表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/38

授業7「インフルエンサー戦略」

商業科の教室には、休日とは思えないほどの熱気が漂っていた。いつもの席には諒が立ち、アリアとフィオナが向かい合うように腰かけている。


今日は「インフルエンサー戦略」について、さらに深く学ぶ特別レッスンだ。


「今日は“インフルエンサー戦略”について。さっき、ざっと説明したけど、改めて言えば“影響力のある人が情報を発信して一気に広める”ための手法だよ。二人はどんなイメージを持ってる?」


諒が教壇からそう問いかけると、アリアは腕を組んで首をかしげた。


「んー…あたしは戦闘で稼ぐタイプだし、あんまり“商売の広め方”とか興味ないんだけど?」


一方のフィオナは待ってましたとばかりに手を挙げる。


「私はお店で看板娘をしていたから、お客さんを呼び込むっていうのはちょっとわかるんです。あの延長が“インフルエンサー”ってことですよね? 先生、もっと具体的に教えてください!」


諒はうなずきながら、まずはアリアのほうを向いた。


「たとえばアリアさんは“戦士科の最強戦士”なんて噂があるよね。周りからすると『あの人が認めた武器なら安心』って思われるわけだ。つまり“武器メーカー”や“装備商会”から見れば、アリアさんが使ってくれるだけで宣伝になるんだよ」


アリアは少し頬を赤らめながら、ぶっきらぼうに返す。

「……あたしが綺麗とか目立つとか言いたいわけじゃないわよね?困るんだけど」


「もちろん見た目もあるけど、最大の強みは“戦士としてのカリスマ”だよ。実力が伴ってるからこそ、アリアさんの言葉に説得力があるんだ」


するとフィオナが、すこしふくれた表情で口を挟む。


「ふーん、じゃあアリアさんが最強で美人で、それがぜんぶ効いてインフルエンサーとして最高ってこと? 私は二番手なんですかねぇ」


諒はあわてて両手を振る。


「ち、違うよ。フィオナさんだってかわいいし、美人だよ。それに“接客力”や“華やかさ”が大きな強みだし。要は“どんな内容を発信するか”が戦士科と商業科で違うだけで、二人とも影響力が高いんだ」


フィオナは恥ずかしそうに「あ、うん…」と視線をそらす。横のアリアもプイっと横を向きながら、小さくため息をついた。


「なにそれ……あたしは……いや、別に張り合う気はないけど、ちょっとやりづらいわね」


諒は苦笑いを浮かべ、黒板に書いた「インフルエンサー戦略」という文字を指さす。


「さて、本題に入るよ。インフルエンサー戦略を成功させるには、三つのポイントがあるんだ。まず“商品やサービスとインフルエンサーの相性”。次に“発信の一貫性”。最後に“ファンとの信頼関係”だよ。どれもすごく大事なんだ」


アリアが木剣をクルリと回しながら首をひねる。


「相性、発信の継続、信頼関係……ふん、たしかに“この鎧最強だよ”って言っておきながら、すぐ別の鎧に浮気したら呆れられそうだわ」


フィオナもそれに同意するようにうなずく。


「私がいろんなお店ばかり宣伝してたら、お客さんが『どれが本物?』ってなりますもんね。なるほど、ちゃんと信頼してもらうには一貫性が大事なのか」


諒は満足そうに頷いてから、再びアリアへ視線を向けた。


「アリアさんは戦士としてのカリスマが武器だけど、たとえば“魔鋼製の新しい剣”が出たときに、アリアさんが実際に使って『すごく軽いし威力もある』って発信すれば、他の冒険者はみんな欲しがるだろうし、値崩れもしにくい。これがインフルエンサーの強みなんだ」


アリアは少し考え込んだ様子で、ポツリとつぶやく。


「まあ、その剣が本当に良い出来なら、あたしが使ってやってもいいけど……。やりにくそうじゃない? なんか気を使いそうで」


「必ず契約しなくちゃいけないわけじゃないけど、利害が一致すれば悪くない話だよ。装備提供してもらえるならアリアさんの出費は減るし、戦闘力が上がる。鍛冶屋は知名度を得られる。お互いが得するウィンウィンの関係だよ」


するとフィオナが、楽しそうに声を張り上げる。


「そこに私みたいな商業科が宣伝をサポートして、“アリアさん実演会”を開くのもいいかも。剣を振ってみせるだけでギルドの人たちが大注目しそう!」


アリアは顔を真っ赤に染めながら、木剣をぎゅっと握る。


「ば、バカ言わないで……人前で振り回すなんて恥ずかしいわよ。でも、まあ……装備が安くなるなら考えてやってもいいかも……」


フィオナはクスクス笑いながら、諒に向かって視線を送る。諒は黒板の別の場所に「アイドル的インフルエンサー」と書き込み、今度はフィオナを振り返った。


「アリアさんが“戦士のカリスマ”を活かすなら、フィオナさんは“アイドル的な魅力”を使う手もあるんだ。人前に立ってパフォーマンスをする、とかね」


フィオナは目を輝かせる。


「アイドル…って、聞いたことないですけど、“お客さんを惹きつける”イメージですか?」


「うん、そんな感じかな。たとえば店の新商品を紹介するときに、小さな公演を開いたり、華やかな服を着て服の宣伝をしたり。フィオナさんが楽しそうに紹介すれば『この子が推す商品なら買ってみたい』と思う人が増える」


アリアは苦笑いで肩をすくめる。


「歌とか踊りとか……あたしには無縁の話だけど、まああなたには向いてるんじゃないの」


「えへへ、前にお店でやってた接客みたいな感じで、お客さんを楽しませたいですね。そうすれば“私が薦めるなら間違いない”って思ってもらえるかも!」


諒は二人のやり取りをほほえましく眺めながら、軽く黒板をノックする。


「要するに“戦闘の実績でブランド力を高める”アリアさんと、“アイドル的な華やかさで盛り上げる”フィオナさん。どちらも商品やサービスの宣伝にとって大きなメリットになるわけだよ。ちゃんと実力や魅力があってこそ成り立つ戦略だけどね」


アリアは照れを隠すように頬をかき、フィオナは得意げに胸を張る。そこで諒は付け加える。


「もしアリアさんが大クエストで活躍したら、その様子を商業科が記事にして学院の掲示板に貼りだす。『この装備を着たアリアさんが魔獣を撃破!』なんて広報したら、一気に“あの装備が欲しい”ってなるかもしれない」


フィオナは小さく歓声を上げる。

「わあ、それ絶対盛り上がりますよ! そこに私が加わって“宣伝イベント”を企画すれば、もっと話題になるし……」


アリアはやや気恥ずかしそうに木剣を握り直す。


「大げさ……でも、ちゃんと利益があるなら、そういうのも悪くないかもね」


諒は頷きつつ、インフルエンサー戦略のまとめに入る。


「インフルエンサーは人前に出ることになるから、戸惑いもあるだろうけど、本当に良いと思うものだけを勧めれば問題ない。フィオナさんとは発信内容が違うけど、逆にコラボすれば“戦士科×商業科”の強力な宣伝になるはずだよ」


アリアはそっけなく鼻を鳴らす。


「ふん…別にあんたに褒められたって嬉しくないけど…まあ、やってみてもいいかもしれないわ」


心の中で拗ねているフィオナが、諒を見上げて小さく口をとがらせる。


「先生、私のこともちゃんと見てくださいよ? なんだかずっとアリアさんばかり褒めてる気がするんですけど……」


諒は苦笑いしながらも、彼女の肩に手を軽く置く。


「もちろん見てるよ。フィオナさんの魅力はすごく大きいし、二人のタッグこそ最強のPRになる。だからぜひ、協力してやってみよう。異世界でも絶対に評判になると思うよ」


フィオナはむっとしながらも、うれしそうに頬を染める。アリアはわずかに視線をそらしつつも、まんざらでもなさそうな表情で木剣をしまった。


「わかったわ。ちょっとだけ乗ってやる。……暇があればね」


「よし、じゃあ今日はこのへんで。次回は“スポンサー契約”とか“プロモーション戦略”について話そう。それまでに二人とも、自分がどういう形で“インフルエンサー”になりたいか、ちょっと考えておいて」


そう諒が締めくくると、フィオナとアリアはそれぞれ微妙な距離を保ちながらも、お互いを意識するようにちらりと視線を交わす。


どちらも“負けたくない”気持ちと“協力したら面白そう”という期待が混ざっているらしい。彼女たちがそれぞれの魅力を武器に、どんなインフルエンサー戦略を展開していくのか――。諒は少しだけ高揚した気分を抱えながら、教室のドアを開け放つ。ここから先、二人の美少女が繰り広げる“最強PR”の幕が上がるのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ