14歳③
ソラはむしゃくしゃした気分のまま家へ帰った。ソラの家はみなと同じ竪穴式住居だが、ひとつ特徴的なのは30回以上冬を越したトトと二人だけで住んでいるということだ。
カカは幼いころに亡くしていた。
家に帰るとトトは矢を石で磨いでいた。狩りを生業とする森の男には重要な作業だ。トトは無口だが人の心の動きには敏感なところがある。鋭く磨かれた矢の切っ先を見ながら静かに口を開いた。
「ソラ。今日またオサとやりあったな」
いきなりこれだ。ソラの様子を一目見てむしゃくしゃしていること、またその理由まで簡単にばれてしまう。ソラは無言で返す。最近父親が疎ましくてたまらない。
「また変なことを考えてオサに言いにいったのか?」
あからさまな文句は言わないが、トトもソラがいろいろ考えることをよく思っていない。
「お前は次の冬が何回目だ?」
「15回目だ」
「じゃあ、そろそろ狩りに加われ」
オサと一緒だ。ようするにいろいろ考えるのはやめろということだ。
「なあ、トト」
ソラは納得がいかない。
「何だ?」
「何で考えたらいけねえ。変えたらいけねえ」
無駄だとわかっていても、誰かに聞いてもらいたい。
「そう決まってるからだ」
「じゃあ、火は誰が使いだした?土で器を作って煮炊きするっていうのは?矢や槍や穴を作ってケモノを獲るのは?みんな誰かが考えたことだ。誰かが火を使うようになったからオレたちは冬に凍えなくてすむようになった。矢や槍を使うようになったからケモノが獲れるようになって飢えなくなった。違うか」
「いや、違わねえよ。でももう充分だろう」
「いや、全然充分じゃねえよ。どこまで行っても充分なんてねえよ。少なくとも誰も飢えなくなって、病気で死んだりしなくなるまでは」
「死はオレたちが決めることじゃねえ。飢えたくねえなら狩りの腕を磨け。このムラの男はみんなそうしている。くだらねえことをしているのはお前とドングリのうすらバカくらいだ。だが、それももう仕舞いにしろ」
「トトもオサと一緒だ」
「そうだ」
やはり自分の考えは誰にも理解されずにカラ回る。そして苛立ちだけがつのる。
「ちょっと出てくる」
「どこ行くんだ?じき日が暮れるぞ」
「うるせえ」




