7-7
俺が大阪府内の病院に着くと、手術室の前でお袋が座っていた。お袋は両手を握り合わせて、背中を丸めながら祈っている。
手術室の赤いランプはまだ点灯中だった。
「お、お袋……」
俺がお袋にそう話しかけようとすると、
「ああ、颯也」
と、お袋はため息をつきながら俺にそう言った。お袋の目には、じんわりと涙が浮かんでいる。
そしてお袋は、立ち上がって俺を抱き寄せた。
「……親父は?」
俺はお袋を離した後でそう尋ねる。
「見ての通り手術中や」
お袋はか弱い声でそう言った。
「追突事故って……」
俺がそうつぶやくと、
「今日、朝の生放送あるやろ? それに向かってる途中で、お父さん乗ってる車がトラックに追突されたんやって」
と、お袋が俺にそう言った。
「トラックの運転手は?」
俺がそう尋ねると、
「居眠り運転やって。警察が来た時にはもう亡くなってたらしいわ」
と、お袋は少し落ち着きを取り戻しながらそう言った。
「三宅さんはこのこと知っとるんか」
俺がお袋にそう尋ねると、
「たぶん。今たしか生放送中やから、それの速報で知ったはずや。でも、三宅さんもまさかこんな形で相方の事故を知るなんて、思わなかったやろなあ」
と、つぶやくようにそう答えた。
その時、お袋のスマートフォンが鳴った。お袋は慌てて、手さげバッグからスマートフォンを取り出す。
「もしもし、風早です」
お袋は声を上ずらせながら電話に出る。お袋はそのまま一分くらい会話すると、電話を切ってまた手さげバッグの中に入れた。
「今、三宅さんから連絡あったわ。たった今放送が終わったから、これからこっちに来るって」
お袋が俺にそう言った。
「そっか、よかった」
俺は思わずため息をつきながらそうつぶやいた。
その瞬間、
「お母さん」
と叫ぶ姉貴の声が俺の後ろから聞こえてきた。姉貴はそのままお袋に駆けよると、お袋に勢いよく抱きついた。
「ああ、聖奈」
と、お袋は姉貴を抱きながら姉貴にそう言った。
「お久しぶりです。お義母さん」
姉貴の後ろから、雄太さんがお袋にそう声をかけた。雄太さんの両腕には、生後三か月の俺の甥っ子、伊吹が抱かれている。
「雄太くんも、来てくれてありがとうね。それから伊吹ちゃんも」
お袋は雄太さんと伊吹に、そう言ってほほえんだ。
その直後、手術室の赤いランプが消えた。
そして手術室のドアが開く。でも、そこから出てきたのはタンカに乗せられた親父ではなく、手術着を着た先生だけだった。
――なんか、嫌な予感がする。
「先生、主人は……」
お袋がそう尋ねると、先生はマスクのヒモをほどきながら、俺たちに向かってこう言った。
「……最大限手はつくしましたが、残念ながら――」
その瞬間、姉貴は両手で口元をおおいながら、
「ウソや。そんなんウソや」
と言ってお袋にまた抱きついた。泣きさけぶ姉貴を、お袋は涙目で静かに抱きよせる。
その瞬間、伊吹が姉貴に感化されたように泣き始めた。
雄太さんは伊吹のことを、
「よしよし」
と、つぶやきながらあやす。
俺はただ、ボーッと突っ立っていることしかできなかった。




