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ファンファーレ  作者: 菅原諒大
第二章 一心同体
33/100

2-9

 ファンファーレが鳴り響いた。ゲート後方で周回していた二歳馬たちが、一頭ずつゲートへと誘導されていく。その中でも、ロッキーは一番初めに係員に誘導された。

 ロッキーはいつも通りの大人しさで、5番ゲートへと引かれていった。直後に3番ゲート、その次に7番ゲートへダンスの枠入りが行われていく。

 前後左右が区切られたゲート内で、僕はゆっくりと鼻から息を吸い込み、一秒以上かけて口から吐き出す。そして僕は、ちらりと左を見た。そこでふと、ダンガンストレイトに騎乗している風早 颯也と目が合った。

 こちらをじっと睨む目は、さながら何かの猛獣のようだ。僕らのことを逃がすまいとするその視線。僕はその時、一瞬だけ戦慄のようなものを覚えた。でもすぐに、それは怖いもの見たさのようなスリルへと変わっていく。

 面白い。どっちが本物のハンターか、証明してやろうじゃないか。

 その時、僕はロッキーと一心同体になったような感覚だった。

 直後、ロッキーとダンスの間に、6番の馬が枠入りする。それと同時に、僕は前へと向き直った。

 そして最後の一頭、9番がゲートに入り、係員が離れる。各馬出走準備が整った。

 そしてゲートが開かれた。

「スタートしました」という実況とともに、九頭の二歳馬が一斉に走り出す。中山競馬場第九レース、芝コース二〇〇〇メートル『芙蓉ステークス』の火蓋が今、切って落とされた。

「さあ、各馬綺麗に揃いまして、まずはスタンド前の直線を駆け抜けていきます」

 そんな実況が響く中、僕はロッキーを先行集団の外側につける。

 でも、7番はロッキーの前にはいない。

 きっと後方から追い込むつもりだろう。

 来るとしたら、内側からだろうか。

 でも、今はそれでも構わない。

 後からロッキーのことを追いかけてくるはずだ。

 出だし良好。いい感じだ。

「先頭に立ったのは2番コガラシイチゴウ。

 一馬身ほど離れて先行集団、真ん中には3番ポケモーターがいて、大外5番ロッキーロードがこれと並走。内から1番ヤタノポートレイトも迫ってきた。

 それから中団では8番スカイキャンバスと6番ヨゾラノムコウ、4番シノノメアルタイルが並びながら第一コーナーを通過。

 後方には外から9番セトナイトブラック。そして最後方から7番ダンガンストレイトが追いかける形となりました。各馬第二コーナーを回って向こう正面の直線に差し掛かります」

 7番は依然後方の内側から、追い込みをかけるタイミングを狙っている。周りを見れば、他の馬たちもここで仕掛ける様子はなかった。

 おかしい。僕は直感的にそう思った。

 中山競馬場の直線は、他の競馬場と比べて短い。だからここで足を余らせないためにも、一頭くらいはここで仕掛けると思っていたのだが、読みが外れた。

 もしかして、どの馬も周りの様子をうかがっているのだろうか。どの馬もいい位置取りができたから、下手に動きたくないのかもしれない。

 僕はふと、ロッキーが自分から仕掛けようとしていないを確認する。

 大丈夫だ。いたって冷静に走っている。いつ仕掛けても問題なさそうだった。

「先頭は依然コガラシイチゴウ。その後ろから三頭が差を詰めながら追いかける。後方のダンガンストライクはここで中団を捉える形となった。そして単独になった最後方のセトナイトブラック。各馬そのまま第三コーナーに突入。残り六〇〇メートルを切りました」

 その時、隣の3番に鞭の飛ぶ音がした。直後、3番が前方の2番めがけて加速していく。

 それと同時に、内の1番がロッキーの隣に移動し始めた。

「ここで3番ポケモーターが先頭を捉えた。第四コーナーに差し掛かって、ポケモーターがコガラシイチゴウに並んだ。後ろからも各馬が追い上げていく。さあ各馬最後の直線に差し掛かった」

 ここまで来ても、7番はロッキーの前にはいない。

 でも、これでいい。

 追い上げてくるとしたら、この辺りで一気に来るはず。

 そう思った直後だった。

 突然、四時の方向から蹄の音が近付いてきた。

 来たか。

 そう思って僕が横目に確認した瞬間、すでに7番はロッキーたちと並んでいた。

 しかしそれも束の間、頭一つ抜け出してからあっという間に交わしていく。

 よし、今だ。

 手綱をしごくと同時に、待ってましたと言わんばかりの勢いで、ロッキーが加速を始める。ロッキーは内にいる1番を交わしていくと、先頭を捉える形で内の7番と並走し始めた。

「先頭はポケモーター、3番ポケモーターに替わった。そしてここで追い上げてきた7番ダンガンストレイト。内からポケモーターに迫っていく。しかし外からロッキーロードも来た。5番ロッキーロードも追い上げてくる」

 直後、7番の左腹に鞭が撃ち込まれる。

 そして間をおいてさらにもう一発。

 一気に7番のギアが上がった。

 負けない。

 僕はそれに合わせて、手綱にさらに勢いをつけて、素早く振り下ろす。

 自然と手綱を握る手に力が入った。

 やがて7番は3番を交わすと、同時にロッキーも3番を交わしていく。

 目の前には7番の一頭だけ。ロッキーのことなど見ていない。

 絶好のチャンスだ。

 目標捕捉、追撃準備完了。目の前の7番を交わしてやる。

 その時、僕らは風になった。

「残り二〇〇メートルを切った。先頭は7番ダンガンストレイト。外から5番ロッキーロードも来ている。しかしダンガンが依然先頭。ロッキーがそれに追いすがる。ダンガンか、ロッキーか。先頭二頭の激しい競り合いだ。ここでロッキーがダンガンに並んだ。このまま二頭が並ぶのか。いや並ばない。ロッキーロード、そのまま先頭に替わって今、ゴールイン。

 まさかの六番人気が一着。上位人気馬を押しのけて、ロッキーロード、これで三戦二勝。

 新馬戦の波乱には続きがありました。鞍上矢吹(やぶき) (はるか)をその背に乗せて、5枠5番ロッキーロード、四分の三馬身差での決着となりました。

 勝ちタイムは二分〇秒六、最後の六〇〇メートルの通過タイムは三六秒三と表示されました。

 そして7番ダンガンストレイトは二着。惜しくもロッキーロードを前に敗れました。三着は3番ポケモーター。四着には1番ヤタノポートレイトが入線。そして五着は2番コガラシイチゴウとなりました。お手持ちの勝馬投票券は捨てずにお待ちいただきますようお願いいたします。

 以上、中山競馬第九レース、二歳オープン戦『芙蓉ステークス』の模様をお伝えいたしました」

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