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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔界の物語集

獣使いと玄狼(クロオオカミ)


…凄くぐだぐだです。

途中、回想者が変わっているという不思議。



それでも


『はっ、暇潰しに読んでやっても良いぜ。』


って方はドウゾ。



私は勿忘草(ワスレナ)。正式名は忘れたが“儚世”という世界の住人で、“獣使い”だ。


獣使いとは、契約した生物(植物や微生物以外)の身体や精神を操作して旅の中、己を守る。そんな種族だ。




さて、説明はこのくらいにしておこう。


私は今、どうするか思案している。


今、私の前には茂みに倒れている狼が一匹。

玄く美しい毛並みに、凛々しい顔つき。首には白い布を巻き付けていて、[玄]という文字が刺繍してある。そこら辺の狼とは違う雰囲気を纏っている不思議な狼だ。よく見ると、左目に金の輪っかのピアス。


『狼もピアスをする時代なのか。』


狼は意識がないのか、ぐったりとしている。


『起こすか。』


私は起こす為、顔を叩く。


パシパシ…パシパシ…パシバシ…バシバシ…


「うっ…って、痛い!?」


『やっと起きたか。』


一度飛び起きた狼だったが、再び草の上に倒れる。

顔は少し赤いが、顔色が悪い。


『どうした。顔色が悪いぞ。』


「……。」


グキュルルルル…


突然、腹の虫が鳴る音が辺りに響く。現在、周りには私達しかいない。後、腹の音は私ではない。


ジー…っと狼を見つめると、顔を背け汗をダラダラ流している。


『…。』


「…っ///」(ダラダラ)


『……。』


「…すみません、我です///」(小声)


『知っている。』


前足で顔を隠す狼をほっといて、私は鞄を探る。

チラッと狼がコチラを覗き見ると、狼の前に私が持っている飲食料全てを出す。


『食べろ。』


「…ぅ…」(ゴクッ)


『食べないなら、私が食べる。』(ヒョイッ)


「いただきます。」


私がパンを一つ取ると、起き上がり食料を食べる狼。私は水袋に入っている水を飲みながら、勢いよく食料にありつく狼を見ていた。




「ご馳走様でした。」(ペコリ)


『お粗末様でした。』


「貴女、礼儀正しいですね。」


『君も礼儀正しいな。』


鞄にゴミを片付ける最中、狼がぽつりと話し出す。


「我の名は[玄恍(クウコ)]。実は、我は神の護者なのです。

 神に休みをいただいた時、この世界に降りるのですが…三日前、住家にしている洞窟を訪れましたら…」(ズーン)


『奪われていたのか?』(パンパン)←汚れを払い


「…はい。食料も大切にしていた物も…。」


『奪い返そうとしなかったのか?』


「……」(俯き)


『…。』


「だって…我の洞窟に家族揃って倖せそうに暮らしていたら…何もできないです。」


『そうか。』


「それから飲ます食わず、三日間森をさ迷い…気がつくと倒れていました。」


『綺麗な泉が近くにあったぞ。』


「行く途中に魔獣が現れまして…神に『違う世界で戦うな。人の姿になるな。殺生はするな』と言われておりますので……魔獣を避けていたら、こんなに経ってしまいました。」(ズーン)


『偉いな。約束を守るとは。』


「神は我の全てですから!!」


急に元気になった玄恍。先程とは打って変わり、生き生きとした表情で拳を握っている。


「そういえば、貴女の名を聞いてもよろしいですか?」


『私は[勿忘草]。獣使いだ。』


「勿忘草さんですか。」


『呼び捨てで良い。私も良いか?』


「はい。玄恍で構いません。」


『そうか。後、敬語は必要ないぞ。』


「わかった。」(コクリ)


玄恍は話終わったのか、私を見つめる。私も特に話す事はないので見つめ返す。


「あ、食事代はどうする…?」


『見返りを求めてしたわけじゃない。気にする必要はないぞ。』


「我が気にするのだ。」


真っ直ぐに目を見る玄恍。真剣な顔に、私は視線を逸らし少し考える。




『私は先程“獣使い”と言った。覚えているか?』


「ああ。」(コクッ)


『私と契約して、もし、私が困った時には手を貸してほしい。』


「…。」


玄恍は考えるように俯き、暫く沈黙が続く。


『用事がある時は、そちら側を優先して良い。時間が空いてる時に手を貸してくれれば問題ない。』


「勿忘草が魔獣とかに襲われたの時はどうするのだ?」


『玄恍の他にも契約者はいる。そちらを呼べば大丈夫だ。』


鞄の中にある契約書の束を見せる。20~30くらいはありそうだ。

それを見て、納得したように玄恍は頷く。


「わかった。契約するにはどうすれば良いのだ?」


『先ず、此処に手形を押してくれ。』


「これか?」


勿忘草が鞄から取り出した茶色の紙に手形を押す。くっきり肉球が紙についた。


『次に、私の身体の何処かに歯形をつけてくれ。』


「!!」


勿忘草が突然ワイシャツのボタンを外したのに驚き、真っ赤になりながら顔を背ける玄恍。


『早くしろ。』


「…。…!!?」


そーっと振り向けば、右肩を出す勿忘草。白い肌から多数の歯形の痕が見え隠れしている。


玄恍は戸惑った。


(獣使いだとしても、年頃の女性の身体に傷をつけるなど…)


玄恍が躊躇っていると、何を勘違いしたのかワイシャツの袖を捲る勿忘草。


「!?」


『そこは痕が多くてやりにくいか。右腕ならどうだ?』


「…」


玄恍は言葉を失った。勿忘草の肘から二の腕までには大小様々な歯形がついている。見ているコチラの方が痛々しいほどに…。

だが、当の本人は気にした様子はなく、玄恍に右腕を差し出している。


「…辛くはないか?」


『?』


「勿忘草は何処かに嫁いでも良い年頃だ。なのに、これほどまで身体を傷つけて…何が目的で旅をしているのだ?」


『…玄恍が私の身体に歯形をつける理由が必要か?』


「…ああ。」



勿忘草は右腕を下ろすと、玄恍を見つめながら話す。



『私は“人捜し”をしている。』


「…“人捜し”?」


『そうだ。昔、命を助けてくれた恩人に礼を言う為に。』


「…その者の名は?」


『わからない。』


「…年齢は?」


『わからない。

 わかっているのは、黒い髪の少年という事だけだ。』


「…情報が少なすぎる。その者が死んでいるかもしれないのに…勿忘草はまだ旅をするのか?」


『ああ、見つけるまでは一生探し続けるつもりだ。』


「…もし、その者が見つかった時は?」


『感謝の言葉を述べて、また旅を続ける。』


「…一定の場所に留まろうとはしないのか?結婚して、子供を作り…」


『見つけてからの話だ。まだ当分する気はないな。』



(…呆れて物が言えない。たった一言、礼の言葉を述べる為だけに己の人生を棒にふるとは…本当に女子(オナゴ)なのか疑うほど、己の倖せを考えない。望まない。掴もうとしない。

 まぁ…そのような者こそ、手を貸してやりたくなる。)



玄恍は俯き気づかれないようにニヤリと笑むと、顔を上げわざとらしく『ハァ…』と溜息をつく。


「痛むかもしれないが我慢しろよ。」(ペロッ)


『…』


歯形をつける部分を舐める。少しでも血が流れないように。

勿忘草の肌に牙を当てると、少しだけ力を入れる。


グッ…!!


『…ッ』


「…これで良いか?」(ペロペロ)


痛みに顔を微かに歪める勿忘草に、直ぐに腕から離れ流れる血を舐める。


『…あぁ、これで良い。』


勿忘草は鞄から薬草や包帯を取り出し、手早く血を止める。止血をし終えた勿忘草は、疲れた表情で木にもたれ掛かる。

数分後には何時もの表情に戻り、玄恍も安心する。


…しかし、玄恍には気掛かりな事があった。



「勿忘草。」


『…何だ。』


「我の知る限り、術者と契約者との契約は、


[紙契約](特定の紙に手形やサインをする契約)


[血契約](契約者に己の血を与え(シモベ)にする契約)


[体契約](己の身体を契約者に捧げる契約)


しかないと思ったのだが、身体に歯形をつけるのはどのような意味が……」


『…。』



…玄恍は、これ以上何も言えなかった。

玄恍を見つめる勿忘草の目が…『これ以上何も言うな。』と告げていたから。

今まで見てきた中で、冷静だと思っていた勿忘草が……弱々しく、全く効果のない睨みを向けている。


こんなに必死になってまで、伝えなければならないような相手なのだろうか……わからない。我は、そういう者に出会った事がない……神も[信途(フェンツウ)]も何時でも会おうと思えば会える距離にいる。我にはこの二者しか必要ない……だから、勿忘草の気持ちは理解できない。


理解できないが…わかりたいと思う気持ちがある。




『…そろそろ行く。玄恍はどうする?』


勿忘草は立ち上がり、衣服についた草を払う。何時もの表情に戻っていた。

我も腰を上げ勿忘草を見上げ口を開く。


「まだ休暇中だからな。勿忘草に付き添ってやろう。」


ニッと口端を上げ笑う。


『そうか。』


そして、勿忘草との旅が始まった―……






(玄恍…わからないなら、知ればいい。知りたいなら、傍にいれば良い。理解したいなら、話し合えばいい。それで充分だ。)


…昔、神がおっしゃったお言葉を思い出す。大切な思い出。とてもよく覚えている。



空を見上げ静かに目を閉じ、神に祈る。


(神…後少し、休みをいただけませんか?昔、貴方様が仰せになられた事を確かめたいのです。

 玄恍は必ず神の元にお戻りいたしますゆえ…貴方が下さった名に誓って。…お願いいたします。)



暫く祈っていると、勿忘草が振り返る。


『玄恍、どうした…』


―ヒュンッ!!グサッ!!


「!?」(サッ!!!)


『…鎗?』


突如、我に向かって空から鎗が降ってきた。…いや、“投げられた”と表現した方が正しいだろう。…何故なら、その鎗は我の物だから。

神を護る為だけに使う鎗。神が下さった物。

我の祈りの返事代わりなのだろう。嬉しすぎて顔がだらしなく緩んでしまう。


ふと、鎗に手紙が張ってある事に気づき、人の姿に変わり封を空ける。




《玄恍へ


土産は色んな種類の饅頭で許してやる。街に着いたら、直ぐに送れ。

無駄な殺生はするなよ。

普段は狼の姿でいろ。

良いな?




追伸.


納得したら帰ってこい。

神より》



「…っ…神!ありがとうございます!!」(ギュッ!)


手紙を思いっきり抱きしめる。歓喜あまって涙が出そうだ。



ヒュンッ―……ゴッ!


「!?」


『…石?』


喜びを噛み締めていると、後頭部に衝撃がはしる。

涙目になりながら頭に当たった石を見ると…紙が張ってある。



《早く帰ってこい。

信途より》



…我の同僚からだった。

しかし、神も信途も……我を殺す気なのだろうか?…少し悲しくなってくるな。



落ち込んでいると、視線を感じそちらを向く。勿忘草が我を見ていた。


「どうした?」


手紙と(一応)紙を懐にしまい、勿忘草に歩み寄る。

勿忘草は首を傾げ、我に問う。


『玄恍か?』


「あぁ。」


『先程とは全く違うな。首が痛い。』


「これが本来の姿だ。」


勿忘草の前に立つと、勿忘草は首を上げなくてはならない。頭一つ分くらい我の方が高い事がわかる。



『もう用はないか?』


「あぁ、もう済んだ。」


鎗に触れると、鎗は消える。ピアスにしまったのだ。

消えたのを確認してから狼の姿になる。

勿忘草は何も言わなかった。





再び街を目指して歩く。

今まで無言だった勿忘草は、我を見て質問する。



『玄恍。』


「何だ?」


『今時の狼は、人の姿になれるのだな。』


「………え?」


『しかも言葉を話せる…やはり、違う世界と行き来できるようになったからか。』


「…だから我は…」

『時代の流れは早いな。』


「…。」(汗)



何も言えなくなる玄恍であった。




これから先には何があるのか……それは、また違うお話で。


…うん、最後まで勘違いしている勿忘草さんでした。


神も信途さんも玄狼に鎗と石を投げるとは……ま、生きていたから結果オーライですね(笑)



お疲れ様でした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 登場人物が魅力的ですし、世界観にも引き込まれるものがありました。ワスレナと玄恍のやりとりも、面白くて良かったです。 [気になる点] 個人的に少々説明不足かな、と感じられるところがありました…
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