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ファンファーレ  作者: 菅原諒大
第三章 人生万事塞翁が馬
44/100

3-10

「お知らせいたします。東京競馬第十一レースは、5番ジャックジャッカル、及び11番イコマエクスプレスの馬体検査を行うため、発走時刻が遅れます。発走まで、もうしばらくお待ちください」

 そんなアナウンスが、東京競馬場の場内に響いた。パドックで周回していた時以上のどよめきが起こる。そんな中、僕はロッキーを第二コーナー付近の待避所まで走らせていた。

 本馬場入場を終え、それぞれが返し馬をしようとした時にそれは起こった。

 突然、イコマエクスプレスがまた嘶いたかと思うと、今度は後ろ脚だけで立ち上がりながら、斜行するように斜めに飛び上がった。

 その影響で騎手が一回飛び降りると、空馬になったイコマエクスプレスは、卓馬さんが騎乗するジャックジャッカルに後ろから突進。

 ジャックジャッカルは自分の身を守るために、後ろ脚でイコマエクスプレスを蹴り上げるような態勢になった。

 その時、卓馬さんがその勢いにこらえきれず落馬。

 同じく空馬になったジャックジャッカルは、イコマエクスプレスから逃げるように、スタートとは反対方向へと逃げてしまった。

 それをイコマエクスプレスが追いかけるのかと思いきや、今度はロッキーの方へと全速で突進してきた。

 それをかわすために、僕はイコマエクスプレスとの間合いを見て、ロッキーをその場で小さく一回転させる。

 そしてもう一度、イコマエクスプレスがロッキーに近付いてくる。

 避ける間合いを見極めるために僕が睨みを利かせていると、突然、ロッキーの目の前でイコマエクスプレスが急停止した。

 そしてそのまま、何事もなかったかのごとく歩き去っていく。

 その途中で、イコマエクスプレスは係員にリードで捕獲されていた。

 これが事の顛末だった。

 騎手や係員でもどうすることも出来ない混乱を引きずったまま、とりあえずはレースに向けての準備が行われるようだった。しかし、これに巻き込まれたロッキーも、そして他の馬たちのことも少し心配だ。ロッキーも冷静とはいえ、驚かなかったわけではない。今回は重賞制覇を狙いに来たけれど、今回のこの混乱なら、最後まで走り切れればそれでいい。

 でも、何でイコマエクスプレスはあの時、ロッキーの前で急に冷静になったのだろうか。

 そんなことを思いながら、待避所でロッキーを周回させながら歩かせていると、突然、場内放送のチャイムが流れた。

「お知らせいたします。東京競馬第十一レースの、5番ジャックジャッカル、及び11番イコマエクスプレスの馬体検査を行ったところ、異常が確認されませんでした。よって、5番ジャックジャッカル、及び11番イコマエクスプレスは、予定通り発走いたします。また発走時刻は、十分遅れて、十五時五十五分といたします」

 良かった。

 僕は思わずほっと息をつく。でも、そう思えたのも束の間のことだった。

「なお、5番ジャックジャッカルは、落馬の際、騎手に身体の異常を確認したため、急遽、(じん) 卓馬(たくま)騎手から丹羽(にわ) 一行(いっこう)騎手に乗り替わりとなります。発走まで、しばらくお待ちください」

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