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『メイド喫茶魔法少女』
看板が風に揺れている。
お茶の間博士はこの店の常連であった。
お茶の間博士の願望の原点はこの店にあった。
それは十兵衛と出会う前のお話。
まだお茶の間博士の髪の毛はフサフサ……………………ではなかった。
今よりほんの少しだけ多かった頃のお話である。
「いらっしゃいませ、ご主人さま」と少女が出迎える。
お茶の間博士の一日の息抜きはメイド喫茶で食べるオムライス。
そこで運命の出会いがお茶の間博士に訪れた。
その日新人の女の子がバイトとして入った。
ルリである。
オチャノーマ・サマーのメンバーのルリ。
生活費に困りメイド喫茶でアルバイトを始めたのであった。
その店の常連だったお茶の間博士はルリに夢中になった。
いつも指名するのはルリ。
ルリは完全にお茶の間博士のハートを虜に為たのである。
クルクル回る魔法のステッキ。
ルリは天井すれすれまでステッキを投げてそれをキャッチした。
バトントワリングのようにくるくる回る魔法のステッキ。
「おいしくなーれ。萌え萌えキューン」
そう言ってぶりっ子ポーズ。
そしてクルクル回る魔法のステッキをキャッチ。
そして、魔法をかける。
「メタモルフォ―ゼ!」
そう言ってステッキでオムライスの上でハートを描く。
すっかりお茶の間博士はルリの魔法にかかってしまった。
そんなある日お茶の間博士はメイド喫茶に向かう途中の地下鉄のポスターを見て思った。
この子、なんとなくルリに似ていると。
格好はヒップポップ系であるが、どうみてもルリである。
「オチャノーマ・サマー?」
お茶の間博士はMVを見てみる。
何度見てもそこで踊っているのはルリであった。
しかしあのブリブリのルリがこんなイカツイ女なはずはない。
これはいわゆる他人の空似というやつだ。
とは言え気になるのは名前である。
魔法少女の胸には「ルリルリ」とネームがついている。
そしてオチャノーマ・サマーのメンバーもルリである。
偶然か?
いやあー……………………。
「メタモルフォーゼ!」と魔法のステッキを振り回し、オムライスに魔法をかけるルリ。
この子があのラッパーなわけがない。
攻撃的なリリックはまさに真逆。
聞いてみるか?
いや、違ったら嫌われるかもしれない。
「ねえ、ルリルリ」と1人の男が声をかける。
「君ってもしかしてアイドルのルリチャンじゃない?」
男が言った。
ルリルリの顔から血の気がひいた。
「ねえ、そうだよね」
男は身を乗り出してそう言う。
「違います」
「ウソだあ~。絶対ルリだって」
「私、あんなにヒップホッパーじゃありません」
「なーんだ、知ってるんだね、オチャノーマ・サマーのこと」
男は不敵な笑みを浮かべる。
「あっ……………………、知ってますよ、売れっ子ですから」
「そうかなー、けっこうマニアックだと思うよ」
「私、オタクなんです」
ルリルリは背中を向ける。
「分かった。そういうことにしておくよ」
男は吐き捨てる。
「ルリルリさあー。君はせっかく可愛いのに、B系ファッションじゃ台無しだよ」
男の言葉の追撃が続く。
男の意見にお茶の間博士も同意見であった。
「私の普段着はロリータです」
それを聞いて、お茶の間博士はロリータファッションのルリを思い浮かべる。
萌え~。
いろんなロリータファッションを想い浮かべる。
絶対に似合ってる。
「へえ……………………、ぜひ見てみたいね」と男は笑ってる。
「ムリです」
「今度握手会に行くからさ、僕の名前を覚えておいてよ」
なんて強引な男だろうとお茶の間博士は思った。
「僕の名前は小林やすのぶって言うんだ」
「握手会なんてしませんから」
「そうなんだ」
小林は笑う。
「そう言えば君は見たかな。僕が出てたテレビ?」
男はルリの背中に叫んでる。
「僕ってけっこう有名人なんだ」
「そうですか?」
「鉄骨の上から落ちても死ななかった男。それが僕だよ」
思わずお茶の間博士が小林を見る。
行方不明の小林やすのぶ。
こんなところで会うなんて……………………。
土門さんに連絡……………………。
お茶の間博士はスマホを閉じる。
連絡したらまりこさんに連れ戻される。
また過酷なブラック労働。
残業につぐ残業の日々。
やっとあの牢獄から逃げ出せたというのに。
ああ、ここは敢えて見逃すか。
お茶の間博士は小林やすのぶから見えないように顔を隠す。
覚えてるわけ無いか。
とは言えここは知らんぷり。
せっかくまりこさんから逃げてきたんだ。
しかしこれでこの店に通う理由ができた。
万が一にもまりこさんに捕まってもいいわけができるじゃないか。
小林やすのぶを見つけて、張り込んでいたと。
これは最高のいいわけを手に入れた。
しかもここは僕の大好きなメイド喫茶。
もしかすると経費でいけるかもしれない。
まりこさんの無駄使いを思えばたいした額じゃない。
愛しいルリルリ。
僕がこのメイド喫茶に通いつめる理由は君だよ。
「メタモルフォーゼ!」とオムライスに魔法をかけるルリ。
しかし気がつかなったなあー。
やっぱりオチャノーマ・サマーのルリがルリルリだったんだ。
なんでまたメイド喫茶なんかでバイトをしてるんだろう。
いや、普段B系ファッションの女がメイド喫茶で魔法少女の格好をしていたら、まず気付かない。
敢えて真逆のバイトをしているのかもしれない。
でもだとしたら中身はオラオラのB系女子。
それはちょっとイメージダウン。
いや、むしろ、事務所の方針で無理やりB系ファッションをしているのかもしれない。
魔法少女の女の子、そっちが本当の姿なのかも。
そうだ、そうに違いない。
じゃないと、あんなに見事に魔法のステッキを操ることはできるはずがない。
もし魔法のステッキ選手権があったなら、並みいる敵をなぎ倒し、ぶっちぎりの一位に違いない。
どちらにしてもルリはルリだ。
俺はこのメイド喫茶魔法少女のルリルリが大好きである。
売れないタレントが密かにバイトをしているんだ。
ああ、いっそ、売れないといいのになあー。
そうしたらいつまでもこの店でルリルリに会える。
間違っても売れっ子になったりしたら、僕のことなんか忘れてしまうにきまってる。
そしてにわかファンのミュージシャンの餌食になるんだ。
僕だけのルリルリ。
君には売れっ子になって欲しくない。
「魔法をかけちゃうぞ!」
オムライスに魔法をかけるルリルリ。
オチャノーマ・サマーのルリとは似ても似つかない。
お茶の間博士はスマホで隠し撮り。
顔認証をしてみるとオチャノーマ・サマーのルリと99%一致した。
間違いなく同一人物である。
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そのうち引っ越しします