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老少女は人使いが荒い  作者: 本知そら
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九十日目

   九十日目(最終日)


「ふんっ!」

 三ヶ月前にも見た光景が再現される。

 前回よりも一回りも二回りも大きな光の剣、すでにこれを剣と言ってもいいのか分からない光の線は、遠くに見える城を一瞬にして消滅させた。言葉通りに、塵一つも残さずに。

 魔王、討伐完了。

「え、これで終わり?」

「うむ。終わりじゃ」

 呆気にとられる俺とは違い、疲れた様子を微塵も滲ませることなく、リィナはこの旅の終わりを告げた。

「もっと遠くからやっても良かったんじゃが……一応視界にいれておかんといらぬ被害を増やしそうでの」

「は、はあ……」

 マジで俺いらなかったとは……鍛えた意味は……流れ弾さえも……ってまさか光の剣?

 一方的に始め、終わった最終決戦と、新たにできた峡谷を望みつつ、リィナの力を再確認する。そして自分が主人公ではなくて良かったと心から思った。

「さて、帰って祝言を挙げるか」

「祝言って、誰か結婚するのか?」

 なんともこの場に相応しくない言葉に思わず聞き返す。

 リィナが振り向き、自分、そして俺を指差し言った。

「わしとお前じゃよ」

「へぇ。リィナと俺か。それはめでた――」

 ……。

「ってえええええ!?」

「おっと逃がしはせぬぞ」

 驚愕する俺の腕をガッチリとホールドする。俺はそれどころではないというのに。

「ちょっ、おま、結婚て、は??」

 頭がついていかない。そんな俺を見るリィナは何故か楽しそうに笑っていた。

「驚くのも無理はないかの。しかしこれは旅が始まる前から決まっておったことじゃ」

「始まる前からって、それってつまり……えぇ!?」

「あやつが封印解呪を失敗したせいで、わしはもう元の体に戻れぬし、封印の魔法も使えん。ただ、この体自体は普通のおなごとなんら変わらず機能しておる」

 結構重要なことをここに来てカミングアウト。……い、嫌な予感がする。これ以上先は聞いてはいけない気がする。しかし逃げることはできない。逃げようとも思わなかった。

「そして、現国王はアッチの方が機能しておらんようでの。子宝に恵まれておらぬ。あとは……もう分かるな?」

 リィナが頬を染め、ニヤリと笑う。既に彼女からは力が抜け、その手はそっと俺の胸に添えられている。

「わしを守ってくれる。お主はそう言うたよな?」

 言質は取った。そう言いたげな目が向けられる。

 ……これはもうアウトだろう。選択肢は山ほどあるようで、一つしか無い。きっとそれはこの旅が始まる前から決まっていたのだ。

 抗うことは出来る。しかし、そうしなくてもいいか、という思いが俺の中では強かった。

 昨日、約束したばかりだしな。

「いらないって言わないか?」

 俺の言葉にリィナが目を丸くする。けれどすぐに柔らかな笑みへと変わった。

「ふふっ。言うはずがなかろう。わしを守ってくれ」

「……分かった」

 一度だけ、力強く頷く。それが十代の若造の応えでも、きっといつまでも変わらない答えだと信じて。

 見上げるリィナは今までで一番の笑顔を見せてくれた。

 そして――


「これからよろしく頼むぞ。ダ・ン・ナ・サ・マ」


 小さな体を精一杯伸ばして、、俺の頬に軽くキスをした。

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