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融解する日常

私が意識を取り戻したとき、病院は大騒ぎになっていた。

外には報道陣もいるらしく、外には出ないようにと看護師から口酸っぱく注意された。

ただ、たまに看護師の方々からは何とも言えない目で見られているのが気になった。

その原因は割とすぐわかった。

先生が殺人事件の犯人として捕まったのだ。

私はガクッと力尽きてベッドに横になる。

そんなところに尋ねてきた人がいた。

例の探偵だ。

「やぁやぁお元気そうには見えないね。どうだい気分は」

「最悪・・・」

「そうだね、愛しの先生は刑務所で殺人犯扱い、君は病院で寝っ転がってふて寝するしかないわけだ」

「体調も万全じゃないだろうしね」と彼女はつぶやいた。

「探偵さんあなたって何者なんです?」

「うーん探偵って言うやつにも結構憧れていたんだけど夢のない仕事だね、夢に見た殺人事件の解決なんて出来っこない。ましてや「名探偵、皆を集めてさてと言い」なんて夢のまた夢です」

探偵は笑っていた。

「事件は解決ってことでいいの?」

「一応建前上は」

「私の中では何も解決していないんですけど」

何がどうなっているのやらと彼女は言った。

「もちろんお話してさしあげますよ。それに憧れて探偵なんて語っていたのですから」

「じゃあざっと簡潔にお願い」

と私は投げやりに言う。

「簡潔にですか・・・色々と口上も考えてきたのですが・・・」

「簡潔にお願い」

「はぁ仕方ありませんね」

では。と探偵は始めた。

「あなたが連続殺人犯の真犯人で、先生はそれをかばって捕まった。それが時間稼ぎのつもりなのかどうかはわかりませんが、事件の詳細を知らないでしょうからあっという間にバレるでしょうね」

「うんそこまでは大体わかってる、で『探偵』さんは何者なの?」

「それはもうこの世のすべてを解き明かす・・・」

白い目で見られていることがわかり、咳してごまかす。

「たまにいるんですよね。本来でたらめな理を強引な手段で紐解いて人間以上の力を手に入れてしまう人って」

「それが私ってことでいいのね、であなたは?」

「私も同じですよ。戦った身なら分かっているでしょう?」

あの夜のことは簡単だ。

私が人を襲い、そこを邪魔してきたのがこの『探偵』を語る謎の人物。

「別に人が襲われようがどうでも良かったのですが、あなたって人を襲うとき以外はめったに病院外に出ないじゃないですか?」

「どうせならこのまま止めまで刺そうと思ったところで乱入されてちょっと考える時間ができましてね。

どうせ殺すぐらいなら仲間に引き入れるのもありなのではと思っている次第です」

「連続殺人犯を?」

「ええ、ただあなたの殺人は基本的にあなたを襲おうとした人を返り討ちにしているわけですし、まあ正当防衛と行っても?過剰防衛ですかね・・・」

「か弱そうな女性が路地裏に入っていく姿を見ると何故か悪そうな人が一緒に入ってくるのよね。で、大人しくすればとかなんとか言ってきて・・・」

「まあそこを美味しく頂くわけですね」

身も蓋もない。まあ大体あっているのだが。

「あなたの力は人から『ナニカ』を奪うことですか?」

「何かというか私は『宝石』って呼んでいますけど本来どんなものなのかは私にもわかりません。ただ食べるととても体が良くなるんですよね」

「最初に同じ病室の人が死んだときに、その人から溢れ出る何かを見つけたんです。それを食べると今までピクリとも動かなかった足や体の奥底から力が溢れてくるのがわかったんです」

「だからそれの根源は何なのかと思って、こっそり病院を抜け出して散歩しながら歩いていたところ、案の定襲われてしまいまして・・・。

「結果男の死体ができてあなたはその男の体を解体して『宝石』を見つけたと」

正直襲ってきた人の『宝石』を食べるのもどうかと思ったんですが、もったいなかったので。

「で、食べた結果人間離れした力を手に入れたと」

「私をこてんぱんにしたあなたには言われたくないですけどね」


「なんでわたしだって思ったんですか?」

「いえ、わかっていませんよ?ただ、大体の目星はついていたのでそこを重点的に探しただけです。」

「え?」

「まず警察がすぐに捕まえられていない時点で通常の犯人とは違う何かしら異様な力を持った人物像であることは目星がつきました。

警察って結構優秀なので、こういった人間の殺し方をできる人間はすでにピックアップされていたでしょう。

今回はそれが仇となってあなたがその中から外れてしまったので、なかなか見つからなかったのです。

人間を短時間で解体できる人間って、基本的に足が動かないリハビリ中の少女とはかけ離れていますしね」

「次に注目したのは被害者の殺され方ですね。

被害者がずたずたに解体されていたのは体からナニカを探そうとしたということは見当がつきましたが、それにしても解体の仕方が雑すぎました。

とても医療知識があるものの仕業とは思えないほどに。

そして病院周囲で事件が起きていたこと、何が悲しくて疑われるのをわかっていて自分の職場や療養中の付近で事件を起こすんですか?

どう考えても自分とは関係ない場所でやったほうが何かと有利です。というわけで患者の中でも移動範囲が広く取れる人は除外して、行動範囲にある程度制限がかかった人という目星をつけたわけです。

そして、もう一点、人を路地裏に追い込むのとおびき寄せるのはどちらが簡単だと思います?

どう考えてもおびき寄せるほうが楽です。

例えばあなたの担当医のような成人男性が路地裏に引き込もうとしたら目立ちすぎる上に、その時点で叫ばれでもしたらもう破綻してしまします。

反対におびき寄せる場合はたいてい相手も良からぬことを考えているので勝手に息を潜ませてくれます。

というわけで、医療関係者ではなく患者であり、移動範囲を何らかの形で制限されていて、その上おびき寄せるのに適した容姿及び要素を持っている人に目をつけたわけです」


「その中にわたしがピッタリ収まっていたと」

「そういうことです。足、普段は動きませんよね?」

「・・・まぁ調子の善し悪しによるとしか」

「実はもう自由に動くなら流石に医療関係者に不審がられますからね、時間制限などの限定的なものだとは思っていました」

夜間外出で目立つのに車いすで移動する理由にもなりませんしね。


「まあそういうわけですが、

ちなみにちょっとこれは本当に聴きたいところなんですけど!」

「はぁ」

「先生とはどういうご関係で?」

「なっ」

「いやいや、色々と察して凶器に自分で指紋をつけて(曰く必殺武器でしたっけ?)身代わりになるなんてそうそうできることじゃないじゃないですか、これはもう患者と先生の間を超えた何かがあったとしか」

「・・・一回だけキスした」

「・・・え、それだけ?」

「うるさいわね!こっちだってそれなりに覚悟決めてたのに、色々と言い訳されてそれ以上にならなかったのよ!」

思わず大きな声が出る。

「新しい下着まで履いていたのに・・・」

「まぁなんというか初々しいことで、まぁそんなわけでねここで選択肢です」

「選択肢?」

「そう一つは先生が捕まっているうちに、ここから逃げ出して自由を満喫コース」

「なんだか旅行の案内みたい」

「もう一つは先生ごとあなたを私の組織にさらって世界の不思議探検コース」

わたしは突っ込むのをやめた。

「先生大変でしょうねこれから、実はのところやっていないとは言え自首しちゃったもんだから色々と問題が山積みでしょうし、これからの人生もぼろぼろなんだろうなぁー」

『探偵』は明後日の方を向きながらつぶやく。

「でも、先生がどう思うか・・・」

「あ、その件ですか!大丈夫です。ちゃんと言質取ってあるんで」

「はぁ?」

『君がしたいようにすればいいよ、ついていってほしいならついていく』

『探偵』のスマホから音声が流れる。

「いや、もうなんですかね、聞いてて腹が立ってきましたよ、てめえらの恋愛のだしにするんじゃねーよ!って感じです」

「もう選択肢ないじゃないですか」

「でも悪い選択肢ではないでしょう?」

「そうですね」

私は『立ち上がって』彼女に手を差し出した。

どうもどうもといって『探偵』は握り返す。

では契約成立ということで。

「もっと柔らかそうな手かと思っていましたけど、思っていたよりも傷がありますね」

「リハビリやら車いすのハンドリムやらで乙女の柔肌を結構痛めているのよ」

じゃあ契約成立ということで。

『探偵はニッコリと笑った』

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