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「だから君はアイドルに夢中になった」
十兵衛がそう言った。
「それなりに熱中しただけさ」
岡山は口ごもる。
そこはテレビ局の楽屋である。
岡山はオタク評論家の仕事でテレビ局に来ていた。
これからキャバクラに遊びに行くと言うのに、しつこい猫である。
「いや、君は常軌を逸するほど入れあげた」
「いいだろ、俺の稼いだ金だ。全部俺の好きにする」
「そして彼女は他の男と結婚をした」
「そうだよ」
「君は今でも心の底で彼女のことを想ってる」
「そんなことはない。もう忘れてしまった過去だ」
「そうだろうか?」
「なんだよ。何を知ってるって言うんだ」
「別に……………………」
十兵衛はそこまで言って話しを辞めた。
そしてどこかへ消えてしまった。
「俺だってモテたいよ」
ぼそりと岡山が漏らす。
ムクッと顔をあげ、十兵衛が背伸びをする。
「アイドルを好きになっても付き合えない現実……………………」
十兵衛が再びしゃべり出す。
いつの間にか足下に十兵衛。
「しょうがないだろ、俺はモテないんだから」
「僕と契約しない」
十兵衛が岡山の足下に絡みつく。
「何でも君の願い事を叶えて上げるよ」
「どうせ嘘なんだろ」
「嘘じゃないさ」
「嘘だね。じゃあ、誰のどんな願いを叶えたって言うんだい」
「喪服チャンって分かるよね」
「ああ、虹コングのプロデューサーだろ」
「虹コングに武道館ライブをさせたいってお願いされたんだ」
「それで君が虹コングを武道館に出れるようにしたんだ」
「その通り。僕が喪服チャンの願いを叶えて上げたんだ」
「嘘だね」
「本当だよ」
「後付けだろ。そんな嘘いくらだってつけるよ」
「どうかな?信じるか信じないかは君次第」
十兵衛はそう言って岡山の肩の上にちょこんと座った。
「喪服チャンにきいてみるよ」
「それは無理だ」
「やっぱ、嘘だ」
「喪服チャンが僕に願い事をして武道館行きを勝ち取ったなんて認めるわけ無いだろう」
「フフフフフ、ボロが出たな」
「じゃあ、いいんだね」
「何が……………………」
「どんな願いでも叶えて上げるのにさ」
十兵衛が肩から飛び降りる。
「キャバ嬢の宇佐ちゃんと結婚できるんだよ」
「はははは。騙されないぞ」
「じゃあいいんだね」
「もちろん」
「後悔してもしらないよ」
「僕が後悔?」
なんの後悔をするって言うんだ。