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「この島って私有地かな?」
あかりんが聴いた。
「喪服チャンはそんなにお金持ちじゃないでしょ」
りんちゃんの反応は正しい。
普通に考えると喪服チャンがそんなに金を持ってるとは思えない。
ただ実はとんでもないお嬢様だったりするのかなあーとあかりんが探りを入れたのだ。
「スイカ割りをしたビーチってプライベートビーチなのかな?」
「じゃないでしょ。お茶の間博士もいたし」
「だよね。私たち、そんなに稼いでないもんね」
やっぱ、喪服チャンはお嬢様じゃないようだ。
まあ、あの雰囲気からお嬢様らしさは微塵も感じない。
どちらかというと魔女に近い。
あれで美魔女ならいいんだけど、どう見ても大阪のおばちゃんみたいな雰囲気である。
と言うことは今度のご褒美は相当覚悟をきめてメンバーに還元したのだろう。
うん?お茶の間博士?
リンちゃんの記憶にはすでにお茶の間博士が登場している。
お茶の間博士っていつ出会ったんだろう。
記憶がごちゃごちゃになっている。
確かイケメンさんの知り合い?
そう言えばイケメンさんとしばらく会ってない。
なんか寂しい。
タイムリープしてるから時間的にはそれほどたってないのだろう。
とは言え体感的には何日も会ってない気がする。
ずっとお茶の間博士としか会ってない。
どうせならイケメンさんと過ごしたかった。
時間旅行が二人の新婚旅行です。
「パパパパーン」とあかりんは結婚行進曲を口ずさむ。
ああ、イケメンさんになら武道館で愛を囁いてもいいのになあー。
どうしてよりにもよってお茶の間博士。
しかも催眠術で告白させようなんて、姑息だわ。
まったくなんて豚野郎。
でも催眠術の方法は分かってる。
緑のサイリュームを見続けてると催眠にかかるのだ。
必死に緑のサイリュームを振る女の子たち。
そこはレッスン場。
アイドルグループ、オチャノーマ・サマーのダンスレッスン。
その様子を満足げな顔で見ている男。
お茶の間博士である。
「絶対!武道館に行くぞ!」
お茶の間博士が叫ぶ。
するといたいけな少女たちが、
「めざせ!武道館!チャチャチャ!」と湯飲みを振り上げる。
「ガールズヒップホップ系アイドルの頂点をめざすわよ」
そう、マドカが叫んだ。
辺りが暗くなると、「さようなら」と少女たちは帰路に。
たった一人スタジオに残ったお茶の間博士。
その顔は満足げである。
ソファーに深く沈み込んだまま、日本酒を飲む。
「余は満足じゃ」と日本酒を一気飲み。
オチャノーマ・サマーのアイドルグッズをテーブルに並べてはニヤついている。
そしてメンバーの写真のアクリルスタンドを手にとっては頬ずり。
「マドカとルリはこの位置。キララは端っこ」とフォーメーションを決めて遊んでいる。
「『恋のウンチングスタイル』は魔法少女みたいなブリブリのアイドル服がいいな」
お茶の間博士はファッション画を描いている。
そこへ黒猫が現れる。
「なんだ、十兵衛!」
「幸せそうだね」
「ああ、幸せだよ」
「僕と契約を結んで良かっただろう?」
「ああ、最高に幸せだ」
十兵衛が猫タワーを駆け上る。
「本当に願い事を叶えてくれるんだね」
「もちろんだよ。僕は君の願い事を叶えるためには手段を選ばない」
「最高の気分だよ。ありがとう十兵衛」
「それより僕は君の願い事を叶えて上げただろう」
「なんだ、その含みのある言い方は?」
「君はそのおかえしをしなきゃいけない」
「なんだ、それは?」
お茶の間博士は十兵衛を睨み付ける。
「まさか命を差し出せとでも言うつもりなのか」
「君の命なんか興味は無いよ」
「そりゃあ良かった」
「君は自分を買いかぶりすぎだ」
「許してくれよ。今まで報われたことのない人生だったんだ」
「だろうね」
「今、僕は青春を取り戻している」
「ずっとモテたかったんだろう」
「そうさ、僕はずっと女の子にモテたいと思ってたんだ」
「さぞ辛い人生だったんだね」
「そうでもないさ」
お茶の間博士は日本酒を一気飲み。
「ある時から僕の中に諦めという言葉が湧き出して……………………」
お茶の間博士は言葉をつまらせて泣き出してしまった。
レッスンの帰り道。
十兵衛がサイキョウ・マドカの前に立ちはだかる。
「キャー!猫!」とマドカは飛び跳ねる。
「やあ、マドカ」
十兵衛がマドカに話しかける。
「何、猫が喋ってる」
マドカは後ずさり。
「そんなに驚くほどのことかい?」
「当たり前でしょ、化け猫」
「失礼な。サンリオみたいな僕に向かって」
十兵衛は見るからにサンリオにいそうな顔立ちをしている。
猫なのにキティよりシナモロールに似ている。
「猫が言葉を喋ってるんだよ。気持ち悪っ!」
「こんな可愛い僕をつかまえて失礼だね」
「可愛い?あなたが可愛い?キモいっつうの!」
十兵衛はしっぽを振って愛想を振りまく。
「ねえ、僕と契約を結んで魔法少女になってよ!」
十兵衛がマドカの足下に纏わり付く。
そして十兵衛はマドカの体を駆け上がり、首元へ。
そして右肩にちょこんと座る。
「これでも僕が気持ち悪い?」
マドカは両手に十兵衛をだきかかえる。
そして抱きしめる。
十兵衛は無表情。
「マドカ!よけて!」と叫び声。
銃を持ったルリ。
ルリは銃をぶっ放す。
十兵衛の顔がぶっ飛ぶ。
そして腕が跳び、おなかに大きな穴が開いた。
「マドカ!そいつに耳を貸しちゃダメ!」
血まみれの十兵衛。
それを手に持っているマドカ。
「キャー!」と悲鳴をあげる。
そしてボロボロの十兵衛を投げ飛ばす。
宙に舞い上がる十兵衛に銃弾を撃ち込み続けるナツメ
ボロボロの十兵衛。
「どうしちゃったの?ナツメ」
マドカはルリとナツメを見つめる。
ルリは息を荒げてる。
「魔法少女なんかになっちゃダメ!」
ルリとナツメはアイドル風のヒラヒラの服を着て立っていた。
「魔法少女なんかになったらこんなブリブリの服を着せられるのよ!」
ナツメが叫ぶ。