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ファンファーレ  作者: 菅原諒大
第五章 夢見る少女じゃいられない
66/100

5-7

 雷人兄さんが、突然私の部屋のドアを強く開けた。

「何でお前が合格するんだよ」

 雷人兄さんはそう叫んで、私に近づいて来る。私はあまりに突然の出来事に、何もすることが出来なかった。雷人兄さんはそんな私をベッドに押し倒し、私の腹の上で馬乗りになった。そして雷人兄さんは、そのまま私の顔を殴った。

「俺は親父の実の息子だぞ。それなのに、何で養子のお前が一発で受かるんだよ。兄貴だって一発合格だった。俺だけ三回も落ちたのに。これじゃあまるで、俺だけ騎手になるなって言われてるようなもんじゃねえか」

 雷人兄さんはそう言って、また私の顔を殴った。私が競馬学校に合格した、その直後の出来事だった。

 JRAの競馬学校騎手課程には、主に三つの応募資格が存在する。一つ目は、入学時の年齢が十五歳以上二十歳未満であること。二つ目は、年齢に応じて体重が四五・〇キログラム以下から四八・〇キログラム以下であること。三つ目は、視力が両目で〇・八以上かつ左右の目が共に〇・五以上であること。また、視力の矯正はソフトコンタクトレンズのみ使用可能。この三つの応募資格を満たした上で、騎手課程の試験を合格した十名程が、競馬学校に入学出来る。

 そして競馬学校は、新入生の殆どが中学校卒業直後である為か、年齢が上がる程合格率は低くなって行く。私が競馬学校に合格した当時の雷人兄さんは高校三年生、年齢にして十八歳だった。

「何で。何で俺じゃなくてお前なんだよ」

 雷人兄さんはそう言って、今度は私の左右の頬を何度も殴り始めた。私がその時出来たのは、ただひたすら痛みに耐える事だけだった。

「雷人、何をやっているんだ」

 私の部屋のドアの向こう側から、父が怒鳴りながらそう尋ねた。

「げ、やべえ」

 雷人兄さんはドアの方を向きながらそう呟いた。その直後、父親が私の部屋のドアを勢い良く開けた。

 その時、私の目覚まし時計が鳴った。私は独身寮の自室で目を覚ます。周りには、雷人兄さんも父も誰もいない。

「夢か」

 私はそう呟く。時計は午前四時を指し示していた。

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