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※この物語はフィクションです。登場する人物、競走馬、団体名、施設名、および競走成績などは全て架空のものであり、実在するものとは一切関係ありませんのでご了承ください。
「矢吹、始まるで」
東京競馬場の第十レースを終え、僕が検量室から外の表彰台の近くに向かうと、風早が僕を手招きしながらそう言った。ターフ上のモニターには、向こう正面にあるスタート地点の様子が映し出されている。僕が急いで風早の隣まで走っていくと、最後の一頭、8番がゲートへの枠入りを終えたところだった。
そしてゲートが開かれた。
「スタートしました」という実況とともに、八頭の二歳馬たちが一斉に走り出す。
十月九日、土曜日。今日の東京競馬場のメインレースは第十一レース、芝コース一六〇〇メートルのGⅢ競走、『サウジアラビアロイヤルカップ』だ。僕ら二人は、それに出走する7番カコノローレルを観るために、こうして外で観戦していた。
「さあ先頭は7番カコノローレル。紅一点が先頭に立った。その後ろから1番リュウセイライナーがこれを追いかけながら逃げていく。
一馬身後ろでは三頭が先行集団を形成。大外8番シノノメアルファがやや優勢か。5番ユウショウオリオンと2番ダイヤンフライヤーが内からこれと並走。
そして中団では二頭の競り合い。内に4番セトナイトスペード。並んで3番ファストブライト。そして6番ヤタノスーパーカーは最後方からのスタートとなりました。
そして先頭のカコノローレル、リュウセイライナーとは三馬身ほど離れているでしょうか。前走から二〇〇メートル伸ばしての出走ですが、果たしてこのまま逃げ切れるのか。
各馬第三コーナーに差し掛かろうというところ。先頭カコノローレルは既に第三コーナーに突入しています。これはもう四馬身ほど離れている。圧巻の逃げです。そしてカコノローレル、第三コーナーの大ケヤキの前を通り過ぎていく。一〇〇〇メートルの通過タイムは五七秒四と表示されました。これはかなりのハイペースだ。
第四コーナーに差し掛かった。後続の各馬が徐々に追い上げていく。残り六〇〇メートルの標識を通過。カコノローレル、このまま逃げ切れるのか。さあ最後の直線に差し掛かった」
「行け、行け、行け」とでも言わんばかりに、風早はぎゅっと握っている両手の力を強めていく。僕も「逃げ切れ、逃げ切れ」と心の中で叫びながら、無意識のうちに全身に力が入っていった。
「リュウセイライナーここで沈んだ。シノノメアルファがそれを交わしていく。シノノメは現在二番手、ローレルを捉えた。しかし内からダイヤンフライヤーが来た。
残り四〇〇メートル。ダイヤンフライヤーが内から迫ってきている。ここでダイヤンがシノノメと並んだ。しかしシノノメも譲らない。二頭の熾烈な二番手争いだ。その大外からユウショウオリオンも来た。ユウショウオリオンも二頭と並ぶ。
残り二〇〇メートル。ユウショウオリオン交わした。ユウショウオリオン二番手。カコノローレルを捉えられるか。しかしカコノローレルとの差は歴然だ。ユウショウオリオン追い付けない。高嶺の花には届かない。カコノローレル、そのまま逃げ切って今、ゴールイン」
その瞬間、隣にいた風早が「しゃあ」と叫び、両手でガッツポーズを掲げる。
「よし」と、僕もつられて同時に叫び、右手で小さくガッツポーズを作った。同時に、後ろの観客席から、地鳴りにも似た大歓声が湧き上がっていた。
「カコノローレル逃げ切った。カコノローレル、七頭の男たちを前にしてもなお強かった。驚異的な逃げ切り勝ち。一度も先頭を譲ることなく蹴散らしました。
やはり最後の二〇〇メートルは苦しかったか、カコノローレル。しかしそれでも逃げ切りました。これで二戦二勝、デビュー以来負けなしの二連覇となりました。
勝ちタイムは一分三三秒三、最後の六〇〇メートルの通過タイムは三五秒六と表示されました。四馬身差での圧勝です。そして鞍上早乙女 風花、JRA通算三〇〇勝を達成いたしました。
そのカコノローレルから大きく離されて、二着はユウショウオリオン。三着と四着は写真判定と表示されています。確定までしばらくお待ちください。そして五着にはリュウセイライナーが入線となりました。三着はシノノメアルファか、それともダイヤンフライヤーか。着順確定まで馬券をお持ちのままでお待ちください。
以上、東京競馬第十一レース、GⅢ競走『サウジアラビアロイヤルカップ』の模様をお伝えいたしました」




