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あの日を境にハゲのオジさんが毎日のように通ってくる。
とんだ嫌がらせだ。
ルリにとってお茶の間博士は威圧でしかなかった。
あのハゲ、いったい何が目的なんだろう。
いつも気持ち悪い顔で私のことを見つめてる。
私の萌えマジックに子供のようにはしゃいでる。
私が顔面すれすれにステッキを振り回しても動じない。
いや、むしろ喜んでいる。
この男、変質者か!
ステッキでボコボコにされる妄想でもしているのだろうか。
じっとルリはお茶の間博士を見つめてる。
こんな男がストーカーになるんだろうか。
ああ、今日も見てる。
キモいんですけど……………………。
なんだろう、あの日以降、熱い視線を感じる。
お茶の間博士はなんかルリルリにいつも見られてる気がしてしょうがなかった。
まさか恋?
なわけないか。
そうだ、俺はブサイク。
そんな夢は見ることすら許されない。
こうして財布でルリルリの心を繋ぎ止めるしか能の無いブサイクなのだ。
美女と野獣。
映画は所詮映画なんだ。
この俺が魔法にかかっているはずがない。
魔法がとけるとイケメンでした。
そんなことはきっと起きやしない。
俺がモテないのは子供の頃から継続中なのだ。
間違っても魔法をかかられてブサイクになったわけじゃない。
ましてどこかの国の王子様でもないのだ。
しかしじっと見てるな。
ほんと、財布もヤバいがおなかもヤバい!
確かに僕は太っちょだよ。
だからって太っちょが大食いってわけじゃない。
どちらかと言えば小食なのだ。
これ以上注文しても食べるのが辛いだけだ。
分かってはいるが、ルリルリのために、
「オムライスをください」
お茶の間博士は手をあげる。
ルリはじっとお茶の間博士を観察していた。
ほんとハゲくらい信じられないやつはいない。
しかもデブ。
ハゲはテストステロン多めのせいだろう。
きっとイヤらしい目で私のことを見てるにきまってる。
ヒラヒラのスカートの中身を妄想してるんだ。
最低だ。
大体あのおなか、自己管理がまったくできてない。
欲望にまっすぐで抑えがきかない証拠じゃない。
デブが安心するなんて言ってる女子は間抜けだ。
デブは欲望に素直な証拠だ。
デブが危険性が少ないのは自分のことをデブでモテないと思い込んでいるからだ。
デブは女からチヤホヤされたことがない。
だからそういうことに全く期待してないのだ。
どうせモテっこないから欲望を表に表さない。
それがデブが安心できる理由なのだ。
テストステロンバカのマッチョと同じくらい、頭の中は変質者なのだ。
デブとマッスル、相反するのにどちらもテストステロンは多め。
欲望に忠実なデブとストイックなマッチョ。
マッチョにはまだブレーキが残っている。
やっぱりデブの勝ちだ。
ハゲもまたテストステロン多め。
じゃあ、デブでハゲはどれほど欲まみれの大人なんだろう。
ああ、エロさで言えば最強の取り合わせではないか。
そんなハゲデブに弱みを握られてしまった。
こいつがいつ暴走してもおかしくない。
秘密を盾に何を要求してくるか分かったもんじゃない。
「俺にアンダースコートをくれ!」
そう言い出すとも限らない。
最低だ。
お茶の間博士が手をあげる。
「ルリルリ、ご指名入ったわよ」
ルリルリは突然溢れんばかりの笑顔に変わる。
なんなの、また注文。
どんだけ食べる気。
もうオムライス5杯目じゃないの。
そりゃあ、太るわ。
「萌え萌えマジックをかけちゃうぞ!」
ケチャップをかけるルリ。
「おいしくなーれ。萌え萌えキューン♡」
ルリは愛情たっぷりの魔法をかける。
ぷはっ!
もう限界だ。
オムライスが重い。
スプーンが重い。
口に運びたくない。
「あーん」とルリがスプーンいっぱいオムライスをのせて口の前に。
いやいやお茶の間博士が口を開ける。
するとスプーンでオムライスを運ぶルリルリ。
オムライスの波状攻撃。
口いっぱいのオムライス。
皿にはオムライスが残っていない。
くるしーい。
息ができない。
必死で飲み込み、気道確保。
「おいちぃ?」
ルリルリがお茶の間博士の顔を覗き込む。
もう美味しいのか、美味しくないのか、分からない。
「おいちぃ」とお茶の間博士。
こんな毎日、耐えられない。
なにかいい方法はないだろうか。
護身術を身につけないと。
この凶暴な女を大人しくする方法。
お茶の間博士は考える。
人の心をあやつるテクニック。
やっぱ、催眠術でしょ。
催眠術を身につけよう。
このままじゃ僕はオムライスに殺される。
本屋に向かうお茶の間博士。
西村凶太郎著。十兵衛刑事シリーズ。
「ブルートレイン・ケチャップで書かれたダイイングメッセージ」
グルメトラベルミステリーで有名な西村凶太郎の本を手に取る。
「トワイライトエクスプレス・オムライスをつくる魔法少女失踪事件」
この本は参考になりそうだ。
じゃない。
催眠術だ。
いつも買うグルメ本じゃないんだ。
「寝ながら満腹になる本」
全然使えない。
「催眠術で小食になる方法」
もうすでに小食だ。
「催眠術で女をおとす方法」
きっとこの本が役に立つ。
このままじゃ、ルリルリに殺される。
「魔法少女の取扱説明書」
この本も役に立ちそう。
「日本全国ローカルアイドル図鑑」
お茶の間博士は「オチャノーマ・サマー」を探す。
あった。
ゴリゴリのラッパー集団。
アイドルの枠を超えたゴリラッパー。
ゴリラ?
ゴリラなんかいたかなあ?
ドラミングをしているナツメの写真が載っている。
「アイドル界のゴリラッパー。ナツメだYOO」
人間だけじゃダメなのか?
「動物に催眠術をかける方法」
お茶の間博士は本を手に取る。
密かに催眠術の勉強を始めたお茶の間博士。
オチャノーマ・サマーに催眠術をかけたい。
そのためにはどうしても超えないとならない壁がある。
ゴリラッパーナツメ。
難敵ゴリラッパーナツメに催眠術をかけることができるのか?
病ンデレるりとの対決の日はせまる。
カミングスーン。