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※この物語はフィクションです。登場する人物、競走馬、団体名、施設名、および競走成績などは全て架空のものであり、実在するものとは一切関係ありませんのでご了承ください。
俺は矢吹のような秀才じゃない。
まして早乙女のような天才でもない。
そんな俺が、同期のあいつらと一緒にいてもいい資格があるのか、これまで何度も考えてきた。
あいつらから見れば、俺がこんなことで悩む人間には見えないかもしれない。それは俺がこれまで、あいつらにそういう姿を見せないようにしてきたからだ。
俺だって人間だから、弱いところはいくらでもある。でも、せめてあいつらと一緒にいるときだけは、そんなことも忘れるくらい楽しくありたい。それが俺の俺らしさだ。
阪神競馬場に向かうために乗った新幹線の車内で、窓の外の景色を見ながら、俺は柄でもなくそんなことを考えていた。夕日に照らされた富士山が、けばけばと反射しながら輝いている。
ふとななめ後ろから、デッキに続くドアがウィーンと開く気配がした。振り返ると、スマートフォンを片手に持ちながら、矢吹がこっちに戻ってきた。
「ごめん風早。急に電話が来ちゃって」
矢吹はそう言いながら、俺の座っている席の隣、二人掛けの通路側の席に座る。
「いや、かまわんで。それより、誰からの電話やった?」
俺が矢吹にそう尋ねると、
「ちょっと後輩からね」
と答える。
「後輩やって? お前の恋人志望の間違いやろ」
俺が矢吹にそう言うと、
「な、なんでそうなるのさ」
と、戸惑ったように矢吹は言う。
「たしか、澪ちゃんやったか。あの子ぶっちゃけお前のこと狙っとるで。そうでもなきゃあ、わざわざお前と一緒に歩いて厩舎間を移動するかっちゅうねん。絶対お前と一緒にいる時間を長くするための作戦やで。いやあ、あの子もなかなかあざといなあ」
「そうだとしたら、狙う相手を変えた方がいいよ。僕なんかと一緒にいても、幸せになんてなれないから」
「んなわけないやろ。それに、お前にはその甘いマスクがあるやんけ。お前みたいなさわやか系イケメン、周りを見てもそうそうおらんで。お前に声かけられたら、そのへんの女子なんてイチコロやろ。知らんけど」
「そうかなあ。僕はあんまり自分の顔に自信ないけど。それに、顔がカッコいいのは風早の方だよ。僕はむしろ、なんで風早がモテないのか、それが分からないんだけど」
俺は矢吹のその言葉を聞いて、
「そういうとこやぞ、お前」
と、思わずつぶやいていた。
「え、何が」
矢吹は俺にそう尋ねる。
「いや、なんでもない。ただのひとりごとや。しかしまあ、ここまで無自覚とは。罪な男は大変やなあ」
俺が矢吹をからかいながらそう言うと、
「だから罪な男じゃないって、僕は」
と、矢吹があまりにも必死な顔でそう言うものだから、
「悪い悪い」
と、俺はそう言いながら思わず笑っていた。




