23
10階建てのビルから男が飛び降りた。
飛び散る飛沫は淺黒く変色していた。
男の名前は栗原ひろもと。
「おい、まりこ」と出門が呼んだ。
「この文字、どう思う?」
「ダイイングメッセージ……………………」
そう言ってビルを見あげる。
「まりこさん、多分ここから飛び降りたようです」
勇樹の声が屋上からした。
死体の傍らに「10」の文字。
自分の血で描いたのであろう。
まりこは直感的に違和感を感じた。
「おかしいわね」とマリコは腕を組む。
「あの高さから落ちたなら、即死」
じっと「10」の文字を見る。
「じゃあ、誰が文字を描いたって言うの」
「誰かがひろもとの手をつかんで数字を描いたんだな」と出門。
「多分そうだと思うわ」
「じゃあ、この10にはどういう意味があるんだ」
「それはまだわからない」
「あのゲームに関係があるんだろうか?」
「さあ?」
あのゲームとは自殺サイトの住人たちで鉄骨の上を渡らせたデスゲーム。
結局勝ったのは途中参加の喪服チャンであった。
その時手にした賞金で虹コングの武道館でのライブが開かれることになっていた。
「あのゲームに参加したのは何人だ?」
「多分15人。途中参加で喪服チャンとあざかわばななさんが加わってるからエントリーは13人じゃないかしら」
「13という数字に意味はあるのか?」
「13と言えば……………………、鎌倉殿」
そう言ったのは出門。
「キリストっぽい」と言ったのはマリコである。
「鎌倉殿はないわあー。お年寄りの発想よ」
「そうかあ?」
「普通はキリストじゃない?」
「キリストってよくわからんな……………………」
「13日の金曜日も13よ」
「その13に意味があるのか?」
「13日の金曜日はキリストが殺された日でしょ」
「演技が悪いって迷信みたいなやつだな」
「いわゆるキリストの弟子の数は13人」
マリコは言った。
「シモン・ペトロ。アンデレ、ヤコブ、ヨハネ、フィリポ」
マリコは息継ぎ。
最近歳のせいか、すぐ息が切れる。
「バルトロマイ、トマス、マタイ、ヤコブ、タダイ、シモン・ゼロテス」
はあ、はあとマリコは苦しそう。
「そして、ユダとマグダラのマリア」
「大丈夫か」
「大丈夫。じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ くうねるところに すむところ やぶらこうじの ぶらこうじ パイポパイポ パイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの ちょうきゅうめいの ちょうすけ」と一気に喋りまくる。
「負けず嫌いなやつだ」
「私のどこが負けず嫌いよ」
「10番目の弟子は誰だ?」
「ヤコブかしら?もしくはマタイかも」
「栗原ひろもととヤコブ?全然違うぞ」
「そうね」
「なんだ、いい加減だな」
「もしかしたらクリスチャンネーム?」
「なるほど……………………。だとしたら変じゃないか?」
「何が?」
「自殺サイトの住人なんだぞ、あいつらは」
「そうね」
「キリスト教って自殺は禁止だろう」
「だから自殺サイトに集ったんじゃない?」
「いやいや、強引すぎるだろ」
「自殺サイトじゃなくて他殺サイトだったとしたら?」
「他殺サイト?」
「つまりみんなキリスト教徒。ゆえに自殺はできない」
「何が言いたい」
「自殺がダメなら他殺しかないでしょ」
「お互いが殺し合うのか」
「そうなるわね」
「まさか、奴等は殺し合ったのか?」
「あの自殺サイトのみんな、結局、誰も死んでない」
「そうだ。思いとどまったのか」
「殺すのが怖くなったとか」
「あり得る」
「とまあ、これは私の推理よ」
「そうだ、推理だ。科捜研の仕事じゃない」
「名探偵マリコの推理日記」
「お前、アニメ化を狙ってるのか!」
「江戸川マリコ。探偵よ。真実はいつも一つ!」
マリコは真っ赤な蝶ネクタイを結んで黒縁メガネ。
「だから出門さんに調べて欲しいの?」
「何を?」
「みんなはキリスト教徒なのかを」
「わかった」
「で、この死体はどうみる?」
「他殺サイトだったとしたら」
「殺された」
「死刑執行人がいるとしか思えない」
「そいつが10と描いたのか」
「そうね、私が推理作家ならそうするわ」
「じゃあ、違うのか?」
「あまりにもデーターがなさ過ぎる。思い込みはミスをうむわ」
「そうだな」
藤倉刑事部長が現れる。
「それはお前たちの想像だ」
「刑事部長」
「いいか、そんなミステリーな考えは捨てろ。全て証拠だ。証拠を積み重ねて結論に導くんだ」
「わかってます」
「死体は栗本か?」と藤倉。
「そうです」とマリコ。
「ゲームの後で姿を消した男の1人です」と出門。
「なぜ姿を消したのか、分かってるのか?」
「まだなんとも言えません」
マリコの答えに藤倉は死体を見下ろしている。
「自殺の線はないのか?」
「ダイイングメッセージがあるんで」
「なるほど」と藤倉は腕を組む。
「そして殺されたんだな」
「そうだと思います」と出門。
「逃亡した4人のうちの1人がやったのかもしれんな」
「間違いなくそうだと思います」と出門が前に出る。
「思い込みは捨てろ!」
「しかし……………………」
出門は歯を食いしばる。
「10の謎かあ……………………。推理小説だな」
藤倉は屋上を見あげる。
「十戒も10だな、確か……………………」と藤倉。
「十の戒め」を暗唱するマリコ。
「1・あなたは、わたしのほかに神をおかしてはならない」
「2・あなたは、自分に彫像を造ってはならない」
「3・主の名をみだりに唱えてはならない」
「4・安息日を守って、それを聖別しなければならない」
「5・あなたは、父母を敬え」
「6・あなたは、人を殺してはならない」
「7・あなたは、姦淫してはならない」
「8・あなたは、盗んではならない」
「9・あなたは、偽証を立ててはならない」
「10・あなたは、隣人の家を欲しがってはならない。隣人の妻、男女の僕、牛、ろば、および隣人のものすべてを欲しがってはならない」
「これが十戒です」とまりこ。
「発破かけたげる♪」と中森明菜の『十戒』を歌い出すマリコ。
「つまり人殺しもできないわけだ」
出門は腕を組む。
「うるさいな!歌!」と藤倉が怒る。
「土門さん、全員、キリスト教徒ではありませんでした」
勇樹が駆け寄ってそおう言った。
「そうか、わかった」
マリコは相も変わらず『十戒』を熱唱中である。
「やあ、十兵衛」
お茶の間博士が笑う。
「そろそろ僕の願いをきいて欲しいんだ」と十兵衛。
「まだ無理」とニヤついた顔のお茶の間博士。
「もう十分だろう」
「まだ足りない」
「毎日毎日女の子のアイドルに囲まれて楽しいんじゃないか?」
「もっともっともーっとチヤホヤされたいんだ」
「欲が深いんだな」
「せっかくのチャンスだし」
「あなたは姦淫してはならない。十戒の中の言葉だよ」
「十戒って?あの海が割れるやつ?」
「その通り」
「十戒」について解説するよ。
映画でも有名なシーンだね。
モーゼがエジプトからイスラエル人を率いて脱出。
海に阻まれ絶対絶命。
モーゼが杖を振るうと紅海が左右に分かれ、海の道ができるんだ。
どんな呪文をかけたんだろうね?
「プリキュア・メタモルフォーゼ!」かも。
その姿まさに魔法少女。
モーゼはおじいさんなのですが。
中2病のモーゼ。
日頃のプリキュアごっこがいきたのでしょう。
エジプト軍は追跡をやめ、イスラエル人は助かるのです。
まさにRPG。
「海が割れて道ができるなんて、ウソっぽい話だよね」
「十戒の頃なら死刑に値する」
「何が?」
「君は欲望をむき出しじゃないか」
「でも手は出してない。見てるだけだ」
「キリスト教では妄想も罪になるんだぞ」
「だってしょうがないじゃないか!俺は地獄に堕ちても後悔はしない」
「その言葉、聞き遂げた」
「俺は悪魔と契約してもいい」
「分かった」
十兵衛がお茶の間博士のおなかの上にのぼる。
「もう待てないよ」
黒猫の十兵衛が爪をたてる。
「いたたたた」と黒猫を押しのけるお茶の間博士。
「もう少し待つよ。その代わり君の毛が少しずつ抜けていくよ」
「えっ?大切な毛根が……………………」
「ところで……………………」と十兵衛。
「少女たちに契約を結ぶと降りかかる不幸の話はしたのかい?」
十兵衛が静かに語りかける。
お茶の間博士の顔が焦ってる。
「君がしたとは思えないけどね」
「今はその話は秘密だよ」
「そのことが分かると彼女たちはどう思うだろうね」
「フフフフ」
「最低だね、君って」
「俺はそれでも彼女たちのメイド姿が見てみたいんだ」とお茶の間博士は薄笑い。
「僕がその話をしてもいいんだよ」
「だから秘密厳守だよ」
久々の登場。
名前、間違ってるかも。
ブログは前みたいに管理画面に入れなくなるかもしれないが、やっぱり引っ越すよ。
途中でNGが出たときは考える。
取り敢えずある程度たまったらアマゾンで発売するよ。
電子書籍だけどね。
気が向いたら買ってね。
みーたんと忍者タナカーズ 連載中 で検索。
https://www.naokiss2001jp.com/ をコピペ。
そのうち引っ越しします




