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「僕は君という人間がよく分からないよ」
「なんだ、願い事をしただろう」
「いやあー、君のことだから天馬君を蘇らせて欲しいと言うのかと」
「なんで天馬を?」
「君はトラウマをなくしたいと思わないんだ」
「なんのために」
「なるほどねえ」
「それに天馬が蘇ってみろ、俺の好きな子とイチャつくに決まってる」
「そうかあー……………………」
「なんだよ、願い事に審査でもあるのか?」
「無いよ。君の願いは必ず叶う」
「じゃあ、もういなくなれよ」
十兵衛がお茶の間博士の肩から飛び降りる。
そしてお茶の間博士を見あげる。
「君はアイドルと結婚もできたのに」
「誰のことを言ってる?」
「君が追いかけていたアイドルだよ」
「でも結婚してるじゃないか」
「僕が願えば離婚するさ」
「そして僕と結婚するというのか?」
「その通り」
「どうせ愛のかけらもない結婚だろ」
「それは分からない」
「魔法に頼るんだ、こんな僕に夢中になるわけ無いだろ」
「どんな願いも叶うと言ったはずだよ」
「じゃあこんな僕に夢中になるのか!」
「もちろん」
「待った。やり直していいか!」
「それは無理。もう君は願い事をしたからね」
なんてことだ。
もっと慎重に願い事を考えるべきだった。
オチャノーマ・サマーかあ……………………。
しばらくするとお茶の間博士は落ち着いた。
どうあがいても願い事は変えられないのだ。
なら武道館をめざすしかない。
本当に願い事が叶うと言うのなら、僕の力でオチャノーマ・サマーを武道館に立たせて上げることができるのだ。
こんな幸せなオタクがいるだろうか?
オタクなんて所詮はCDを買ったり、ライブに足を運んだりしてやっと顔を覚えられるのが精一杯。
貢だけ貢いで自慢できるのは俺の応援のおかげで武道館に連れてったぜ!
そう自己満足するにすぎないだろう。
言葉ではみんなの応援のおかげでと多くのファンたちに感謝の言葉を述べるに決まってる。
しかしそれはある意味社交辞令。
本当の感謝はしてくれない。
いくらお金を積み上げたところでその量だけでは本当の愛情はついてこない。
むしろ全くアイドル活動をしてたことさえ知らないようなお金持ちにさらわれてしまうのだ。
ファンの愛情とはどこまでいっても具現化しない魔宝石のようなモノ。
ただ十兵衛と契約を交わしたことで僕の愛情はファンのそれとは違うモノになった。
僕が努力すればそれは明らかに形になって帰ってくる。
僕がいなければオチャノーマ・サマーは武道館に立てやしないのだ。
全て僕のおかげだ。
僕のおかげでオチャノーマ・サマーは武道館でライブをすることが決定したのだ。
しかもオチャノーマ・サマーのメンバーを全て僕がプロデュースすることができるのだ。
この願い、そんなに悪くない。
まだまだ生まれたてのヒヨコたちを僕が卵の産めるにわとりに育てていくんだ。
これぞ、ファンの醍醐味ではないか。
ああ、良かった。
一瞬、天馬君を蘇らせてやろうと思ったが、そうしたからって天馬は僕に感謝なんかするまい。
僕は昔のトラウマと引き換えにオチャノーマ・サマーを自由にできる権利を手放すところだった。
よし!後悔はない。
俺の選択に微塵の狂いもない。
これでいいのだ。