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お茶の間博士は緑のサイリュームを指揮棒のように振っている。
するとそれに合わせてオチャーノーマ・サマーのみんなの顔が右へ左へ。
緑のサイリュームを追いかけてくる。
みんな犬みたいだ。
なんて可愛いんだ。
濡れた子犬のような目をしてたロココは?
笑ってるじゃないか。
良かった。
ロココもみんなも犬の着ぐるみを着ている。
たれ耳で可愛いロココ。
シナモロールじゃないか!
よきよき。
待ってくれ!
あの強面女。
ナツメがダルメシアンの着ぐるみを着てる。
「ナチュメだワン!」
ルリは柴犬。
「ルリルリだワン!」
なんてことだ。
これがいわゆる詐欺写というやつか。
おかしい。
別人だ。
ロココもいいが二人も悪くない。
これはなんの夢だ。
俺はもう死ぬのか?
ゲームオーバーか……………………。
「私と遊んでワン」
誰かが腕に噛みついた。
パグがいる。
確か……………………、西崎なんだっけ……………………。
ああ、ロココだけに夢中でまだ全員の名前を覚えてない。
待てよ、もっとギャルギャルしてなかったか?
パグの着ぐるみが可愛すぎる。
あと……………………、キメラ397だっけ?
いやあ、それじゃあ、化け物だ。
目がギョロッとしてるなんだっけ……………………。
グレムリン。
そう、ギズモだ。
柴犬のコスプレがギズモにしか見えない。
ズルいぞ、キララ!顔で笑いをとるなよ。
この顔、逆に目立ってる。
記憶に残りやすい顔だ。
「私も遊んで欲しいワン」
反対の腕に甘噛み。
シベリアンハスキーだ。
「ベリー・キュート」
甘噛みをしながら上目づかいのスミエ。
「どうした、スミエ!かわいすぎじゃないか!」
「フン!別にあんたなんか好きじゃないんだからね」とすねているスパニエル。
スモモはソッポをむいている。
「もおー、若い子ばっかり」と日熊がお茶の間博士を襲う。
日熊の剥製をかぶった金栗である。
「怖いな、モォー」とお茶の間博士。
新巻鮭を振り回す金栗。
それを見て飛びかかってきたナツメ。
「熊殺しのウィリー・ウイリアムスだ!」とみんなを威嚇する。
それをあっさり腕しぎで押さえ込むルリ。
みんなの様子を遠目に見ているロココ。
「ロココ!お手!」
お茶の間博士が手を出すとロココが手をのせる。
「おかわり」
ロココは手を変えてしっぽを振る。
しっぽ?
みんなシッポがついてる。
シッポが揺れてる。
なんだ、みんな同じ方向にシッポが揺れてる。
面白い。
犬コスかあー♡萌え萌えだなあー♡
これはきっと夢なんだろうな……………………。
分かってる。
きっと十兵衛のやつがプレゼントしてくれたに違いない。
現実じゃないんだ。
でも限りなく理想に近いドリーム。
ラリってもきっとこんな幸せな光景は見えないはずだ。
これって俺の願望なのか?
きっとそうだ。
おれはオチャノーマ・サマーをこう変えたいのだ。
可愛いじゃないか。
あの強面も別人のようだ。
これなら騙される。
いやあ、違う。
これなら騙されるファンがいっぱいうまれる。
着ぐるみ万歳。
畜生!みんな、可愛いなあー。
やっぱ、これだ。
これが俺が目指すオチャノーマ・サマーだ。
ヤンキーでファンキーは卒業だ。
もちろんギャルも卒業させる。
俺は俺の夢で確信を得た。
この路線で間違いない。
ビビってる場合か!
何度ボコボコにされたとしてもこんな幸せが現実になるなら我慢ができる。
決めた。
俺はみんなを更生させる。
じっとロココの顔を見る。
笑ってる。
あの怯えていたロココが笑ってる。
「ワンワン」と言って、犬の真似をしながらルリとナツメがお茶の間博士に飛びかかってきた。
押し倒されるお茶の間博士。
二人はお茶の間博士のおなかの上に乗って、「ワンワン」とアピール。
みんなが萌えてる。
萌え萌えじゃないか!
ワンダフルメイドカフェでモテモテ状態。
一人だけ日熊が混じってるが……………………。
ほんと、お前たちは可愛いな。
お茶の間博士はルリとナツメの頭をなでる。
「ワンワン」としっぽをふる二人。
なんだ、こうやって見ると二人とも可愛いじゃないか。
すると急に腕を甘噛みされた。
ロココである。
すねた顔でソッポをむいている。
畜生!可愛すぎる。
「ナツメ!」とお茶の間博士はサイリュームを遠くに投げる。
「ワンワン」と走って、ナツメはサイリュームをとりに行く。
そしてサイリュームをくわえて帰ってきた。
「よしよし」と頭を撫でる。
するとルリもワンワンと上目づかい。
いや、みんながこっちをじっと見ている。
お茶の間博士は緑のサイリュームを紙袋からとりだして、左右に投げ分ける。
いっせいに追いかけるみんな。
夢だ!ドリームだ。
パーフェクトドリームだ。
これこそ男の夢だ。
一番最初に戻ってきたのはスモモである。
「よしよし」と頭を撫でてやると嬉しそうに含み笑い。
みんながサイリュームをくわえて戻ってきた。
みんなの頭を撫でてやる。
日熊がサイリュームをくわえてお茶の間博士に襲いかかる。
金栗は少しズレてるが慣れるだろう。
「見てワン、見てワン」とナツメが吠えている。
ナツメを見るとナツメは両方の鼻の穴にサイリュームを刺して吠えている。
「誉めるワン、誉めるワン」と頭を下げる。
お茶の間博士の脳天に電球が灯る。
木魚を叩く一休さん。
なんだろう。
サイリュームかあー……………………。
試しにサイリュームを左右に振ってみる。
みんなの顔がサイリュームを追いかけて左右に。
間違いない。
これは使える。
一休さんが木魚を叩き割る。
うん?誰かいない。
誰だ?
そうか、マドカがいない。
なんでマドカがいないんだろう。
俺の夢なのに、マドカが欠席なんて……………………。
待て待て。
ななみんもいない。
あのとびっきり出たがりのななみんがいない。
なんで二人はいないんだ。
ふと甘噛みをされる。
一番最後にロココが緑のサイリュームを持って帰ってきた。
「お前も好きだぞ」
お茶の間博士が抱きしめると、しっぽを振るロココ。
気がつくと8人がお茶の間博士の上に覆い被さっていた。
「ハハハハハハ」とお茶の間博士は笑っている。
「ねえ、キモくない」
そう言ってキララ・サンキューなながお茶の間博士を見下ろしている。
「さっきからヘラヘラしちゃって、不気味」
西崎サンキューが言った。
二人はギャルメイクでばっちりキメていた。
「なんで寝てんだろうね」と西崎39は不思議そう。
「死んでるのかな?」と西崎。
「それより顔に落書きしようよ」とキララは口紅を取り出す。
そして顔に落書きをはじめた。
ハゲてる部分に「ハゲてないモン」と書くキララ。
「私、ほっぺたにグルグル描いちゃおう」
西崎サンキューも一緒に落書きをして笑ってる。
「はい、チーズ」と写メを撮っている。
「先輩、笑えるッス」と西崎39。
この二人、表向きは仲良しギャルコンビである。
オチャノーマ・サマーのオーディションで一際目立っていた二人である。
「ギャルはオーディション、うけちゃあ、ダメなんですか?」
キララがオーディションでふて腐れている。
「うちは可愛い路線でいくつもりだから」
「だってうちら可愛いじゃないっすか」
そう言って文句を言った西崎39。
「ギャルはあつかったことがないっていうか……………………」
審査員のマコトが戸惑っている。
「合格っすよ、合格」とキララが書類に合格とマーカーで書く。
「ギャル差別反対」と西崎39。
「うちらなんか即戦力でしょ、即戦力」
キララがマコトを睨み付ける。
「そうっすよ。うちらをとらないと損しますよ」
「ああ!坂道にしようかな」
「ワックもいいっすよ」
「はい、合格、合格」とキララが合格と西崎の書類にも書いた。
「二人揃って合格決定」とキララはパラパラを踊り出す。
それにつられて西崎39もパラパラを踊り出す。
そんな二人にも通い合うモノがあった。
それがお茶の間博士をキモいと思う感情である。
「私、こいつとだけは握手券破いても握手したくない」
キララが言った。
「一緒ぉー」と西崎とハイタッチ。




