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本能の感情  作者: 作太郎
1/1

第1部

人は誰しもが感情を持っている。人は感情をそのままに生きることはできない。それは人間が理性という枷が、わかりやすく言うと社会のルールというものがあるからこそ人は人として生きて行ける。しかし感情は時に人に大きい勇気を与えたり、感動を与えたりする。


この感情はプラスに傾く分大きくマイナスに働くこともある。 ちょうど光が濃くなれば闇もまた濃くなるように。




おれはいつも自分のことばかり優先するようなやつだった。 表向きは「他人や家族に迷惑をかけないように自立したい」「周りの期待に応える」なんて大層な事を口に出して言って、結局は誰かを頼り切ったり、周りの期待に応えるどころか周りのせいにするような人間だった。


でもそれを自覚してるだけあって、変えたいと思う気持ちが常にあった。 そんな事を日々考えては面倒くさくなり、後回しにして目の前のやりたい事だけをやっているような20代の一般男性だ。




そんなおれはいつも通りに運送の仕事を淡々とこなす日々を送っていた。 8月中旬の都内某所。「こんな暑い中何十個もの荷物を運ぶなんて正気じゃない」と軽口を言いながら仕事をしていたある日、週に一回業務用の牛乳を頼む喫茶店に足を運んだときのことだ。この喫茶店の中はとても今流行りの綺麗な雰囲気ではなく、昔ながらの小汚いタバコの残り香がする様な店だ。だが、別にそれが苦手なわけではなくむしろ喫茶店はこうゆう風なくらいが好きである。喫茶店に運び終わり帰ろうとすると店の路地裏から普段では滅多に聞かない音が鳴り響いていた。それは刃物が何かとぶつかり合う音に似ていた、、。


興味本位でその路地を覗きに行くとスタイルの良いメイド服を身につけた20代後半くらいの女性が居た。


まず目に入ったのはその長い刀の様なものだった。その後にその刀の様なものの先にいる人の死体だった。


初めて死体を見た衝撃とこの異常なシュチュエーションに頭が真っ白になってしまった。この路地、美人、死体、長い刀な様なもの、それが揃っていることで情報がありすぎて思考を止めて見ることしかできなくなっているおれにその美人から声がかけられた、


「何がみえていますか」


彼女は至って冷静に静かに問いかけてきた。おれはその問いに素直に答えるしなかった。


「美人と死体と長い刀」


彼女はフッと少し笑って


「なにその表現は まるで売れない作家の作品タイトルね」


「しかし、この子がみえているということはあなたはなにかを敏感に感じ取りやすい人間なんでしょうね。」


彼女が話していることが断片的にしか入ってこないが少なくとも冗談をこの状況で言えるだけの余裕があるということだけは分かった。




彼女にこんなとこにいつまで立ち尽くしているんだと言われハッと我に帰り、なにが起きていたのかを聞くこともなく急いで帰ろうとした時、彼女に


「まって、あなたはこの子がみえているよね。初めてあなたみたいな人に会ったわ。」


「少しお話がしたい。」


おれは一体なんのことを言われているか全くわからないし、この子ってどこにいるんだという疑問が浮かんでまた固まってしまったが、


「あなたはすぐに思考がとまってしまうのね、まぁいいわとりあえずこの表の喫茶店に入って。」


(彼女が指差したのは、先程おれが納品を終わらせたばかりの喫茶店だった。)


おれはそう言われ、どうして?と考えてしまったが今日の配達分は早めに終わりあとは車を返すだけだった、なのでまだ時間はある。それにこの喫茶店は気になっていたし、ついて行くことにした。


彼女はメイド服を着ていた。おれはカウンターの席に座り、彼女はカウンターの中に入って行ったのでこのお店のウエイトレスだったんだなと一人で納得していたところ。


「なにがいい?」


と聞かれたので、せっかくなら自分が運んできた牛乳が使われていると思われるカフェオレを頼んでみた。


そしたら彼女は


「あなたのとこの牛乳価格の割に結構良いのよね」


と言ってくれた。 配送業をやっている身としてはこうしてお客様の感想をいただけるのは素直に嬉しい。


彼女は承りますと言い後ろを向いて作り始めた。 そして、タバコの残り香があったことからここは喫煙できるのでは!と思ったが案の定灰皿が目の前に積んであったので、一服して待つことにした。


そしておれが二本目を半分吸い終わるぐらいに彼女がカフェオレを出してきた。 そういえば名前を知らなかったなと思い、おれは自分の名前を名乗った。


「城守映咲って言います。」


「あなたのお名前は?」


と聞いてみた。そして彼女が少し考えて


「わたしにはその時に相応した呼び方をされるから決まった名前がないし、元々自分の名前を知らないの。」


「それでも何か呼び名が欲しいのであれば、、、」


ゆきがいいわね。」


正直、名前がない人に会ったことがないからなのか素直に至さんと呼べない自分がいた。過去何かしらがあるのは確実に今わかることでその過去を良ければ聞いてみたいという失礼ではあるが好奇心がある。 しかし、今はもっと先に聞かなければならないことがある。


そう、さっきの事だ。




でもどう聞けばいいかがまったくわからない。


「なんで人殺しをしていたんですか?」


なんて聞くのも馬鹿みたいな気がしてうまく会話を切り出せない。


そうこうしていると至さんが聴きたいことがあるんじゃないかという風に見つめてきた。こんなに綺麗な人に見つめられるとドキドキきてしまうがこれは相手が殺人者だから心拍数が上がっていると思うことにした。


「え~、こんなことを聞くのもおかしいことですがなんで路地裏で人を切っていたのでしょうか」


「別におかしいことではないわ」


「人が人を殺していたらなんで?という感情が浮かぶのは当たり前だから、あなたはおかしくわないわ」


おれはもうさっきの出来事があったことでこの状態でおかしい事なんてまともな事くらいなんだと思った。


「結論から言うとわたしは『人体』は殺してはいない、でも人から溢れたものを殺したの」


人から溢れたものってなんだ?と思うおれを置いて説明はつづく。


「人は様々な感情を持っている、それは喜びでも悲しみでも怒りでもなんでもいいんだけど人は色んなことに感情を抱いて生きている。」


「それは本来肉体の中だけで収まるはずなんだけど、例外として溢れてしまうことがある。」


おれはそれを聞いてそんなことがあり得るはずがないと思った。感情なんて形がないものに溢れるなんていうことがあるなんて、、、。


「溢れることがあるなんて、と思ったらかしら。」


至さんはふふっと笑った。


「人から溢れた感情は行動となった表に現れるわ。 喜びが溢れる場合は笑顔になったり、気分が上がっていつもと違うことや考えをしてしまう、悲しみが溢れると涙を出したり、自暴自棄になったりして自らを傷つけたりする、怒りは他人に危害を加えたり、それをエネルギーにしてなにかを成し遂げる人もいる」


「そして感情が溢れる場合の中でどの感情でも人を殺めてしまうことがあるの。」


そんなことが、と思ったがよく考えてみれば自分の中でもそうゆうことがある様な気がする。


でも、それが殺人につながるなんて突拍子もないことがあるなんて信じられなかった。


「でもそれがどうさっきのことと関係しているんですか?」


至さんはまた少し笑って


「あなたはとても素直なのね。わたし自分の感情に素直な人は好きよ。」


おれは少しドキッとしてしまった。何?この感情?


「わたしはその溢れてしまって、殺人に及んでしまいそうな人の感情のみを殺せる。 この体にある目とさっきあなたが見た刀がそれを成すためにあるの。」


それを聞いて理屈は何となく理解できた。


でもそれが現実味があるかどうかでいったらそうゆう訳でもない。


「全てを理解できてはいないですが、とりあえずは法的に危ないことはないってことですよね。」


「そうね。あの人は死んではいないし、これからは普通通りに生きれる筈よ。」


おれはひとまずホッとした。こんなに綺麗な人がお縄にかかることがあったらかなりのショックだったから。


「これからもここを経営しながらこうゆうことをしていくんですか?」


「えぇ、まぁ面倒になったら辞めようと思っているけど今のところは面倒ではない具合で退屈しのぎになっているからね。」


それじゃあ、またここで休憩の時にでも顔を出そうと心の内で決定した。


そうしたら至さんがそういえばという感じで


「あなたはなぜこの刀やさっきの感情が見えたのかしらね。」


「あぁたしかに、自分は初めてこうゆうのが見えるので理由はわかりませんね。」


本当におれは特別なことは一切ない人間だからあまりこうゆうことにも縁がない。だから理由なんて考えることをしてもないからすぐに思考が終わってしまう。


「至さんがそういうのは詳しくないんですか?」


「わたしもこの現象が物心ついたときからあって私にとっては普通のことだったからなぜこうなのかは全くわからないのよ」


これは二人とも手掛かりがないとすると行き詰まりになってしまう。


「そうしたら、自分なりに調べてみてたまにここによって有益なのがあったら一緒に考えてみませんか?」


おれは少しの下心を含んだ提案をしてみた。


「それは良いわね、面白そう。」


至さんは、そう言って笑ってくれた。


これでこの人と関わる時間が少しできた。おれはさっき起きたことや理解できないことを知ったことよりも今の会話の方が何倍も今日起きたことで嬉しく有益なことだ。


我ながら物事に無頓着だなと思ったがそれも良いことだろうと思った。


「そしたらまた来ます。」


と言い店からでた。


至さんはヒラヒラと手を振ってくれている。


これからはかなり楽しいことになりそうだと平凡な日常が好きな自分には似合わないことを考えながら車を会社に返しに向かう。




いつもの景色が綺麗に視えた。




一部終

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