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ファンファーレ  作者: 菅原諒大
第一章 メイクデビュー
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1-14

 この子は、本当に走るためだけに生まれて来たのではないか。

 ロッキーの調教をするたびに、そんな想いが強くなっていく。

 あれからロッキーは無事にゲート試験を合格し、それに合わせて調教も本格的に始まった。ロッキーのデビュー戦、六月五日の『メイクデビュー東京』を見据えた調教は、日を追うごとに過酷さを増していく。新馬戦は最大二〇〇〇メートルまであるが、とりあえず一六〇〇メートルで様子を見て、それから少しずつ距離を伸ばしていこう、というのが神さんの考えだった。

 まず芝コースに慣れさせることから始まり、それから一六〇〇メートルを一本、二本と少しずつ走る量を増やしていく。それと並行して坂路での調教や、併せ馬と呼ばれる二、三頭での並走を行う調教も行われた。馬は群れの中で一番速い者がリーダーとなる習性があるため、それを利用して各馬の闘争本能を引き出す調教と言える。

 それでもロッキーは、持ち前の負けず嫌いな賢さを武器に、与えられた様々な調教を難なくこなしていった。

 まるで自分のなすべきことを、最初から分かっているかのようだった。

 それでいて、馬房に戻ればとたんに人懐っこくなるのだから、本当に不思議だ。

 僕はつい習慣で、調教を終えた後で厩舎の馬と一頭ずつ顔を合わせるのだが、その時にロッキーが、たてかけてあった箒を噛んで暇つぶしをしていたことがある。それを見て、僕は思わず叱ってしまったけれど、ロッキーはいじけるかのように、馬房の隅に丸まって落ち込んでしまうことがあった。

 でも次の日には立ち直っていて、「おはよう」とでも言いたげに馬房から顔を出していた。昨日は叱ってごめんと思いながら顔を撫でると、ロッキーは僕の顔を、「僕もごめんね」と言うように優しくぺろぺろと嘗め始める。そんなことが何回かあった。普段から世話をしている清水さんも、僕と同じようなことをされることがあるという。そしてそれが愛おしくてたまらないから、ついロッキーに抱きついてしまうのだとか。

 そういえば、気付けば僕も、次第にロッキーを毎日気にするようになってしまっていた。

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