揮する須藤 來楓は、胸一杯に空気を吸い込むと、あらん限りの大声で号令を発した。
「ゴブリン隊、突撃ーッ!」
そう命じられたゴブリンたちは拳を突き上げて雄叫びを上げると、堰が切られたように一斉に突撃を開始した。
「エルフ隊は後方で待機ッ! ハーピー隊は上空へ上昇ッ!」
続く來楓の指示で、エルフたちは気をつけの姿勢でその場に留まり、ハーピーたちは羽を地面に叩きつけるようにして羽ばたくと、打ち上がるように上空へと舞い上がった。
「ゴブリン隊、鍬を構えてッ!」
この号令でゴブリンたちは手にした鍬を大上段に構えた。
ゴブリンたちの体勢が整うと、來楓は上空のハーピーたちを仰いだ。
空は晴れ渡り、燦々と降り注ぐ陽光が眩しく、小手をかざして目を細めなければ、上空に突き刺さるように上昇するハーピーたちを目で追うことはできなかった。
やがてハーピーたちが予定していた中空に達し、旋回して待機し始めたのを確認すると───。
「……───よしッ! 今だッ! ゴブリン隊ッ! 校庭を耕やしてーッ!」と、來楓はゴブリンたちに命令を下した。
その命令を合図にゴブリンたちは一斉に鍬を振り下ろすと、怒涛の勢いで校庭を耕し始めた。
「すごいすごいッ! いいよッ! その調子でお願いねッ!」
來楓は、校庭がみるみる耕されていく様に歓喜した。
「では次ッ! エルフ隊ッ! ゴブリン隊に続いてくださーいッ!」
來楓が手を振って合図を送ると、気をつけの姿勢のまま微動だにしなかったエルフたちが一糸乱れぬ歩調で前進を開始した。
「種まきを開始ッ! 等間隔に種を撒きつつそのまま前進してくださーいッ!」
來楓にそう命じられたエルフたちは手にした袋から種を取り出すと、一定の間隔で播種をしつつ、精密機械のような集団行動で校庭を行進した。
「よーしッ! それじゃあ、続いてハーピー隊ッ! 肥料の散布開始よッ! 味方にかからないように注意してねッ!」
上空で待機していたハーピーたちは「ピーッ!」と鳴き声をあげて応えると、広げた翼を畳み、急降下を開始した。そして地面に激突する寸前に大きな翼を広げると、地表すれすれを超低空飛行で滑空し、手にした袋から流すように肥料を散布すると、瞬く間に校庭全体に栄養を行き渡らせた。
「すごいすごいッ! 完璧よッ!」
來楓は満足げに歯を見せて笑うと、精霊水馬に跨った。
「仕上げは水まきよッ! 精霊水馬ッ! お願いねッ!」
精霊水馬は後ろ脚で立ち上がっていななくと、たてがみを振って水を撒き散らしつつ、耕されたばかりの畑を所狭しと疾走した。
こうして校庭は、よく土が耕され、等間隔にタネが撒かれ、栄養豊富な肥料が隈なく行き渡り、潤いも十分な豊かな畑に様変わりした。
「大成功ーッ! 皆、ありがとうーッ! これで夏には甘~いトウモロコシが食べ放題よーッ!」
來楓がそう言って労を労うと、ゴブリン、エルフ、ハーピーたちは飛び上がって歓喜し、抱き合って大仕事を成功させた喜びを分かち合った。
來楓はその光景を目を細めて眺めた。
「ついにここまで……ついにここまで学校を豊かにすることができたわ。あの日、あの時、学校ごと異世界に転移した時は、まさかこんなことができるなんて想像もしてなかった……。よかった……本当によかった」
來楓もゴブリン、エルフ、ハーピーたちに駆け寄ると一緒になって喜びを分かち合った。
「でもできれば……できればこの喜びをあの二人とも一緒に分かち合いたかった……」
皆と抱き合って喜ぶ來楓は、笑顔の陰で心をチクッと痛める小さなトゲが、まだ胸に刺さったままであることを寂しく思った。
皆さま、お世話になっております。柳アトムです。
この度は私の小説を読んでいただきまして本当にありがとうございます。
( ᵕᴗᵕ )
プロローグはいかがだったでしょうか?
(,,•﹏•,,)ドキドキ
ゴブリン、エルフ、ハーピー、そして精霊水馬が仲間になってくれる経緯や「あの二人」が誰であるかなども気にかけていただけますと嬉しいです♪
次話は來楓が異世界に転移した「とんでもない経緯」のお話となります。
皆さまに「面白い!」と思っていただけるよう頑張ります。
୧(˃◡˂)୨
宜しくお願い致します~!