表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンファーレ  作者: 菅原諒大
第三章 人生万事塞翁が馬
35/100

3-1

※この物語はフィクションです。登場する人物、競走馬、団体名、施設名、および競走成績などは全て架空のものであり、実在するものとは一切関係ありませんのでご了承ください。

矢吹(やぶき)、始まるで」

 東京競馬場の第十レースを終え、僕が検量室から外の表彰台の近くに向かうと、風早(かざはや)が僕を手招きしながらそう言った。ターフ上のモニターには、向こう正面にあるスタート地点の様子が映し出されている。僕が急いで風早の隣まで走っていくと、最後の一頭、8番がゲートへの枠入りを終えたところだった。

 そしてゲートが開かれた。

「スタートしました」という実況とともに、八頭の二歳馬たちが一斉に走り出す。

 十月九日、土曜日。今日の東京競馬場のメインレースは第十一レース、芝コース一六〇〇メートルのGⅢ競走、『サウジアラビアロイヤルカップ』だ。僕ら二人は、それに出走する7番カコノローレルを観るために、こうして外で観戦していた。

「さあ先頭は7番カコノローレル。紅一点が先頭に立った。その後ろから1番リュウセイライナーがこれを追いかけながら逃げていく。

 一馬身後ろでは三頭が先行集団を形成。大外8番シノノメアルファがやや優勢か。5番ユウショウオリオンと2番ダイヤンフライヤーが内からこれと並走。

 そして中団では二頭の競り合い。内に4番セトナイトスペード。並んで3番ファストブライト。そして6番ヤタノスーパーカーは最後方からのスタートとなりました。

 そして先頭のカコノローレル、リュウセイライナーとは三馬身ほど離れているでしょうか。前走から二〇〇メートル伸ばしての出走ですが、果たしてこのまま逃げ切れるのか。

 各馬第三コーナーに差し掛かろうというところ。先頭カコノローレルは既に第三コーナーに突入しています。これはもう四馬身ほど離れている。圧巻の逃げです。そしてカコノローレル、第三コーナーの大ケヤキの前を通り過ぎていく。一〇〇〇メートルの通過タイムは五七秒四と表示されました。これはかなりのハイペースだ。

 第四コーナーに差し掛かった。後続の各馬が徐々に追い上げていく。残り六〇〇メートルの標識を通過。カコノローレル、このまま逃げ切れるのか。さあ最後の直線に差し掛かった」

「行け、行け、行け」とでも言わんばかりに、風早はぎゅっと握っている両手の力を強めていく。僕も「逃げ切れ、逃げ切れ」と心の中で叫びながら、無意識のうちに全身に力が入っていった。

「リュウセイライナーここで沈んだ。シノノメアルファがそれを交わしていく。シノノメは現在二番手、ローレルを捉えた。しかし内からダイヤンフライヤーが来た。

 残り四〇〇メートル。ダイヤンフライヤーが内から迫ってきている。ここでダイヤンがシノノメと並んだ。しかしシノノメも譲らない。二頭の熾烈な二番手争いだ。その大外からユウショウオリオンも来た。ユウショウオリオンも二頭と並ぶ。

 残り二〇〇メートル。ユウショウオリオン交わした。ユウショウオリオン二番手。カコノローレルを捉えられるか。しかしカコノローレルとの差は歴然だ。ユウショウオリオン追い付けない。高嶺の花には届かない。カコノローレル、そのまま逃げ切って今、ゴールイン」

 その瞬間、隣にいた風早が「しゃあ」と叫び、両手でガッツポーズを掲げる。

「よし」と、僕もつられて同時に叫び、右手で小さくガッツポーズを作った。同時に、後ろの観客席から、地鳴りにも似た大歓声が湧き上がっていた。

「カコノローレル逃げ切った。カコノローレル、七頭の男たちを前にしてもなお強かった。驚異的な逃げ切り勝ち。一度も先頭を譲ることなく蹴散らしました。

 やはり最後の二〇〇メートルは苦しかったか、カコノローレル。しかしそれでも逃げ切りました。これで二戦二勝、デビュー以来負けなしの二連覇となりました。

 勝ちタイムは一分三三秒三、最後の六〇〇メートルの通過タイムは三五秒六と表示されました。四馬身差での圧勝です。そして鞍上早乙女(さおとめ) 風花(ふうか)、JRA通算三〇〇勝を達成いたしました。

 そのカコノローレルから大きく離されて、二着はユウショウオリオン。三着と四着は写真判定と表示されています。確定までしばらくお待ちください。そして五着にはリュウセイライナーが入線となりました。三着はシノノメアルファか、それともダイヤンフライヤーか。着順確定まで馬券をお持ちのままでお待ちください。

 以上、東京競馬第十一レース、GⅢ競走『サウジアラビアロイヤルカップ』の模様をお伝えいたしました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ