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「風もないのにブラブラ」
歌い終えるや、あかりんは走り出す。
「リンちゃん、死んだの!」
駆け寄るあかりん。
あかりんは慌ててリンちゃんの足を引っ張る。
「リンちゃん、死なないで」
「うぐっ!」と声がする。
それはマトパカ・リン。
マトパカ・リンはロープの隙間に手を入れる。
「死んじゃうから」とマトパカ・リン。
「生きてるの、リンちゃん」
リンはロープを自らの手で切った。
するとドスンと尻もち。
「ああ、死ぬかと思った」とリンちゃんにグーパンチ。
「良かった!助かったのね」
あかりんがマトパカ・リンに抱きついた。
「何、泣いてるの?」
「だって死んじゃったと思って」
「死ぬわけ無いでしょ、ドッキリよ」
「ドッキリのレベルおかしくない?」
「ウケたでしょ?」
「モォー!ばかうけ!」
あかりんがマトパカ・リンに抱きついて泣いている。
「ああ、よしよし」と頭をなでる。
「でさ、ここってどこだっけ?」
マトパカ・リンが辺りを見渡す。
「えっ?」とあかりんも周りを見渡す。
そこは草木が生い茂った森である。
「森じゃない?」
「動物の森?」
「どこだろう?」
あかりんは思わず垂れているロープを目でおう。
するとロープは木の枝から吊されていた。
「確か武道館でライブをしてたよね」
マトパカ・リンが不思議そうに言った。
その通り。マトパカ・リンが吊されていたロープは武道館の舞台の上にある梁に結んでいたはずである。
そうじゃないと変である。
「どこかなあ、ここ」とリンちゃんが周りを見渡す。
あかりんには思い当たることがあった。
言うまでも無いことだ。
あかりんにはすぐに『タイムリープ』の文字が浮かんだのだ。
だとすれば簡単である。
武道館のライブより過去に戻ったのだ。
そしてこんな森がある場所。
それは喪服チャンのご褒美でやってきたビーチがある場所。
いやあー、正確にはどこか分かっていない。
あの日気がついたらビーチにいたからだ。
間違いない。
あの島だ。
鳥が嘶いている。
「もうすぐ陽が沈むんじゃない」
マトパカ・リンは慌てている。
「私、こんな森で二人っきりって怖いんですけど……………………」
マトパカ・リンは恐怖のあまり泣き出した。
それを励ますあかりん。
日頃ホラーゲームをしているあかりんにとってこのシチュエーションは全然怖くなかった。
「ホー、ホー」と鳥が鳴いている。
「鵺じゃない」
「多分、フクロウ」
「絶対、鵺だって!」
鵺とはいわゆる妖怪。
「鵺の鳴く夜は恐ろしい」と『悪霊島』で有名な化け物。
一度怖いと思い出すと、マトパカ・リンが自身でぶら下がっていたロープさえ怖く見える。
首吊りのロープがブラブラしている。
それを見ながら、「風もないのにブラブラ」とあかりんは歌を歌う。
「私も歌う」とマトパカ・リンも歌い始める。
恐怖心を紛らわそうと「タンタンタヌキの」と歌うリンちゃん。
冷静さを欠いたマトパカ・リンは自分が下ネタを大声で叫んでると気づきもしない。
「心配ないってリンちゃん」
「どうしてそんなに平気なの?」
「心配ないさあー」とライオンキングの真似をするあかりん。
「ウケないんですけど……………………」
真っ青な顔のリンちゃん。
カサカサと音がする。
その音にびっくりしてリンちゃんがあかりんに抱きついた。
あかりんにふとよぎるやましい気持ち。
なんか面白い。
このまま怖がらせとくのもありね。
女の子が怖がってる姿って大好物。
しかも抱きついてきてハッピー。
リンちゃんの弾力が癖になりそう。
カサカサ、カサカサ。
そしてサソリが飛びだした。
「サソリ!」と悲鳴をあげるリンちゃん。
そのサソリを見てニヤけるあかりん。
間違いない。
「なんでサソリなんかいるのよ。ペットとして育てるならちゃんとしなさいよ」
リンちゃんは完全に取り乱している。
あかりんはサソリで確信した。
この世界は仮想空間。
美少女ゲームの世界にまだ取り残されたまま時間だけタイムスリップしたに違いない。
あらすじを書いてる。
面倒くさい。
時間がかかる。
雑務がいっぱい。
しばらく不定期配信になるでしょう。