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お茶の間博士は同じ場所を何度もモップがけ。
モップで拭いても拭いても消えない血。
十兵衛の真っ赤な血だ。
「なんでこんなに消えないんだ」
あの猫、ふざけやがって。
俺が天馬を羨んでいる?
まさか。
あの落ちこぼれやろうを……………………。
ふざけるな。
あいつは自分で勝手に堕ちていったんだ。
高校時代、あいつは突然イジメの標的になった。
理由はきっとあいつが顔が良くて頭が良かったからだろう。
とくに女の子にキャーキャー言われて俺でさえ鬱陶しかった。
それが1年年上の先輩に目をつけられたんだ。
あいつは目立ちすぎたのさ。
繰り返されるイジメの日々。
やつは俺にまで救いの目を差し伸べた。
俺が目をそらすとあいつはがっかりした顔でうつむいた。
そして次の日やつは学校を休んだ。
いや、やつは自殺をしたんだ。
自宅で首をつったんだ。
俺は悪くない。
俺が手を差し伸べたりしたら、今度は俺が標的だ。
だから俺は悪くない。
だからもう俺の前に現れないでくれ。
やっと忘れかけていると言うのに。
頭がおかしくなりそうだ。
そうやってしつこくされると辛いんだよ。
後悔してもしきれないんだよ。
あの時僕が声をかけてあげたら死ななかったんじゃないかって。
僕は今でも天馬君のことを忘れられないんだ。
「どんな願いでも叶えて上げるよ」
十兵衛が現れた日。
やつは言ったんだ。
天馬君だって生き返らせて上げるって。
なんで俺が天馬なんかを。
天馬のためにどうして俺が……………………。
「願い事は一つだけなのか」
「もちろんそうだ」
「じゃあ何か願い事をしたら、もうお前は俺の前に現れないのか」
お茶の間博士はきいた。
「君に会うことはある。しかし君は願い事を叶えたんだ。僕はもう君には用はないよ」
「ああ、そうか」
「なんだ、君の願い事は……………………」
「僕の願いは」
「君の願いは……………………」
「アイドルグループオチャノーマ・サマーを僕の思い通りに操りたい」
「うん?」
十兵衛は首をひねる。
「それはプロデューサーになりたいと」
「そうじゃない。それ以上の存在になりたいんだ」
「うーん……………………。もっと具体的に」
「僕はオチャノーマ・サマーは今のままでは武道館にいける気がしない。だから僕が僕の力でオチャノーマ・サマーを武道館に連れて行きたい」
「つまり君の願いは君の力でオチャノーマ・サマーを武道館でライブができるアイドルにしてあげたい」
「そうそう。そういうことだ」
「それだけでいいのかい」
「それだけでいい」
「オチャノーマ・サマーの誰かと結婚したいでも叶うんだよ」
「それじゃあダメなんだ。今のままじゃオチャノーマ・サマーは武道館なんかに行けやしない」
「分かった。契約成立だね」
「これで君は僕の前に現れないんだろ」
「ああ、会うことはあってもこっちから声はかけないよ」
「分かった」
こうしてお茶の間博士は十兵衛と契約を結んだ。




