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「タランチュラが出るってここってどこ?」
リンちゃんが震えてる。
あかりんにはそこがどこか薄々気がついていた。
リンちゃんはあかりんがインストールされて賢くなったことを知らないのだ。
あかりんは全てを話すのは辞めようと思った。
あかりんだけが正解に辿り着いていて、あかりんの話を信じてくれない可能性は高い。
下手なことを言うと中2病扱いされそう。
それは避けたい。
「私たち、タイムリープしてると思うの」
あかりんが言った。
「タイムリー?」
「惜しい、タイムリープ」
「タイムリーフ………」
マトパカ・リンは大きな口を開けっぱなし。
タイムリープもヤバいかあー。
ライトノベルじゃ定番なんだけどな。
『あかりんの憂鬱』
中2病全開だよね。
でも現実なんだ、これが。
「それって鯛焼きか何か?」
「ズコッ!」とあかりんがずっこける。
「もおー!今のでタイムリープしたらどうする気」
『涼宮ハルヒの憂鬱』みたいに夏休み最後の日が繰り返したらどうするの?
あかりんは辺りを見渡した。
相変わらず同じ森。
今タイムリープしてないよね、多分。
風景が変わらないから分かんないよ。
「タイムリープってなんなの?」
「映画で言うと『君の名は。』的な。『時を駆ける少女』的な……………………」
「何、それ?」
マトパカ・リンが首を傾げる。
そうだった。
リンちゃんはオタクでもなんでもないごくごく平凡な一般人。
アキバのアの字も分からないオタクオンチ。
アニメの話題も漫画の話題も全く通じない変わり者。
アキバに迷い込んだごくごく平凡な女の子なのだ。
虹コングらしくない普通の女の子。
タイムリープを説明するなら、アニメが一番なのに。
リンちゃんには理解できないか。
「もちろん、『東京卍リベンジャーズ』って分からないよね」
「何それ?」
「漫画」
「漫画かあ~!」
「だよねえー」
リンちゃんが漫画を読んでるとこ見たこと無いよね。
「東京卍リベンジャーズ」流行ってるんだけどなあー。
タイムリープってうまく説明できない。
「そもそも東京ってどこ?」
マトパカ・リンが言った。
「何言ってるの。東京は東京でしょ」
リンちゃんまでおかしなこと言っている。
「武道館があるのも東京だし」
「あれは日本武道館だってば」
「どうしちゃったの、リンちゃん」
「どうもしないわ」
「ねえ、虹コングが活動していた秋葉原って分かるよね?」
「アキバじゃないでしょ。赤羽じゃない」
「赤羽は埼玉だよ」
「でもオタクの聖地って言ったら、赤羽でしょ」
「何言ってるの!赤羽は居酒屋が有名なおじさんが集う町じゃない」
「違うって、オタクシティ赤羽でしょ」
「ボケてるの?」
いや、リンちゃんはモノボケもできないクソ真面目。
こんなボケを思いつくはずがない。
いつもでも一生懸命、だけどポンコツ女子!
「東京だよ、東京。日本の首都東京だよ」
「だから日本の首都は埼玉だよ」
待って、それって天然。
おバカ?
いやあ、さすがにないよ。
だってアキバとアカバネの区別がつかないってあり得ない。
元々虹コングはアキバで活動してたんだから。
ヤバいってリンちゃんの中から東京が消えてる。
「さっきまで武道館でライブしてたでしょ」
「してないよ、あかりん」
「はっ!」
タイムリープしてるから武道館ライブも無かったことになっている。
「もうすぐだね、埼玉武道館でのライブ」
リンちゃんがそう言った。