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ファンファーレ  作者: 菅原諒大
第一章 メイクデビュー
20/100

1-19

 黒字でロッキーロードと馬名が書かれた、8番の白いゼッケンが、係員によって掲げられる。僕は鞍を胸の前で両腕に抱えて、そのままデジタル式の計量秤の上に乗った。

 五三・〇キログラム。

 制限重量通りだった。直後に僕はゼッケンを受け取り、装鞍所検量室で鞍の検量を受ける。その後で装鞍所の馬房に向かい、そこで待っている清水さんとロッキーの元へ向かった。

 八月七日土曜日、午前十一時半。およそ一時間後に発走となる『メイクデビュー新潟』に向けて、僕は出走のための準備を進めていた。次は馬房の中で、清水さんにも手伝ってもらいながら、ロッキーの背中に鞍とゼッケンを装着させる。

 ゼッケンの上に鞍を乗せ、腹帯を締める。鐙がねじれていたので、それを安全な向きになるように戻した。

 初めての場所、初めての装備、いつもとは違う雰囲気を感じて一暴れしたり、緊張で固くなったりする新馬たちが少なくない中、この時もロッキーは大人しく鞍を装備させてくれた。こんな感じで、顔の黒いメンコも装着させてくれたのだろうか。

 メンコとは馬の顔に装備する覆面のことで、音に驚いたり、砂を被ることを嫌がったりする馬などに付けられることが多い。僕がここまで来る間に、先に清水さんがロッキーに被せてくれていたようだ。

 そんなロッキーのことを褒めたくなって、僕はついロッキーの前に右手をかざす。顔を撫でようと思ったが、そこで僕はぴたりと動きを止める。

 ロッキーの顔付きが、いつもとは違って見えたからだ。瞳は相変わらず、吸い込まれそうなくらいに黒く澄んでいる。でも、その奥底には熱を帯びた、炎のような光が宿っていた。

 自分は今、勝負の世界に立とうとしている。それを自覚しているみたいだった。

 僕が撫でるのをやめたのは、そんなロッキーの姿を前に躊躇してしまったからだ。今下手に触ったら、ロッキーの気に障ってしまうかもしれない。

 でもそれは杞憂だった。ロッキーは目の前の僕の手に気付くと、鼻を近付けてぺろぺろと嘗め始める。いつも通りの、人懐っこいロッキーがそこにはいた。

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