愉快で非日常
ゴッという鈍い音がした。
私はコツコツと歩く。
今日も獲物を求めて。
この頃の体は快調そのものだ。
やりたいことが全て自在に行く。
最初に溢れ出たものを食べたときもすごく力がみなぎってきたが、『直接』食べたときは格別だった。
体のすべてがこれが求めていたものだと叫んでいた。
私はどんどんできることが増えてきているのを実感していた。
ふと、リハビリのときのことを思い出して笑いそうになる。
あんなに楽しいことがいつまでも続けばどれほどいいだろうか。
しかしそう長くは持たないだろう。
今日、病院に警察が調査に来ていたのを見かけた。
いくらなんでも派手にやりすぎたか。
私は不器用なためにいつも傷だらけになっている手のひらを見ながら、そろそろ潮時かと思っていた。
「これもついでに治ればよかったのにな」
おっと、とは言っても今日は頂くけどね。
そこには倒れた人間がいた。
私はいつもどおり解体を始める。
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ある日リハビリに出かけると普段見かけない人がいた。服装やあちこち歩いて回っている姿を見る限り、手足の悪い患者ではないようだ。
「こんにちは」
と、半ばお座なりに挨拶をすると、
「やあやあこんにちは!」
とやけにテンションの高い挨拶をして近くによってきた。
「君はこれからリハビリかな?車いすに載っているところを見ると足が悪いんだね。これは大変だお手伝いは必要かい?」
割と若い女性だから、元気があって困ることはないというものの、これはありすぎる。
(学校のクラスの陽キャの女子よりも高いんじゃなかろうか?)
などとぼうっと考えていると。
「いやいや、別に見返りに何をよこせなんて言うつもりじゃないよ?これはただの親切心さ」
と、いい笑顔を向けてきた。
正直テンションが高すぎてうざい。
「あはは・・・、あ、こちらへはどのような用事で?」
さらっと話題を変えてみる。
「用事?ああ、そういえば用事があってきたんだった」
本当は秘密なんだけどと顔を近づけてくる・・・近い。
「僕は探偵でね」
(この人ボクっ娘だ)
「あ、探偵さんですか・・・なんか浮気調査とかですか?」
(病院に浮気調査などと言うのも場違いな気がしたがそれぐらいしか探偵と言って思い浮かばなかった)
「あーどちらかというと探しものかな?」
(大富豪な入院患者が大切なものでもなくしたのだろうか?)
そんなことをぼうっと考える。
すると急に探偵さんはガバっとこっちに顔を近づけてきた。
(近い近い)
「いやね、こんな事言うと笑われるかもしれないけど、近頃近所で起きている殺人事件の件で調査に来たんだよ」
といってきた。
「ああ、なんというか探偵小説みたいですね・・・」
(私は思わず疑いの目で見てしまった)
それが行けなかったのだろう。彼女はいかにも嘆かわしいと頭を振った。
(態度がいちいち大げさだな)
「小説の中で探偵といえば殺人事件の調査なんかで大活躍なんだけどね。実際のところ、そこは警察の領分だ。そんな中探偵がしゃしゃり出ていったら白い目で見られるのがわかっている」
嘆かわしいと彼女は言った。
「はぁ、ではなんでそんな依頼を受けたんですか?」
「それがだね!この近くで怒った殺人事件を知っているかい?」
「ま、まあニュースにもなっていますし・・・」
「その殺人犯がね、よりにもよってこがねもちのお坊ちゃまをやってくれたわけだ。両親は怒りに震えててね、『警察など信用ならん!徹底的に調査してくれ!』などと無茶苦茶な依頼が来たというのが本当のところだ」
「断ればよかったのでは?」
「背に腹は変えられん」
(依頼料が良かったんだな・・・)
「かと言って警察の調査などの邪魔をして、不況を買うわけにもいかない。というわけで警察の方々には菓子折りを持って挨拶をして邪魔はしないので依頼主には内緒にしてくださいとお願いしたのさ」
(見た目によらずこの人結構ゲスいな)
「あ、でも公務員の方って一般市民から贈答受けちゃいけないんじゃ・・・?」
「そこはまあ色々とねあれをこうしてね」
と、言ってウインクされた。
ウインクされても・・・
「君は足が悪いのかい?あまりそうは見えないが?」
唐突に話題を変えられた。
「ええと、一応悪いのですが、私のは精神的なものもあるそうで、体は殆ど治ってはいるらしいのですけど・・・」
「しかし大変だね。歩けないということは基本的に車椅子生活だろう。とても手が疲れそうだね」
「せめて電動だったら良かったんですけどねぇ」
私は車いすのハンドリムを握ったり離したりする。
「まぁそういうわけだ。私のことはそこらへんの置物だと思って無視してくれたまえ」
「それでは」と言って彼女はリハビリ室からあっという間に出ていった。
嵐のような人だった。
ほぼ入れ違いに来た先生が、あの人何者?と言う感じの顔で私を見つめてきたが、私にも説明は難しい。
「た、探偵さんらしいですよ?」
「探偵?」
「あれが?」とでも言いたい顔で見つめられたが私は知らないからな!
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『警察』に『探偵』か・・・全く面倒事ばかり増える。
などと思いながら帰り道を歩いていると路地裏からかすかに物音が聞こえた。
続けて小さな悲鳴のような声。
とっさに周囲を確認する。誰も周りにはいない。
誰かはしらないがこの周囲の最近の物騒さを知らない人が人気のないところに迷い込んで、襲われているのか?
冷や汗がダラダラと流れる。
頼れる人は周りにはいない。警察に連絡?間に合わない可能性が高い。
視野狭窄にもなっていたのだろう。
思わず親しい人が襲われていたらという恐ろしい想像もしてしまった。
一歩一歩足を踏み入れる。
そおっと足音を立てないように路地裏に足を踏み入れる。
武器はカバンのみ。
本が入っているので振り回せば少しは時間稼ぎになるだろう。
恐る恐る入っていくと倒れている人を見つけた。
その瞬間色々な考えが吹っ飛んですぐに駆け寄っていた。
(なぜ彼女がこんなところに?)
「大丈夫か?何があった」
息はある。骨は折れていない。その他異常はなし。
揺さぶっても大丈夫だと判断し彼女を軽く揺さぶる。
「あ、先生・・・」
「よかった、気が付いた・・・」
私は涙が出てきた。
「どうしてここに」
近くには壊れた車いす。
「ちょっとこっそり夜の散歩と洒落込もうかと思ったんだけど」
「ばか!それで危ない目にあったらどうするんだ」
「怖い目にはすでにあったけどね」
と力ない目で笑う。
周りを見渡すと血があちこちに飛び散っている。
彼女の血かと思ったがどうも違うようだ。
近くにもう一人いる。
いや、もともと人間だったものと言うべきか。
人が死んでいた。
歳は成人男性。
ちょっと失礼と彼女をカバンを枕に彼女を寝かせて男性を見る。
ひどく乱暴に殴られたようで頭がへこんでいる。
どう見ても死んでる。手当のしようもない。
そんなことを考えていると寝かせていた彼女がつぶやいた。
「何が悪かったのかなぁ・・・先生にかまってほしくてあまりリハビリに力を入れていなかったことかなぁ・・・」
「ごめんね先生」と彼女はつぶやく。
色々と思うことはあったが彼はすべて忘れて、今からは患者のためにすべてを尽くそうと思った。
彼は男性の体をまさぐると目的のものを手に入れた。
そして彼女に近づく。
「安心しろ、そんな事大したことじゃないさ。それよりこれでも食べてすぐ眠りなさい。病院には私が運んでおくから」
そう言って彼女の口に『飴』を近づける。
「子供じゃないんだから・・・」
と、彼女は不満そうな声を出すが顔は笑っていた。
そう言って彼女は『飴』を口にする。
「先生、相変わらずなんか血の味がほんのりする・・・」
彼女は不満そうにいったが、疲れていたのかいつの間にか寝てしまった。
「さて、これから色々と忙しくなるな」