24歳①
そして、ソラはドングリとともに22歳になった。30歳を平均寿命とするムラでは年長のほうだ。
ソラのムラでもその年に食べる分以上のコメを作ることができるようになった。ムラハチが去った後、ソラはもう自分ではコメ作りをすることはなくなっていた。しかし、やる気をなくしたわけではない。より効率的にコメ作りができるよう頭をフル回転させていた。実際の作業はみなに割り振り、採れたコメを管理する。ソラは自分で体を動かすよりもそのほうが向いていた。管理の方法を考えるなんて簡単だ。まずはその年に採れたコメを人数分に分けて分配し、よく働いたと思ったものには少し多めに配分する。あらかじめ全体の収穫量の半分ほどは高床式倉庫に残しておき、ソラの独断で、足りなくなった家、ムラのためによく働いた家、めでたいことがあった家に分けた。
そして、たったこれだけのシンプルなシステムが、ソラにいつの間にかムラの中での絶大な権力を握らせるようになっていった。コメは唯一の主食であったし、時としては道具や労働力と交換できる貨幣の役割を果たす。そして、みなで作ったコメであるにも関わらず、それが余分に欲しければソラにYESと言わせなければならない。そのため、自然とみな、ソラに逆らわなくなり、ソラもまるでコメは全て自分のもののように錯覚しだしていた。
ソラはよく倉庫でコメを見ながら過ごした。コメを見ていると何だかうれしい気持ちになる。嫌なことも忘れられる。まるで、コメの量こそが自分の価値そのものであるかのようだ。
「何だ?ソラ。お前またコメをいじってんのか?だんだん変なやつになっていくな」ドングリはそんなソラが気に入らなかった。
ムラの連中はソラに気を使って何も言わないが、ドングリは、言いたいことを言いたいように言った。ドングリにはもともと、言葉に気を使うような繊細な神経が備わっていない。そして、雰囲気の変化にも疎い。ムラが徐々にソラを王とする独裁制に移行しようとしている中、ドングリだけが徐々に形成されていく権力の存在を感じることもなかった。最近ソラはそんなドングリが少し疎ましい。
「うるせえ。これはオレが苦労して作ったコメだ。オレの好きにする」
「お前じゃなくてみんなで作ったコメだろう」
「でも、オレがコメ作りを始めなければ、オレがいろいろと工夫しなければこんなにたくさんのコメを作れなかった。この半分はオレの力だ」
確かに、ソラはコメ作りを始めてから生来の研究熱心さや、ひらめき、統率力を駆使して実に効率的にコメ作りを指導してきた。これだけコメを作れるようになったのはソラのおかげというのはあながち嘘ではない。
しかし、ドングリは思う。一番汗をかいて頑張ってきたのは決してソラじゃない。ソラはむしろみなに比べると楽をしていた。それでもこれがソラのコメと言えるのか?何をそんなに偉そうにしていやがる?
「オラなんだかよ」ドングリも自然と苛立っていた。
「何だよ?」
「なんだか気持がわりいよ」
「何が?」
「えばってるお前とよ、それを許してるムラのやつらがよ」
「そんなこと言ってるのはお前だけだ。いくつになってもうすらバカだな」
ムラに新しくできたシステムはあまりにも自然にムラ全体を飲み込み、動き始めていため、ムラの人間は深く考えもせずにそれに身を委ね始めていた。今後も、ムラのみなはますます豊かになろうとし、さらにコメ作りに精を出すだろう。そして、その結果、ますますソラの権力が強くなるだろう。




