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「僕と契約しない」
「何でも君の願い事を叶えて上げるよ」
「しつこい、しつこい、しつこい」
マドカは足に纏わり付く六兵衛を蹴飛ばした。
ボールのように転がる六兵衛。
「ねえ、マドカ、僕と契約して魔法少女になってよ!」
しつこい勧誘は何度も繰り返された。
「僕が欲しいのは君だけなんだよ、マドカ」
黒猫はマドカの足下に絡みつく。
黒猫のしつこい誘いに苛立ちさえ感じるマドカ。
「きみなら最強の魔法少女になれるよ」
先回りしてマドカの前を遮る六兵衛。
「僕が保証する」
「うるさいな、六兵衛」
そう言ってマドカは黒猫を蹴り飛ばす。
そしてドリブルからのシュート。
黒猫は壁にぶち当たってバラバラになる。
レッスン場に行くとルリとナツメがいない。
「今日は少ないね」
マドカはロッカー室でレッスン着に着替える。
「ほんとだ。みんな休んでるね」
ななみがマドカの顔を覗き込む。
「金栗も最近休んでるね」
「本当だ」
ななみが両手をあごの上にのせて顔を近づける。
「何?」
「元気出しなよ、まどか」
「元気だよ」
「元気になーれ!きゅるるんビーム」
ななみがぶりっ子ポーズでビームをとばす。
相変わらずブリブリだな。
マドカは呆れた。
ななみだけは結成当初からこのキャラを押し通していた。
ヒップホップ系アイドルオチャノーマ・サマーの中で唯一路線が違う。
実はこいつ、もうすでに魔法少女なんじゃないだろうか?
「ねえ、ななみ、十兵衛と契約を交わした?」
「十兵衛って誰?」
「いや、何でも無い」
マドカはななみから目をそらす。
あまりななみを見つめるとメデューサのようにブリブリアイドルになりかねん。
「どうしたの、マドカちゃん。可愛いななみんを見てよ」
「嫌よ」
マドカは顔を背ける。
無理やり視界に入ってこようとするななみん。
「ルック・アット・ミー、マドカ」
「ノールック、ノールック」
マドカはななみんから目をそらす。
するとななみんがマドカに抱きついた。
「マドカ、好き、好き」
頬をすり寄せるななみん。
「よるな、十兵衛!」とマドカはななみんを突き飛ばす。
「モォー!照れちゃって。可愛いんだから」
ななみんが頬をふくらます。




