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24歳⑤

 2時間後。見張りが叫んだ

「来た。あいつらが来たぞ!!」

 陽は傾き夕暮れになっている。オレンジの光がムラの側面から当たり、戦士たちの長い影を落としている。ソラたちは急いで集合し、ムラの入口まで行く。ムラの入口からは緩い傾斜の一本道が500メートルほど続く。ムラから見ると上り坂、ムラへ向かってくると下り坂だ。道幅は人が5人並んで歩ける程の広さ。

 そして、その坂道の天辺にサルの姿が見えた。サルは昨日の言葉通り50人ほどの若い男を連れていた。そして、その顔は激しい怒りに燃えている。自信満々でいたが、ソラに仲間を一人殺された。50人の足並みは揃い、地面に着くたびに、じゃりという音をあたり一面に奏でる。じゃり、じゃり、じゃり。怒りの音だ。

 しかし、そんな50人の戦士も、イノシシとタカの活躍があり、槍や矢といった武器を持っているのは半分ほどで、後はただの木の棒を急ごしらえの武器として持ってきている。それを見ながらイシコロが言う。

「あいつら本当に50人できやがった」

「けったいなかっこうをしてきやがったな」

ソラが、少々見下したように答える。

 確かにサルたちは異形の様相をしていた。まるで見たことのないケモノのようだ。顔や体に泥で模様を描き、高さ2メートル程ある人型のおかしなものを数人で担いでいる。それは枯れ木と葉っぱでできており、不格好ながら顔や手足をかたどっていて、戦いには邪魔にこそなれ、役に立ちそうもない。それが何なのか意味はわからないながらも、ソラにはとにかく滑稽に見えた。

 サルたちがゆるい傾斜の坂を下り、ムラの入口まで100メートル程に近づいた時ソラは叫んだ。

「サル。そこで止まれ!!」

 サルは言葉どおり止まる。そして、ソラが次の言葉を発する前に叫んだ。

「ソラ。人殺しソラ。お前のムラの人間がオレたちの仲間を殺した!!だからオレたちもお前たちを殺す!!だが、オレたちは、お前とは違う。許す心を持っている。大人しくコメを差し出せば、そして、仲間を殺したやつを差し出せば許してやる!!」

 サルは怒りに体を震わせながらも、それが最大の妥協点だと言わんばかりに叫んだ。数的優位があるから、50対15だから、勝てると信じている。自分たちに負ける可能性もあるなんてことを露ほども考えていない。そのため決定的に油断している。いや、もともと戦いになること自体を本気では考えていない。致命的だ。

「その前に聞く」ソラが言う。

「何だ?」

「お前たちのその格好、そして、持ってきているその人型のものは何だ?」

「これはオレたちの神様だ。そして、今日、オレたちは神様に力をもらっている。だからお前たちがもしも戦うつもりならお前たちはみな死ぬことになるだろう」

 数が多くて、神様がついてれば負けるわけないってわけだ。ソラはそれを聞き、口の端を歪めたまま隣のイシコロにつぶやいた。

「神様だってよ。あいつらそんなもん信じてるのか。オレたちはとっくにそんなもの捨ててるのにな」

 神様の力を得て、戦いに勝利しようとするサルと、自分の頭で戦略を考え勝利を得ようとするソラ。両者は決定的に違う。

 そして、サルは完全に間違いを犯している。

ソラがわざわざ無駄な会話をしてサルの足を止めるのは、作戦がより確実に実行できるようための時間稼ぎだ。サルは、ソラの質問になど答えずに一気に攻め落とすべきなのだ。サルの油断がソラに時間を与え、自分たちを攻めさせる準備をさせてしまっている。

「よし、もういいだろう」十分な時間を稼げたソラは、そう言ってムラの門を開けた。

「ものわかりがいいな。ソラ」開けられた門を降伏の証と解釈したサルはそう言って笑った。

 その瞬間だった。サルたちの集団に矢が射かけられる。矢はサルたちの両側の木の上から発射され、前方にいた男二人がそれぞれ矢を頭と胸に受けて倒れた。完全に虚を突かれ、倒れる男たちがあげる悲鳴に集団は軽いパニックになった。「なんだ?」「矢で射られた」「誰だ?」統率のとれない声があちこちであがる。そんな中、太く響く声が響く。サルだ。

「落ち着け!!矢は板でふせげ!!」

 サルの大声が集団を少し沈黙させる。体制が少し立て直りそうになる。

「矢はあの木とあの木から飛んで来た!!引きずり下ろせ!!」

 しかし、ソラの作戦はこれだけではない。

「サル。後ろを見てみろ!!」

 ソラの声は矢のようにサルの耳に刺さり、サルは後ろを振り返った。サルたちの背後。そこには大人三人が手を広げたくらいの大きな炎がすごい勢いで迫ってきていた。炎は勢いを強めながら勝手に坂道を下って来る。

「うわ。なんだ?火だ。来る。神か?火の神か?」サルが慌てて火から逃れようとムラへ走ってくる。その様子を見てソラはこらえきれずに笑った。ははははははは。

「それはクルマって言うんだ。もっともオレが考えたもんだからお前たちは知らないだろうがな」ソラが考案した火車は、3メートルほどの幅の、板の側面に車輪をつけ、上に大量の燃えやすい枯草を乗せている。そして、枯れ草には火がつけられ、燃え狂う炎は数匹の犬が引いた。犬はすぐ背後に火が轟々と燃えているので恐怖に目を白黒させ、必死の走りを見せる。火車はすごい勢いでサルたち50人の集団へと坂道を突き進んで行った。

 迫りくる炎に、サルたちは我を忘れて走る。そっちは、ソラ達のムラだ。サルがせっかく持ってきたハリボテの神様は道に打ち捨てられた。自分の命が危ない時に神様なんてかまっていられない。神様の上を火車が通過すると火の粉が飛び散り、木と草でできた神様は勢いよく燃えだす。それを見て、ソラの笑いはますます激しくなる。

「はははははは。あいつら、せっかく持ってきた神様を捨てたぞ。ははははは。神様が燃えているぞ。はははは」興奮して、笑っているソラにイシコロが言った。

「ソラ。そろそろ・・・」

「もうか・・・残念」

 イシコロに促され、ソラたちは逃げるようなそぶりを見せてムラの奥へと移動した。

サルたちも、いまにもムラに入ってきそうだ。 

その時、集団のひとりが走りながら叫んだ。

「サル。何かがおかしい。何でオレたちはムラに向かって走ってる?何であいつらはオレたちをムラに入れる。このままムラに入っていいのか?」その時になって初めて気がついたサル。オレたちはソラに動かされている。矢も、火も、オレたちがこうしてムラに向かって走っているのも全部ソラの考えたことだ。このままではやられる。

「そうか。おまえたち止まれ。ムラに入るな!!」

 サルは大声で叫んだが、気づくのが圧倒的に遅い。すでに集団はムラの門の直前まで走ってきており、勢いがつきすぎて止まることはできない。そもそも、誰もが我を忘れて走っている。サルの太い声さえ、誰の耳にも届かない。

 ムラは深い溝で囲まれており、ムラと外界をつなぐものは一本の木でできた橋だけだ。その橋に50人が乗った。橋はもともと壊れやすいように細工されている。橋の2本の支柱へは外側から綱が結ばれており、ソラの合図で思いっきり引っ張られた。支柱は外側へ倒れる。

 その瞬間ズドンという音とともに橋は50人の人間とともに崩れ落ちた。橋の下はソラたちが徹夜作業で深い穴を掘ってある。

 うわあーーーーという叫び声だけを地上に残し、男たちはみな深い穴へと落ちた。

 10秒後。

 ソラは得意げに穴の底を見た。穴には50人の男、そして、火車を引いていた犬がうごめいている。火車も燃えたまま穴に落ち、火の一部は男たちの衣服に燃え移り、肉を焼いている。肉の焦げる匂いが穴を上ってソラの鼻孔をくすぐる。

 火のついた男はあわてて服を手で払ったり、土でこすったりしている。よじのぼって穴から出ようにも槍を構えた男たちが穴を囲み、いつでも串刺しにする準備をしている。

 サルたちの仲間は今朝イノシシに殺されたものがひとり、さっき矢に射られて死んだものがふたり、穴に落ちて死んだものがひとり、合計4人の死者とけが人が数人。対して、ソラのムラは全員無傷。今は穴に落ちた敵を見下ろしている。完全に勝負はついた。

 サルは上から見下ろしているソラに対して怒りで顔をゆがませながら言った。

「ソラ。オレたちをここから出せ。早く出さないとおまえたちは皆殺しだ」

 ソラは黙ってニヤニヤ見ているだけだ。

「どうした?なぜ何も言わない?」

 言葉の代わりに、ソラはとなりの男から無言で槍を受け取る。そして、槍をかまえて1秒静止した後、足元にいる男の頭上に思いっきり投げつけた。槍は勢いよく飛び、男の肩に深々と刺ささる。

「ぐあああーーー」悲痛な叫び声。男は苦痛に顔を歪め、傷口をおさえてうずくまった。

「残念。頭を狙ったんだけどな」ソラがひどく冷淡につぶやく。口元は笑っている。

「ソラ。どういうつもりだ?」サルはますます怒り狂った。

 ソラは馬鹿に説明するのは疲れるといった風に、言う。

「お前がどういうつもりだ?お前たちは穴にはまって身動きができない。死ぬも生きるもオレ次第だ。それなのにどうしてそんなに偉そうな態度なんだ?」

 その時になって初めてサルに苦しそうな表情が浮かんだ。もう虚勢も保てない。

「ぐうう・・・わかった。もうコメは渡さないでいい。このまま自分のムラに帰る」

 それを聞いたソラは再び無言で男たちに槍を投げた。今度はひとりの男の右目に刺さり頭の後ろに抜ける。死んだ男は声も出さずに地面に仰向けに倒れた。死体を見下ろすサルたちは驚いて声が出ない。

 ソラは言った。

「なあ、サル。お前は全く何もわかっていない。オサのくせに頭が悪すぎる。いいか、オレが説明してやるからよく聞け。最初にお前がオレたちのコメを奪いに来た。そして、戦った。そして、お前たちは負けた。お前たちは負けたんだ。お前たちが始めた戦いで負けたんだ。お前は槍と矢を持ってオレたちを殺すつもりできた。だから負けたら殺される。当然のことだ。あとな、お前たちのコメもあとでオレたちがいただく。後でお前たちのムラに取りに行く。それもまた当然のことだ」

ここにきてやっとサルは事の深刻さに気がついた。人数で勝っているという過信から、自分たちが負けるなんて想定していなかった。それに、自分たちは命の奪い合いをしに来たんじゃあない。ただ、脅してコメを奪いに来ただけだ。そりゃあ、はずみで何人かは殺しちまっても仕方がないとは思っていた。それでも、全員を殺すなんてことは考えていなかった。しかし、ソラは、こいつは違う。オレたち全員殺すつもりで準備をしていた。自分たちを守るための戦いでなく、オレたちを全滅させるための戦いをしていたんだ。オレは殺される。こいつに殺される。

「許してくれ。ソラ。もう決してお前たちのムラには来ない。絶対だ。殺さないでくれ」

掌を返したようなサルの命乞いに、ソラは笑って言う。

「そうか・・・お前のことはあんまり信じられないな。それに、お前たちが生きてるとコメをいただいてくるのにも邪魔になるし、死んでくれたほうがよっぽど手がかからなくていいんだがな」

「やめろ。やめてくれ。こんなにたくさん殺したら神様の怒りがお前たちを滅ぼすぞ」

「はははははははは。神様。神様か。その神様はこれか?さっきお前たちが捨てて燃やしちまったこれか?」

 ソラはサルたちの神様の燃えカスを空にかかげ、勢いよく穴の中に投げ込んだ。

「怒るんなら今すぐ怒ってみせろ。滅ぼせるもんなら滅ぼしてみろ。黒こげの神様に助けてもらえ」

 そう言って高笑いをした。神様をバカにして大笑いをしている時のソラは一種の狂気にいるようだ。その瞬間、村びとからはソラが人間の域にいないようにも見えた。

 神がかり。そんな状態だ。

 ひとしきり笑うと、やっとソラは落ち着きを見せ、真顔になった。そして、冷たく言った。

「よし、お前たち、そろそろ終わらすか。かまえろ」

 その言葉にムラの男たちは静かに槍や矢を構えて穴の中を狙う。このまま、穴の中の男たちに大量の槍や矢が降り注ぎ、その流した大量の血によって初めての戦いは終わるだろう。


「やめろ!!ソラ!!もういいだろう!!」その時、ひとりの男が叫んだ。ドングリだ。

「何だ?ドングリ。どうしたんだ?」ソラはあっけにとられてドングリを見る。

「もう勝負はついた。もういいだろう」

 ドングリは戦いには加わらずにひとり、何も言わず見ているだけだった。戦うことが決まってから一言も言葉を発していなかった。しかし、我慢の限界が来たのか、ついにソラを止めに入った。

 ソラは氷のように冷たく、強く言う。

「だめだ。こいつらはオレたちを殺すつもりでムラに来たんだ。当然負けたら死ぬこともわかってる」

 サルが命乞いの最後のチャンスに、必死になって飛びつく。

「やめろ。やめてくれ。オレたちはただコメが欲しかっただけだ。殺す気なんてなかった」

「黙ってろ。サル。殺すつもりがないやつが槍や矢を持ってくるか。次に口を開いたらすぐにでもお前を殺してやる」ソラの眼は血走っている。まるで一刻も早く血を欲しているような狂った目だ。

「だとしても、だ。また来たらまたやっつければいい。お前なら出来るだろう。オラはこれ以上、人が死ぬのも人を殺すのも見たくはねえ。そんなお前を見たくねえ」

「頭が悪いうすらバカが。オレに指図をするのか。黙ってオレの決めたことに従え。こいつらは殺す」

 ドングリは「やめろ」といってソラに飛びかかった。しかし、ソラを囲むムラの連中に簡単に取り押さえられた。みながソラの言うことなら何でも聞く。ドングリの味方は誰もいない。

「お前何したかわかっているのか?おい、お前たち。ドングリがしばらくしゃべれないように傷めつけとけ」

 ムラの連中はソラの命令どおりにドングリを殴りだした。戦いの、勝利の興奮が残っているため、仲間であるはずのドングリを殺してしまいそうな勢いだった。倒れた上にまだ蹴られているのを見て、ドングリのうえにひとりの男が覆いかぶさる。

 イシコロだった。

「おい。もういいだろう。ドングリは仲間だぞ。仲間に対してここまでやる必要はない」

「まあ、そうか。お前たち、そのへんでもうやめとけ。これでドングリもしばらくは大人しくするだろう」

 ドングリはうずくまったまま呻いていた。

「じゃあ、仕上げだ。みな槍を構えろ」ソラが言った。

 ソラの命令の通りみなは槍を構える。狙いはもちろん穴の下にいる男たちだ。

「やれ!!」

 ソラの氷のような声が響いた。それを合図に穴の中には一遍に槍や矢が打ち下ろされた。


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