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1週間

「ばあちゃん。これでいいか?」

「ああ。これこれ。どうも経理は苦手でね。助かるよ」

「いやいや。そんな大したことではないさ」


店を手伝うようになって1週間。最初は、商品の棚出しなど体力仕事がほとんどだったが、経理に苦戦するばあちゃんをみかねた俺は、事務仕事も手伝うようになった。今では、ばあちゃんは、レジの横の椅子で腰掛けて、店に買い物に来た人たちの対応がメインとなっている。


駄菓子屋の手伝いが忙しくゲーム制作が滞ってしまう日もあるが、お客さんからありがとうと言ってもらえたり、結衣に送り出されたり、たまに学校の日には一緒に途中まで歩いたり楽しい日々を過ごしている。


マンション周辺の地理にも慣れ、結衣の代わりに買い物に出かけたり、一人でゲームを買いに行くこともできるようになった。


結衣と行く買い物も楽しいが、1人で行く買い物もいろいろな発見があってものすごく楽しい


最近のゲーム制作は、恋愛シミュレーションゲームを作っている。


高校生になった主人公は、昔から好きな幼馴染の女の子に彼氏ができてしまう。どうしても諦めることができない主人公が幼馴染の女の子を自分の彼女にする略奪愛物語。


そのゲームの構想段階でヒロインのドキッとした時のリアクションをどうするか悩みに悩み、いろんなアニメや映画、実際に告白してみたら付き合えたなどの動画を参考にしてみたが、結局これだというものがなかった。


こうなったらと、ネットで話題の女性が選ぶ、やられたら恥ずかしいけど嬉しくてドキドキしちゃうシチュエーションランキングを参考に数日かけて結衣に仕掛けてみることにした。


ーー結衣sideーー


最近のトールは、おかしい。いや、異世界の魔王とはみんなあんなものなのかもしれないけど!絶対におかしい!


あれは3日前、学校から帰ってきて、リビングのドアを開けた瞬間……


「おかえり。今日もお疲れ様」


って、いつもは年寄りくさい声を出しているトールが、イケメンボイスで後ろから抱きついてきた。


私は、状況が理解できず、体が石化したように固まってしまう。


金縛りに合うとみんなこんな感じで体が固まるのかな?


なんて、一瞬思ったりもしたが、状況を整理してみることにした。


私、新作の「そのおじさん危険につき……」の続きができるとるんるん気分で帰宅


→靴を脱いで、リビングへと向かう。


→扉を開けるとトールにイケメンボイスで後ろから抱きつかれた。


(……おう!なんで?なんで?なんで?なんでトールに後ろから抱きつかれてんの!)


私が、状況を整理し、さらに困惑していると


「ふむ!なるほど!これは良い反応が見れた!」


トールは、メモ帳を取り出し、なにかを書き始める。


しまいには、「抱きつかれた時どんなことを感じた?」や「いきなり抱きつかれると恐怖を感じることもあったか?」


取材に押しかけられた芸能人のように、次々と質問攻めにあった。


よくわからなかったけど、一応「初めは、ん?って疑問に思って、状況が理解できなくて固まって……」


困惑した私は、なぜか真面目に答えてしまった。


「ふむふむ!なるほど!おっと!いかん!夕飯を作っている途中だった!今夜は時間がないから親子丼でいいか?」

「へ?う、うん。ありがとう」

「とびきりうまいのを作るから待っててな」

「へ?」


トールはそう言い残すとキッチンへと去っていった。


(なんだったの?それに最後、いきなり不意打ちのようにイケメンボイスに戻して、片目ウインクされた。なんなの!今度は、ネットのなにに影響されたというの!)


私は、いきなり朝とは別人のようなトールに戸惑いが隠せなかった。


その後も奇行は続き、家事の最中に、「今日の晩飯は何かな?」と後ろから抱きつかれて、耳元で甘い声を囁かれたり、リビングのソファで廃人と化して天井を眺めていたら、いきなり覗き込まれて、ただ、ニカっと微笑まれた。


その笑顔がまた似合っていたから反則だ!なまじ元の顔がいいから、思わずドキッとしてしまう。


(本当にもう!なんなの!私をドキッとさせて何かかって欲しいものでもあるって言うの?……まあ、500万円以内なら買ってあげてもいいか……)


と、ここ数日のトールの奇行ぶりを振り返っていたら、ゲーム部屋にいるトールに呼ばれた。


なんでも、新しいゲームを作ったから試しにプレイしてみてくれとのこと。


私は、警戒しながらもゲーム部屋へと向かう。


警戒するくらいなら行かなきゃいいのにと思われてしまうかもしれないが、そこにまだ見ぬゲームがあるのならプレイする。それが、廃ゲーマーとしての私のポリシーだ!


だから、私はどんなことがあってもゲームをプレイすることからは逃げない!


「すごいかっこいい!」

「君はゲーマーの誇りだ!」

「さすが廃ゲーマー!」


心の中で何人もの自分自身に賞賛されながらゲーム部屋に入る。


「今回は、恋愛シミュレーションゲームを作ってみた。このゲームを作るにあたり、ヒロインの主人公がとる思わずドキッとしてしまう行動に対する反応がなかなか決まらなかった。しかし!」


ここまでの説明でここ数日の奇行の正体がわかってしまった。


(ああ、そういうことね)


「結衣へ敢行した思わずドキッとしてしまう行動6選を試した結果、結衣からいい反応が帰ってきて大いに参考になった!礼を言う!」


私は、トールの言葉に何かが切れる音を聞いた。


気がついたら手に500万円を持って、


「ちょっとでもときめいてしまった!私の気持ちを考えろよ!」


トールに向かって札束を投げていた。



ーートールsideーー


結衣は、新しいゲームができたことに喜んでくれると思っていたが、結局札束を投げられたあと、数日は口を聞いてくれなかった。


そのことを初めてできた友人に相談したところ、


「それはお前が完全に悪い。帰ったら、いの1番に謝れ!」


と怒られてしまった。


なぜだ!俺は、より良いゲームを作りたかっただけなのに!


まあ、友人の助言もあり、結衣とは仲直りすることができた。


ん?いつ友人ができたかって?


そうだな。その話もあったな。


では、我が人生において初めてできた友人について語ろう。


それは、先日の夕方のこと。


店じまいの準備を始めていた頃に、


「おいっす!ババア!元気にしてるかぁ?」


茶髪のやんちゃそうな見た目の女と

 

「おばあちゃん。元気?」


整った顔にくりくりした目が特徴的だが、地味な印象を受ける女が店に入ってきた。


「萌音と萌じゃないか!久しぶりだねぇ!私は元気にしてるよ」


ばあちゃんも2人の顔を見て笑顔になる。


「それより初めてみる顔の奴がダンボール持ってるけど、店員でも雇ったの?」


萌音と呼ばれた茶髪の女が俺を見てばあちゃんに聞く。


「そうなんだよ。この前結衣と一緒に来ていた時に、そろそろ店をやめようと思ってると伝えたら、この男、トールって言うんだけど、俺が手伝うって言い出してくれてそれから毎日来てくれているんだよ」

「へぇ!いい男じゃないか!ババア!今日は店は終わりだよな?この後一緒に飯でもどうだ?透だっけ?も一緒な!飯は作って持ってきたから上がるぞー」


萌音と呼ばれた女は店の奥へと入っていった。


「すみません!失礼な姉で、すみません!」


萌という女は謝まってきた。


「いや、気にするな。それより飯を食うなら、結衣も呼んでやるか」


俺は、スマホを取り出し結衣に電話する。


「どうしたの?」

「すまん。ばあちゃんの家で晩御飯を食べることになったから、結衣も一緒にどうかと思ってな」

「そうなの?ごめん!今手が離せない!要注意人物「捕まったらレロレロおじさん」から逃げている最中だから!」

「そうか。なら、俺は飯を食ってから帰るから家のことは頼んだぞ?」

「あ!脱出口見つけた!やったー!」


そこで電話は切れた。


(タイトル的に興味なかったが、「そのおじさん危険につき」面白そうだったな。今度やらせてもらうか)


結局、晩御飯は結衣抜きで食べることになった。


「透!遅いぞー!こっちは先に始めちまったじゃねえか!」


萌音は、顔を赤くしてよろよろしていた。


「お前こそ、そんなに時間は経っていないはずだぞ?酔っ払いすぎではないか?」


萌音達が奥に入って10分くらいしか経っていない。


「すみません!すみません!姉はお酒が大好きなのですが、アルコールの匂いを嗅いだだけで酔ってしまうほど弱いんです」

「はぁ…相変わらずだね」


(む!次のゲームのキャラにうってつけではないか?)


何かピーンとくるものがあり、メモ帳を持って萌音の観察を始める。


「良いじゃねえかよ!こっちとら、新しいゲーム制作が終わって、やっと忙しく無くなったんだ!ちょっとは酔っ払ったってよー」


(ふむふむ。ゲームを作る酔っ払いか。なかなかおもしろいではな……今、ゲーム制作と言ったか?)


「おい、女。萌音と言ったか?今ゲーム制作がどうとか言っていたが」

「うぃー。そうでーす!萌音は個人でゲームを作って生活費を稼いでいる一歩間違えるとニートになってしまうプログラマーでーす!ゲームキャラ「源くん」を愛しすぎて、2次元の男に興味ない独身女であります!」


ビシッと綺麗な敬礼をする。


「そんなことはどうでも良い!俺もゲーム制作をするのだが、どうしても解決できないバグがあって手こずっている。力を貸してくれないか?」

「うあー。いいけど、どんなゲーム?」


俺は、スマホを取り出し、アプリを開く。


「この格闘ゲームなんだが……」


萌音に初めて作った格闘ゲームを見せる。


「……うおっ!なにこの出来は!レベル高え!」

「ここなんだが」


キャラを操作して左の壁へと向かい、衝突させる。


キャラは、バグの発生によって消滅してしまう。


「と、こんな感じでどうしてもバグが発生してキャラクターが崩壊してしまうんだ。何度、修正してもうまく直らないのだ」


俺は質問するが、萌音はなにぶつぶつ呟くだけで一向に返事が返ってこない。


「キャラの動きの滑らかさ、背景などの独創性……透君!私と一緒にゲーム制作をしないか!」


まともに喋り出したと思ったら、いきなり手を握られた。


なんなのだ?こいつは……


「君のプログラミング技術のレベルは高い!特にキャラの動きの滑らかさ。これには驚いた!あとは、細かい設定の部分での技術さえ身につけてしまえば、君に作れないゲームはないよ!君は天才だ!細かい設定の仕方とかは、私が教えるから、私と一緒にゲームを作ってみないか?」


うーむ?ゲーム制作に限界は感じていなかったが、更に成長するためには、この女に教えを乞うのもいいのかもしれない。


「わかった。一緒に良いゲームを作ろうではないか!」

「いやったぁ!今日は飲もう!祝杯だ!」

「うむ。趣味友達ができたことに乾杯だ」

「いや。もう飲み友でもあるよ!」

「そうなのか。なら、お前が俺の初めての友達だ。よろしくな」

「こちらこそだ。末長くよろしくな」


こうして、俺に初めての友達ができた。


結衣の反応を参考にして作った恋愛シミュレーションゲームの制作も萌音と一緒に行った。


それで、結衣に無視され続けたことを相談したのも萌音だ。


まあ、リモートで行っているから、メールでのやり取りが主になるから、あまり会うことはないがな。


ここ1週間の出来事はこんな感じだな。


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