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突然、金属が地面にたたきつけられる鈍い音が響く。僕は驚いて、音がした馬房の方へ振り返ると、猫車がタイヤをきゅるきゅるさせながら、横を向いて転がっていた。清水さんがそれを起こそうとしている。運んでいる途中で転んでしまったのだろう。
午前九時過ぎ。僕はこれから他の厩舎の馬を調教しに行こうと、自転車で調教スタンドまで向かおうとしていたところだった。たまたま馬房の近くにいたこともあり、僕は清水さんの方へと駆け寄る。
「大丈夫?」と、僕は清水さんに駆け寄りながら声をかけた。
「矢吹さん」と少し困惑したように清水さんは呟く。「大丈夫です。このくらい一人で出来ますから」
そう笑顔で言う清水さんは、少し焦っているように見えた。僕は地面に散らばった寝藁を見る。この量を女の子一人で運ぶのは大変だ。それに寝藁は泥にまみれてしまい、もうほとんど使い物になりそうにない。
「もう一回新しい寝藁を持ってきた方がいいかもね。手伝うよ」
僕はそう言いながら、転がった猫車を起こした。
「そんな、私一人で大丈夫ですよ」
「いいからいいから」と、僕は微笑を浮かべようとしながら清水さんにそう言った。
僕は、上手く笑えていただろうか。