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第一話 二人の出会い

この世には表と裏がある。

その二つがバランスを取り合う事でこの世は成り立っている。

昼と夜、光と闇、陰と陽。

そして・・・人間と妖怪。

これは、二人の人間と妖怪から紡がれる不思議な絆の物語・・・





「ん・・・・・」

眩しい感覚と耳に届く騒音で目が覚めた。

眠気眼を擦りながら手を伸ばし枕元のスマホに触れ目覚ましを止めると騒音が止まり部屋に静寂が広がった。残っているのはカーテンの隙間から入って来ている眩しい日差しだけだった。

「ん~~~」

まだ少し眠いけど起きよう・・・

そう思いながら私は起き上がり軽く背伸びをした。

そのまま窓のカーテンを開けると光が入り込み一気に部屋は明るくなった。

眩しい太陽の光により一気に意識がハッキリとしてきた。

「ん〜よく寝た」


私の名前は冥月影羅。

星華町という町に住んでいる十四歳の中学生。

私としては普通の中学生のつもりだけど・・・残念だけど私には明らかに普通じゃない所がある。

それは私が人間ではなく妖怪という事。

そう、妖怪。

人智を超えた摩訶不思議で妖しい存在、妖怪だ。

え、妖怪が本当にいるかのかって?

驚くのも分かるけど妖怪は本当にいます、あなたの周りにも沢山。

私が住んでいるこの家にいます。例えば・・・

「影羅さまー!おっはようございまーす!」

「うわっ!」

部屋を出ようとしたら突然、背中に何かがぶつかった大きな衝撃を感じた。

さらに寝起きの頭に響く元気な大声も飛んできたけど私の驚きはそこまで大きくなかった。

何故ならこれは慣れている日常茶飯事だからです。

「おはよう、寝夢」

私の背中に抱きつくようにくっついている少女の名前は寝夢。

この家に共に暮らしている私の仲間の一人、そして彼女もまた妖怪です。

寝夢は猫又という猫の妖怪で少女の姿をしているが頭には猫の耳、腰からは猫の尻尾が二本生えている。

いつも元気があるポジティブな性格で私によく懐いていてほぼ毎日このように抱きついてくる。

寝夢は嬉しそうに二本の尻尾を振りながら頬擦りをしてきた。

「影羅様〜、一緒にゴロゴロしましょうにゃ〜」

「ね・・・寝夢、私そろそろ起きないと・・・」

ぎゅーっとさらに抱きついてくる寝夢に私が困っていると

「こら、寝夢!」

後ろから軽い怒号が聞こえてきた。

その怒号は寝夢に向けられた物だけどあまりの迫力に寝夢だけじゃなく思わず私もビクッとしてしまった。

「毎朝、毎朝、影羅様にくっついて!影羅様に迷惑でしょう!」

そう言ってこちらに近づいてくるのは叉鬼。

彼女も共に暮らしている私の仲間の一人です。

叉鬼も妖怪で、その種族は鬼。その証拠に彼女の額からは二本の角が生えています。

叉鬼は真面目な性格で細かい事を気にしない寝夢が彼女に注意されるのも日常茶飯事です。

「にゃー、別に影羅様嫌がってないし良いにゃー!」

「影羅様は優しいから断りきれないだけです!」

私から引き剥がそうと引っ張る叉鬼と引っ張られる寝夢が言い合っていた。

というかそんなに抱きつかれたり引っ張られたりしたら私も苦しいんだけど・・・

「ふ・・・二人も落ち着いて」

「朝は色々と忙しいんですよ!貴方に構ってる暇はありません!」

「妖怪が朝から忙しくするなにゃ!朝は寝床でぐーぐーぐーしたいにゃ!」

あー、だめだ。二人とも全然聞いてないよ〜


「ふぅー、なんとか終わった・・・」

あの後また数分ほど言い合いと引っ張り合いが続いた結果叉鬼の勝利で終わった。

叉鬼が寝夢を抑えてくれたおかげで私はなんとか部屋を出ることができました。

「あ、影羅様おはよ〜ございま〜す」

私が一息つきながら和室の居間に着くと呑気な声が聞こえてきた。

「今日も寝夢と叉鬼ですか〜?」

「ほぼ毎日よく飽きずにやりますね」

私が声の方を向くと二人の妖怪がいた。

この二人も私の仲間の妖怪です。

呑気な様子で話しているのは河童の河奈。

呆れたように話しているのは天狗の風矢。

頭に皿がある河奈はのんびりとした性格で今もぽけ〜としながら私に聞いている。

背中から翼が生えている風矢は叉鬼と同じく真面目な性格で叉鬼と寝夢の喧嘩には呆れている様子です。

「おはよう。河奈、風矢。いつもの事だから平気だよ」

「普通、毎朝そんな事起こらないんですけどね・・・」

「朝からお疲れ様です〜」

私達がそうやって話していると

「皆さーん。朝ごはんですよー」

奥のキッチンから一人の妖怪が顔を覗かせてきた。

「あ、氷華おはよう」

「影羅様!おはようございます」

彼女の名前は氷華。私の仲間で妖怪、雪女です。

しっかり者の優しい性格で私達の中では料理担当をしています。

氷華はニッコリとした表情で私に近づいてきた。

「朝ごはん出来てますよ。食べましょう♪」

「うん。ありがとう。みんなで食べよう」

私も微笑みかえして朝食を食べに行こうとしたけど

「私もいますにゃーーー!!」

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

びっくりした!?

突然勢いよく襖を開け寝夢が部屋に入ってきたよ。

「あ、寝夢だ」

「叉鬼の説教はもう終わったのか?」

河奈と風矢はあまり驚いた様子もなく寝夢に質問をしていた。

「にゃ、それは・・・」

「寝夢!話はまだ終わっていません!」

「にゃっ!?」

「うわっ!?」

またびっくりした!?

寝夢に続くように叉鬼も勢いよく部屋に入ってきたよ。

「まだ終わってないみたいですね・・・」

「もう勘弁してほしいにゃ〜」

寝夢達が部屋に入った事により一気に賑やかになりみんなでわいわいと話し騒がしくなっていった。

でもこれもまた見慣れたいつもの光景です。

他にもこの家には一緒に住んでいる妖怪達がいるけどそれはまたの機会に紹介しようかな?

「ふふふっ」

私はこの変わらない賑やかな日常を笑って楽しんでいます。


ここ星華町は森や海もある自然豊かな街。

最近は近代的な建物も出来てきて発展もしてきている。

そして、そんな街にある一人の少女がやってきた。

「えっと・・・こっちかな?」

片手にスマホ、もう片方の手にスーツケースといった大荷物を持ち歩いていたその少女は少々不安げな表情で歩いていた。


う〜、やっぱり初めて来る場所は慣れないなぁ。

そもそもこっちで合ってるのかな?

あ〜何でこんな事に・・・

私の名前は四季乃春奈。

京都出身の十四歳の中学生です。

色々訳あってこの街の学校に転校する事になってそこに向かってるんだけど・・・

はっきり言ってすっごく不安です!!

知らない街にいきなり一人で来て暮らす、しかも寮生活なんて無茶だよ!

初めてで緊張しすぎます!

転校は今までも経験あるけど毎回毎回この不安には慣れることができません。

うぅ〜、「あの人」の事だから私の人見知りを治すためとかそういう事考えてるんだろうな〜

まぁこれが私の使命だし修行のためでもあるし・・・

そんな事を考えていたら・・・

「えっ?」

突然何かに躓いた様な感覚がしバランスを崩してしまった。

「おっとっとっと・・・」

バランスをなんとか取り戻そうとしてみたけど荷物のせいで上手く取れない・・・

「うわっ!?」

あれ、これ不味くない?・・・


「・・・・あれ?」

完全に転んだと思い衝撃に備えていた春奈だったがいつまで経っても痛みが来ず疑問を感じ目を開くと・・・

「大丈夫ですか?」

そこには転びかけた春奈を支えた人物・・・影羅がいた。

寝夢達と話した後、家を出た影羅は天気も良かったので散歩をしていた所、偶然この場に遭遇し春奈を助けたのだった。

「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました」

「よかった。怪我もないみたい」

「すみません、何かに躓いたみたいで・・・」

そうお礼を言いながら立ち上がる春奈。

「それにしても何に躓いたんだろう?あそこには何もなかったと思ったのに・・・」

『くぅ〜ん』

「「ん?」」

何処からか動物の様な鳴き声が聞こえ二人がそちらの方を向くとそこには一匹の動物?がいた。

体を丸めた犬の様な猫の様な生き物が影羅達の方を向いていた。

「あれは・・・妖怪?」

「あ、すねこすりだ」

その生き物・・・妖怪「すねこすり」に反応する二人。

それから少しの沈黙を挟み二人はある違和感を感じた。

「「・・・・え?」」

全く同じタイミングで同じ疑問を感じた二人は同時にお互いを見つめ合った。

「もしかして・・・・見えるの?」

「そっち・・・こそ・・・」

「「あなた・・・一体・・・」」


ここで一つ説明しよう。

大前提として妖怪は普通人間には見る事ができない。

妖怪は普段から人間に見えないように姿を消しているからだ。

中には霊感があったりして見る事ができる人間もいるが見えないのがほとんどだ。

そして影羅と春奈はお互いに自分は妖怪が見えて相手には見えないと思っていたので驚いているのだ。


場所を移しここは近くの公園。

そこにあるベンチに影羅と春奈は座っておりその足元には先ほどのすねこすりがいた。

因みにすねこすりとは人間の足元に纏わりつき歩きにくくし転ばせる妖怪だ。

しかしそこには悪意は無く、人懐っこい無害な性格である。

「そっか・・・あなた、妖怪だったのね」

二人は互いの事を話す事にしまず自分が妖怪だという事を影羅が話し春奈はそれに納得した様子だった。

「じゃあ見えて当然ね」

「あまり、驚かないんだね。あなた妖怪に慣れてるみたいだけど・・・」

影羅は春奈の様子に疑問を抱き質問をした。

「じゃあ、自己紹介を、私の名前は四季乃春奈。修行のためにこの街にやってきた「陰陽師」です。」

そう言い礼をしながら自身の素性を明かした春奈。その立ち振る舞いは礼儀正しく何処か品があった。

「陰陽師!?それって妖怪退治とかをするあの?」

「はい、その陰陽師です」

陰陽師。それは古の時代から妖怪退治をし妖怪から人々を守る集団だ。

言わば妖怪達の天敵とも呼べる存在だ。

故に大抵の妖怪は陰陽師を恐れるのだが・・・

「すごい!私、陰陽師って初めて見たよ」

影羅はそんな天敵を前にしたにも関わらず全く恐れずに春奈を見ていた。

「あ、あれ?思ってた反応と違うな?」

「え、そうなの?」

「だって陰陽師って妖怪の敵なのよ」

「あ、そっか。確かにそうだね」

あははと笑う影羅を見て春奈も思わずクスッと笑った。

「ふふ、影羅さんって変わってるね。妖怪なのに私の事を助けてくれて」

「そう?じゃあそう意味だと春奈さんも変わってるよ。だって陰陽師なのに私の事を退治しようとしないし」

「私は無害な妖怪には手を出さないで仲良くしたいんです」

「へぇ、奇遇だね。私も人間とは仲良くしたいんだ」

「何だが私達って似てますね」

「確かに。お互い変わった妖怪と陰陽師だね」

二人はお互い楽しそうに笑っていた。


ここは星華町の外れにある森。

木々が生い茂り昼間なのも関わらずほとんど日が刺さない暗い森の中に古い祠があった。

苔が生え今にも崩れそうなボロボロの状態だったがそこに貼られていたお札だけはしっかりと貼り付けられていた。

そんな静かで誰も訪れる気配の無い祠の前に聞こえるはずのない足音がどこからか響いた。

そしていつの間にか祠の前に何者かが立っていた。

「・・・」

黒いローブを纏いフードで顔を隠したその人物は祠に向けて手を向けると祠に貼られていたお札が突如剥がれた。

すると祠から怪しげなオーラ・・・妖気が放たれた。

それを見届けたフードの人物は何も言わず影に消えるようにその場を後にした。


「そういえば修行に来たって言ってたね」

「そうなんです。私達四季家の陰陽師は一人前の陰陽師になるために修行を詰んでいて私もその一環でこの街に来たんだけど・・・」

話をしていると突然暗い顔になった春奈。

「突然知らない街に一人で行ってこいなんて言われても無茶だよね。全然知らない場所で知らない人達に囲まれて・・・はぁ〜」

続けて喋った後ため息を吐いたその様子はどこからどう見ても落ち込んでいる様子だった。

「た・・・大変なんだね」

「でも・・・」

「?」

「ここに来て影羅さんと会えたから、それだけでも来て良かったかもね」

「ふふ、そうだね」

まだ出会ったばかりの短い時間だが二人は心を通わせ仲良くなっていた。

そんな楽しい時間が続いていたが・・・

「「!?」」

それは突如起きた異常によって終わってしまった。

二人はその異常をすぐ察して驚いた。

しかし周りにいる人達は何も変わらずいつも通りに過ごしていた。

それもそのはず。その異常に気づけたのは妖怪と妖気を感じられる一部の人間だけだった。

「ねぇ、春奈さん。今のって」

「うん。影羅さんも感じたみたいだね。今の強力な妖気を」

二人は強い妖気を感じた方向を向いた。

「あっちからだったね」

「何だか嫌な予感がする、行ってみる?」

「勿論!危険な妖怪から人間を守るのが私達陰陽師だからね」

二人は頷き合い妖気の方向へ向かって走って行った。


一方妖気の源である古びた祠からは強い妖気が溢れ続けていた。

それに伴い少しずつ地響きが起き始め周りの木々が揺れ始めた。

そして遂に祠が崩壊し巨大な何かが地面から現れた。

それは巨体で周りの木々を薙ぎ払いながら不気味な呻き声を上げた。

『ぐぉぉ〜〜〜』


影羅と春奈が現場に着くと二人は驚いた。

周りの家や木々を簡単に見下ろせるほどの巨体な妖怪が森から現れていたからだ。

それは不気味な炎の様なオーラを纏った巨大な髑髏の妖怪だった。

「あの妖怪は・・・」

「まさか・・・「がしゃどくろ」!?」

妖怪「がしゃどくろ」

かつて大きな戦で散った者達の怨念が集まって生まれた巨大な髑髏の妖怪。

生者を無差別に襲う恐ろしい妖怪と言われている。

「あれががしゃどくろ・・・初めて見たよ」

「でも何で急に・・・」

そう二人が話してる間にもがしゃどくろは木々を薙ぎ払い町へ向かっていた。

「このままじゃ町に!」

「色々考えるのは後にしよう!今はがしゃどくろを止めよう!」

「そうね!」

そう言い影羅は手を前に出すと突然刀が現れた。

その刀の名は「冥月丸」影羅の愛刀だ。

「へぇ、そんな事ができるんだね」

「妖怪は武器や装備を妖気に変換して必要な時に出す事ができるんだ」

さらに春奈は懐から何枚かのお札を出した。

それは陰陽師が妖怪退治に使用する武器、対魔の札だ。

武器を取り出した二人はがしゃどくろへと向かって行った。


『ぐぉぉ〜〜〜』

不気味なオーラを放ちながら進むがしゃどくろ。

まだ蘇ったばかりだからかそのスピードは遅く少しづつゆっくりと進んでいた。

しかしこのまま進めば町に入り沢山の人が襲われるのは目に見えていた。

影羅と春奈はそれぞれの武器を構えがしゃどくろの足元へ近づいて行った。

「はぁぁ!」

春奈はがしゃどくろの足へ札を投げ貼り付けた。

すると札から電撃が走りがしゃどくろの動きを止めた。

『ぐぉ〜?』

異変に気づいたがしゃどくろは足元を覗き影羅達の存在に気づいた。

「はぁ!」

その隙に影羅が足へと切り掛かった。が・・・

「くっ、硬い・・・」

がしゃどくろの骨の硬さはかなりのもので刀は弾き返されてしまった。

『ぐぉぉ〜〜〜』

がしゃどくろは唸り声をあげ、手のひらを広げ影羅に叩きつけた。

「っく・・・」

影羅は咄嗟に刀で受け止めようとしたが力の差は歴然。

受け止めきれず地面まで叩きつけられてしまった。

「影羅さん!」

春奈は影羅の方を見て心配したががしゃどくろはその隙を見逃さなかった。

「!」

そうしている間にがしゃどくろの動きを止めていた札が破れてしまいがしゃどくろの動きが再開してしまった。

そしてそのまま足を振り上げ春奈に向け強烈な蹴りを喰らわせた。

「あっ・・・」

攻撃をもろに喰らい吹き飛ばされてしまった春奈は腕を押さえながら何とか立ち上がろうとしたが痛みで上手く動けなかった。

「はぁ・・・はぁ・・・思ったより手強い・・・」

叩きつけられた影羅も傷だらけになりながら何とか立ち上がった。

しかしそんな二人に全く容赦せずがしゃどくろは止めを刺そうと腕を振り上げていた。

『ぐぉぉ〜〜〜』

(あっ・・・まずい・・・)

(このままじゃ・・・)

このままじゃやられる!

二人がそう思ったその時。

『!?』

突然がしゃどくろに直撃するかのように突風が巻き起こった。

突風をもろに喰らったがしゃどくろはバンラスを崩し動きを止めた。

さらに

「はぁぁ!!」

凄まじい怒号が聞こえたのと同時に薙刀を構えた何者かががしゃどくろの額を斬りつけた。

『ぐぉぉ〜!?』

その勢いは凄まじく、がしゃどくろの額に少しヒビが入るほどだった。

バランスを崩していたがしゃどくろはそのまま仰向けに倒れ込み、あたりには大きな振動が響いた。

「え!?」

「何・・・今の・・・」

突然の光景に二人は唖然としていると

「全く〜大きな妖気を感じて来てみれば〜」

「あんなのに突っ込むなんて、無茶すぎにゃ。影羅様」

目の前に二つの人影が現れた。

それは春奈にとっては初めての存在だったが影羅にとっては見慣れた心強い存在だった。

「河奈!眠夢!」

「寝夢達だけじゃありませんよ」

「氷華!叉鬼!風矢!」

突然現れた頼もしい仲間達に影羅の表情は思わず緩んでいた。

「みんな、来てくれたんだね」

「こんなでっかい妖気を感じたら来るに決まってるにゃ」

呑気に可愛らしいポーズをとりながら元気に答える寝夢。

「今の風は風矢が出したんだね」

「はい。叉鬼が攻撃できる隙を作れて幸いでした」

誇った様子の風矢は手に持つ八手の葉の団扇を軽く煽いでいた。

「しかし、影羅様。こんな危険な事をするなら事前に連絡ぐらいしてください。そうすればそんな怪我をしなくても済んだんですよ。そもそもただの散歩に行くにしても何が起きてもいい様に準備をした方が良いといつも、いつも・・・」

「にゃー!お説教は後にするにゃ!」

「叉鬼の説教は長いからね〜」

かなり危険な状態だというのにいつもと変わらぬ様子で賑やかに話す寝夢達。

そんな様子を状況を飲み込めず話に着いて行けていない春奈は呆然と見ていた。

「えっと・・・この人達は・・・」

「あ、あなたが春奈ですね。どうも初めまして。叉鬼と申します。影羅様がお世話になりました」

「あ、はい。春奈です。ど・・・どうも・・・」

叉鬼に礼儀正しく挨拶され春奈はたじろぎながらも思わず挨拶をし返した。

「え?なんで叉鬼が春奈を知ってるの?」

「あぁ。それは・・・」

影羅が疑問に思い叉鬼が質問するが

「あの・・・今はそれ所じゃないんじゃ・・・」

「あ、そうだった!」

「話は後にしましょう」

氷華が止めた事でこの話は後になった。

影羅達ががしゃどくろの方を見ると倒れ込んでたがしゃどくろが今にも起き上がりそうだった。

「ふむ、やはりあのスケスケの体では突風の効果は薄かったか」

冷静に分析をする風矢。

「とにかく、あんな奴さっさと片付けるにゃ!」

寝夢は戦闘態勢を取りやる気満々だった。

「でもあの体の硬さじゃ攻撃が・・・」

「確かに・・・今までもがしゃどくろと戦った経験は何度かありますが・・・」

「え?何度もあるの?」

かなり驚きな衝撃発言を聞き春はかなり驚いたが叉鬼は特に気にせず喋り杖づけた。

「あのがしゃどくろ、おそらく今までの中でも一番の強敵でしょう。しかし」

「どんな相手にも弱点はある。そこを叩けばいいんだ」

「あ、私が言おうと思ってたのに!」

セリフを取られてショックを受けてる叉鬼を尻目に風矢は自信満々な様子で言った。

「何か作戦があるみたいだね。風矢」

「はい。そのためにも君も手伝ってくれるか?」

「あ、はい!勿論です!」

風矢に尋ねられた春奈は軽く驚きながらも答えた。

「じゃあみんな集まれ」

全員は風矢の元に集まり作戦を聞いた。

「なるほど・・・」

「その方法なら!」

「さっすが風矢にゃ!」

「よし、やろう!」

風矢の作戦を聞いた一同はそれに従い各々動き始めた。


『ぐぉぉぉ〜〜〜』

予想外の攻撃を受けた事に怒り狂ってるのか、がしゃどくろは今までで一番凄まじい唸り声をあげながら立ち上がった。

そして怒りに任せるかの様に自分に攻撃をした者を探し辺りを見渡していた。

「こっちにゃ!」

何処からか呼びかけられた気がし、がしゃどくろは声の方向を向いた。

「こっちに来いにゃ!」

そこには大声で呼びかける猫耳の妖怪・・・寝夢が居てがしゃどくろを挑発するかの様に呼びかけていた。

そしてがしゃどくろが気付いたのを確認した寝夢はがしゃどくろに向かって走って行った。

がしゃどくろはうるさい虫を潰すかの様に寝夢を叩き潰そうと腕を振り下ろした。

しかし寝夢は素早い身のこなしで飛び上がり華麗に攻撃を避けた。

腕は空振り地面に衝突し凄まじい振動と共に土煙が舞った。

がしゃどくろは自身の攻撃を最も簡単に避けられ苛立ちを感じていた。

「どこ狙ってるにゃ!」

寝夢は素早く走り続け背後に周り挑発を繰り返していく。

「悔しかったら当ててみろにゃ!」

がしゃどくろはそのまま苛立ちながら寝夢の後を追っていく。

だが素早く避け続ける寝夢にがしゃどくろは追いつけずにいた。


その一方、がしゃどくろの背後に近づく影があった。

河奈だ。

「ふぁ〜行きますか〜」

呑気にあくびをしながら背中に向け高く飛び上がりがしゃどくろの背骨部分に飛び乗った。

そして手のひらを合わせたと思うとそこに周りの水が集まっていき水の玉を作り出した。

「そぉ〜れ!」

ある程度の大きさになったその水玉を上にむけ思いっきり投げた。

すると水玉は空中で破裂し、水はがしゃどくろの全身に掛かった。

『ぐぉ?』

全身びしょ濡れになり異変を感じたがしゃどくろはその時始めて背中の河奈に気づいた。

だががしゃどくろが動くよりも早く河奈は背骨から飛び降りその場を離れ叫んだ。

「氷華〜お願い〜」

その直後、辺りに冷たいひんやりとした空気が広まり季節外れの雪まで降ってきた。

「お任せください!」

河奈の言葉へ返事をした氷華はがしゃどくろの頭上で雪を発生させていた。

「ふぅぅ」

そして冷たい氷の息吹を思いっきりがしゃどくろへ吹きかけた。

その氷の息はがしゃどくろを濡らしていた水を瞬く間に凍りつかせがしゃどくろの動きを封じ込めた。

『!?』

「今です!春奈さん!」

「は、はい!」

氷華の声を聞き飛び出したのは近くで待機していた春奈。

動きを止められ困惑しているがしゃどくろの元へ走って行く。

「はっ!」

懐から再び札を取り出し投げるけるが先ほどとは違い札は段々と空中に留まりまるで階段の様な状態になった。

地面からがしゃどくろの頭蓋骨へと伸びた状態の札を足場にし春奈はがしゃどくろへと駆け上がっていく。

「はっ!」

そして最後の札から思いっきり飛び上がり空中で指を素早く動かし一筆書きの星を作った。

するとその星は光り輝き、春奈はその星を頭蓋骨の先ほど叉鬼によってできたヒビに向かって放った。

「はぁ!!」

星は真っ直ぐとがしゃどくろに向かいヒビの部分に直撃。

『ぐぉぉぉ〜〜〜!?』

直撃した瞬間がしゃどくろは苦痛を感じるような声をあげ苦しみ出し、ヒビはさらに広がった。

「やった、効いた!」

春奈が使ったのは四季家に伝わる技の一つ陰陽弾だ。

指先に霊力を込め退魔の力が籠った五芒星を作り放つという物だ。

弱い妖怪なら一撃で倒せるほどの物で普通ならがしゃどくろには効果が無かっただろう。

だが叉鬼が入れたヒビが弱点となり効果覿面となっていた。

(よし、効いてる!これなら行けるかも!)

自分の技が通用した事で春奈は心の中で喜びながら地面に着地し作戦の成功を祈ってた。


ここまで風矢の作戦通りだった。

寝夢が素早い動きで翻弄し、河奈が濡らし氷華が凍らせる事で動きを封じ、その隙に春奈が弱点を突き体制を完全に崩す。見事にうまく行っていた。

「では、影羅様。後は」

「うん。最後に私の番だね」

春奈達の活躍を見守っていた叉鬼と影羅は今、がしゃどくろの前に立っていた。

そして影羅は再び刀を抜き構えると妖気を刀に込めて行った。

それに呼応するように刀は薄らと光っていった。

「参ります!」

その掛け声と共に影羅はがしゃどくろへと走り出した。

そして思いっきり飛び上がり一気にがしゃどくろの頭と同じ高さまで届いた。

「止めだ!」

そして空中で刀を構え頭蓋骨のヒビへ思いっきり斬りつけた。

「紫電一閃!」

影羅の妖気に反応し淡く紫色に輝く電撃をまとった刀は頭蓋骨に衝突。

その威力は凄まじくがしゃどくろの強靭な頭蓋骨にヒビを少しずつ増やしていった。

「はぁぁぁぁ!!」

段々とヒビが増えるスピードが上がり遂に影羅の刀はがしゃどくろの頭蓋骨を大破させ大穴を開けた。

『ぐぉぉぉぉぉ〜〜〜〜!?』

今日最大にして最後の叫び声をあげながら苦しむがしゃどくろ。

頭蓋骨に出来た穴からヒビは身体中に広がっていきそれと共に体が崩れ始めていった。

がしゃがしゃと崩れた骨がぶつかり合う骨が響きながらがしゃどくろの巨体が倒れていく。

そして辺りを覆っていた妖気が完全に晴れ骨のかけらを一部残しがしゃどくろは完全に崩壊した。

「や・・・」

「「やったーーー!!」」

一瞬静寂が広がった後、影羅と春奈は声を上げ喜んだ。

遂に強敵を倒した事に影羅と春奈は感情が高まり喜び合ったのだった。


「ふふ、なんとか勝てたね」

「一時はどうなるかと思ったよ」

少々開けた森の中で影羅と春奈は寝転がりボロボロなのもお構いなしに笑って話していた。

「作戦が上手くいって良かったですね」

「作戦通りだったにゃ。さすが風矢にゃ!」

そのすぐそばで寝夢達も嬉しそうに会話していた。

「いや、今回の作戦は彼女のおかげだ」

そう言った風矢は春奈を見た。

「え、私?」

「春奈が放った陰陽弾のおかげでがしゃどくろの体制を崩し影羅様の攻撃が通る様になったおかげで勝利できた。感謝する」

「い、いえ。私こそありがとうございます。皆さんがいたおかげで勝てたので」

春奈はお礼を言われ照れたように答えた。

「あ、そういえば、なんで叉鬼達は春奈の事を知ってたの?」

「あぁそれは・・・」

「私が影羅様達の様子をずっと見てて教えたからだにゃ!」

影羅の疑問に意気揚々と答えた寝夢だった。

だがその予想外の答えに影羅と春奈は思わず沈黙してしまった。

「え?」

「え、待って。見てた?いつから?」

混乱した様子の影羅が慌てて聞くと寝夢は堂々と答えた。

「影羅様が転んだ春奈を受け止めたあたりからにゃ」

「ほぼ最初からじゃん!!何こっそり見てるの?着いて来てたの?怖いよ!」

あまりの衝撃に影羅が声をあげて突っ込むが寝夢は大して気にせず笑っていた。

「にゃはは〜。影羅様がどこ行くか気になって追いかけちゃったにゃ♪」

「一応止めようとしたんですけどね」

「スト〜カ〜」

「違うにゃ!ストーカー言うなにゃ!」

冷たい目で見る氷華を尻目に寝夢は河奈に文句を言っていた。

「じゃあがしゃどくろの元へ向かう時も着いてきてたんですか?」

「いや、途中で眠ってしまって気づかなかったらしいんだ」

春奈の質問に呆れた様子で風矢は答えた。

「起きたら二人ともいないし、でっかい妖気が出ててびっくりしたにゃ」

「あはは・・・なんというか・・・寝夢らしいね・・・」

あっけらかんとした寝夢に影羅は呆れを通り越して笑っていた。

「まぁ、その後妖気を感じてその場へ私達が向かってる途中で偶然合流し春奈の事を聞いた次第です」

「なるほどね」

叉鬼の話を聞き影羅は寝夢が着いて来ていた事を除いて納得した様子だった。

「ねぇ、影羅さん」

「うん?」

「今日会ったばかりでお互いの事全然知らない上に、妖怪と陰陽師なのに・・・私と一緒に戦ってくれてありがとう」

「そんな事気にしなくていいよ」

お礼を言う春奈に影羅は笑って答えた。

「そ、それで・・・」

「?」

「良かったら・・・私と、と、友達になってくれませんか?」

「え?」

春奈はおどおどし恥ずかしがりながらも勇気をこめて影羅に言った。

(うぅ・・・やっぱりいきなり友達になっては無茶だったかも・・・)

勇気を出して言ってみた物の心の中はかなりドキドキして少し後悔しかけている春奈だった。

「なんだ。そんな事か」

「え?」

「私達、もう友達でしょ」

そんな春奈に影羅は微笑みながら答えた。

「・・・!」

その時春奈はとても驚いた。

自分の事を友達と思っていた事に対する驚きや喜び。

色々な気持ちが込みあがり不安なんてもう消し飛んでいた。

(あぁ、言って見て良かった)

そう心の中で思った春奈に影羅は手を差し伸べた。

「これからもよろしくね。春奈」

「うん!よろしくね、影羅!」

春奈はそれに笑顔で答えその手を握った。

そんな二人の様子を寝夢達もまた嬉しそうに見守っていた。

ここから影羅と春奈。二人から紡がれる絆の物語が始まるのであった。

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