5-13
私はローレルの勝負服のファスナーを閉める。胴体に黄色い玉霰、袖に黄色い二本輪が描かれた桃色の勝負服だ。それから私は手袋をはめて、黒いヘルメットの紐を締めた。そして私は検量室から出る。目の前には、馬場先生が立っていた。私は馬場先生の傍まで近付いて行く。馬場先生は、私に気付いたのか私の方に振り向いた。
「準備は出来たか、風花」
馬場先生は私にそう尋ねた。
「はい、大丈夫です」
私は馬場先生にそう答える。
「何度も言っているが、一筋縄ではいかないのがGⅠだ。これから出走する十八頭は、どれも重賞を勝ち抜いてきた実力馬だということは、風花もよく解っているだろう。だが、だからこそ勝って、一流を証明して見せろ。その為の騎乗である事を心がけておくように」
馬場先生は私にそう言った。
「はい」
私は馬場先生にそう返事をする。
「よかろう。俺からは以上だ」
馬場先生は私にそう言った。
「ありがとうございます」
私は馬場先生にそう言って、深く一礼をする。
「忘れるなよ、風花。迷ったら、馬が信じる自分を信じろ。いいな」
馬場先生は私にそう言った。
「はい」
私は馬場先生にそう返事をする。その直後、検量室前を先導馬が二頭通り過ぎて行った。その後ろから、番号順に競走馬が歩いて来る。私はその中から、4番の馬を見つける。ローレルのリードを引いた優介さんが立ち止まり、同時に私はローレルに近付く。そして馬場先生は掛け声と同時に、私の片足を持ち上げた。私はそのままローレルの背中に乗り、鐙に足を掛ける。優介さんは私が騎乗した事を確認すると、再びローレルを引きながら、中山競馬場の芝コースに向けて歩き始めた。




