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愉快な日常

ザクザクと人を切り開く。

切り開く。

彼だったか彼女だったかはもう関係ない。

だってもうただの肉塊なのだから。

ザクザク。

ザクザク。

ザクザク・・・あった。

見つけた。

美しい宝石の塊。

これがあればほかはもういらない。

私は『肉塊』を脇に避けると、美しい宝石の塊の確認を行う。

間違いないこれが宝石だ。

私はこれを喜んでぺろりと食べた。


--------------------------------------------------------------------------

「先生はさ、なんで医者になろうと思ったの?」

「ええ、いきなり難しいことを聞くなぁ」

別にこれは真剣になにか答えてもらう必要のない雑談だった。

私がその答えをしっかりと聞く余裕がない。

なぜなら私は足のリハビリの真っ最中だったからだ。

疲れていて余裕が無いので、気を紛らわすために雑談しながらするのが私の常なのだが、今日の雑談は先生に刺さったようだった。

「どうしてって言われてもな、当然自分のためでもあるしそれに合わせて他の人も救われるならそれに越したことはないと思ったことも確かだし・・・」

真剣に悩み始めてしまった。

残念なことに私のリハビリそっちのけで。

こればかりは私が質問をぶつけたことが原因なので、そっとしておいてあげよう。

(他の先生とかに見つかったら多分お説教されるんだろうけど)

それを考えると事前に教えてあげたほうがいいのかもしれないけど、それはそれ、これはこれだ。

私の質問なんかに真剣になる先生がそこそこ可愛かったというのもある。

「うーん」

と、唸りながら頭から湯気が出るほどに悩んでいる先生はちょっと面白い。

「ふふ」

と、笑うと先生もそれに気付いたようで、多少怒ったような、もしくは照れているような気配を感じた。

「リハビリは真面目にしようね」

「はーい」

そう行って私はリハビリを続ける。

「でもさっきの質問に一つだけ答えるとしたらあれかな、自分が死ぬことが怖かったからかな」

意外な答えに私は思わず振り向いた。

まあ思いっきり踏ん張っているところにそんな入らない動作を入れたら当然バランスを崩すわけで、あっという間に転・・・ばなかった。

私は先生の手の中にすっぽりと収まっていた。

「よそ見をしないようにねー」

という先生のニヤリとした顔には腹が立ったが。

こちとら年頃の乙女なので、少しはそっちもドギマギしたらどうなんだという思いもちょっとプラスで。

「でもそうだな」

さっきとは打って変わって先生はちょっと暗い顔をする。

「死ぬのが怖かったからかな・・・」

「普通そういうのは患者の前では人を救うためとかいうのじゃないのかな」

「ああ、ごめんね、確かに今ではそういう人助けって気持ちっていうのは確かにあるよ。

ただ医者なろうと思ったきっかけってなんだろうと思ったら、小さい頃自分が死ぬのが怖くてさ、人体のことをもっと知ればなんて思った節もあるなって」

「・・・それでそこは解消されたのかな?」

「どうでしょうねー」

これまたさっきとは打って変わって人をおちょくるような顔をしした。

「もうだいぶ疲れたでしょ、ちょっと休憩にしようか」

といって車いすを持ってくる。

「そういえばお腹すいたでしょ。お昼にはまだ早いからあまり大きなモノは食べれないだろうけどそっちに飴があるから」

といって指差す。

先生はリハビリ器具の片付けをしていた。

私は飴のところまで行くとひょいとつまんで口に放り投げた。

口の中でコロコロと転がすとなんとも甘い中ちょっと気になる味がした。

「先生これ手作り?」

「そうだよー」

「もしかして作ってる最中に、怪我とかしてない?」

「え、なんで知ってるの?」

「なんかそこはかとなく『血』の味がする・・・」

「え、マジで?気をつけたつもりだったんだけど」

先生は手袋を脱いでひらひらと手を振る。

「出血大サービスでございます」

手のあちこちには切り傷なんだろうか、絆創膏でいっぱいだった。

「不器用なのにお菓子作りが好きなんてねぇ・・・」

だからといって普通飴を作って血は入らないと思うがそこはそっとしておいてあげよう。

「あとは片しておくからゆっくりしてていいよ」

「はいはい」

そう言いながら私はなんとなく先生が片付ける姿をゆっくりと眺めていた。

--------------------------------------------------------------------------


生命とは神秘的なものだ。

もうこれ以上は・・・という状態から急に奇跡の復活を遂げたり。

これで万全だと思っていたら、想わぬ落とし穴で死んだりもする。

私は病院で何度もこういう光景を見た。

だからなのだろうか、いつしか妄執にとらわれるようになっていった。

自分で妄執とわかっているのだから止めればいいとは言ってくれるな。

止められないからこそ妄執なのだ。

人体の中には生命塊のような宝石のみたいなものが存在して、それが生命を左右するのではないか?

それに気付いたのはほんのあることがきっかけだった。

人が死んだとき、なにか大きなモノが体から外に向けて抜けていくようなものを見たのだ。

あれを見たときの衝撃は忘れない。

元の体が彼だったか、彼女だったかはもう忘れてしまったが。

そんなことよりも大きなモノを手にすることに精一杯で他のことは眼中になかった。

捕まえられるわけがない、どうしても捕まえなければ、そんな相反する感情が沸き起こる。

そして私はそれを捕まえた。

さて捕まえたはいいが、これはどうするのが正しいのだろう?

だから次に自分が取った行動は他の人から見れば以上そのものだっただろう。

食べた。

食い尽くした。

食い尽くして食い尽くして、私は立ち尽くしていた。

体に熱いものが宿っているのがわかる。

これは生命だ。美しい宝石の塊だ。

ずっと死ぬのが怖かった。

だから色々と模索していた。

そんな中これを見つけたのは僥倖と言えるだろう。

ただ、惜しかったのはこれの大半を逃してしまったのだ。

すべてを取り込むのは難しく、大半を逃してしまってもでも私に宿るものは十分すぎた。

ただ、これをもっと取り込めば?

私はもっと生命に満ち溢れたモノになれるのではないだろうか?


--------------------------------------------------------------------------

今日はリハビリの日だ。

ちょっと面倒くさかったりもするが、まあ先生と話せるのは割と楽しいので我慢する。

いつも通りリハビリを始める。

私が立てないのは精神的なものもあるらしいが、私がこうしてリハビリしている理由なのだが、いきなり事故で車に轢かれて半死半生で病院に送られ、助かったはいいものの、両足の感覚がないことに気付いたときは、まぁ驚いた。

驚きすぎて半狂乱で足を叩いたり、無理やり動こうとした。

そんな半狂乱の私を慰めてくれたのが、先生だった。

「大丈夫、あなたのその怪我はまだ取り戻しがつく、今すぐには動かせないだろうが頑張っていれば十分に希望はある」

私はその言葉に歳柄もなく(といってもまだ学生のみではあるが)泣いてしまった。

ぽろぽろと涙が溢れるぐらいなら可愛いものだが涙はもちろん、鼻水やよだれなんかも大量に吹き出していた。

いつかは先生からあの記憶を抹消しなくては。


ちらっと見ると近くにリハビリ器具をメンテナンスするための道具があった。

これで頭を殴ればあの記憶も飛ぶのではないだろうか?

思いっきり先生の頭を殴ったあと先生が倒れそして改造人間として

「やあ、こんな頭になっちゃったよ」

なんて言いながら戻ってくる姿が頭に浮かんだ。

無理だよそれは、流石に私でもその頭は愛せない。だってとても鋭いんだもの。。。

そんな風に妄想に浸っていると先生がちょっと残念そうなものを見るような目で私に向かってこういった。

「なんというか、考えていることが顔によく出る方だよね。か、可愛らしいと思うよ・・・うん」

(見られた?)

今こそさっきまで道具だった鈍器の出番!

そんなことを考えているのが顔に出ていたのか、私の近くにあった鈍器を先に手をする。

「あのね、こんなので頭殴ったら、普通記憶が無くなる前に死ぬからね?」

まあ君の力じゃそこまで大事にはならないかもしれないけどとつぶやく。

まあ確かに私と先生の身長差+私は車いすに座ったままだ。

「変なこと妄想していないでリハビリを始めるよ」

本当はこういうのは先生じゃなくて理学療法士が務めるのだけど、先生がまだ新人+初めての患者+たまたま患者が少ない時期というのが重なってたまに付き合ってくれるのだ。

それだけ偶然が重なってもこういうのはとてもめずらしいのではないかと思う。

「先生はさ、なんで私のリハビリに付き合ってくれるの?」

「うーん、一言で言えば惚れたからかな」

私は緊急通報装置に手をかける。

「違う違う!待って早まらないで!社会的に死ぬから!」

などと色々とあったが結局はこういうことだった。

医療を学べば学ぶほど、助かるもの助からないものがはっきりしてきたこと。

そんなものなのかと半ば今までの情熱がどこかに言ってしまいそうだったこと。

その中担当した患者が懸命に自分にできることを精一杯頑張っていること。

そういう姿が眩しく映ったこと。

「そんなことを言われるとまぁ当然のごとく私は照れるのですが・・・」

「まあそんなこともあって自分は自分にできることを精一杯頑張ろうと思えたんだよね」

「そんなに私のコトを見てくれてたなんて!結婚しますか?」

「どうしても私を犯罪者にしたいようですね、歳の差いくつあると思ってるんですか!」

「「あっはっは」」

などとバカ話を言い合いながらリハビリを始める。

しばらく立ったときだ。

先生が唐突にこういった。

「君は病院からほとんどでないから、大丈夫だと思うけど、近頃近くでちょっと怖い事件が起きているらしくてむやみに外に出ないようにね」

先生はあまり言いたがらなかったが、無理やり口を割らせると結構むごたらしい事件のようだった。曰く・・・

「比較的若い人が襲われて他の人が気付く頃にはどう見ても手遅れの状態で見つかると、そういった事件がこの付近で多発しているらしい」

とのことだ。

「まぁ大丈夫ですよ。私はこの足ですから基本は外に出ないし、いざとなれば・・・」

「いざとなれば?」

「そこに私の必殺武器が」

「これ、リハビリ器具の調整道具だからね?」

などとバカ話をしながら今日のリハビリは終わった。


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