小さな少女と小さな魔法
初めまして。佐藤加奈文と申します。初めての小説です。拙い部分は多々あると思いますが、初めてなので大目に見てくださると幸いです。
小さな少女と小さな魔法
土曜日の昼下がり、一人の青年は近場の小さな公園に向かった。本当に小さな公園で、滑り台やブランコ、そしてベンチが一脚あるだけの公演だった。青年はこの小さな公園が昔から好きで、大人になった今でもたまにこの小さな公園に通っている。
そんな公園のベンチに、一人の少女が座っていた。十歳にも満たない幼子だった。普段、この公園には休日にもあまり人がいないため、少し珍しい光景だった。見ればその少女は泣いている様子だった。青年はその様子を見て驚いたが、すぐに心配になって少女に近づいた。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」
青年は少女にそう問いました。
「ひっく…お兄さん、だぁれ?」
「僕は雄太。お嬢ちゃんは?」
「…真衣。」
事情を聞くと、真衣という子は買い物中の母親とはぐれてしまい、あちこちを探し回っていたが、母親は見つからず、途方に暮れ、探している途中でこの公園にたどり着き、ベンチに座って泣いていたという。
雄太はどうしたものかと考えた。雄太はあまり子供と関わったことが無い。それ故に、どのようなことをすれば子供が喜ぶのかを雄太は知らなかった。
実は雄太は一つ不思議な能力を持っていた。それはおそらく、魔法の類と言えるものだろう。
その能力は、人形やぬいぐるみを少しの間、まるで命が宿ったかのように動かすことが出来る能力だ。実際に命が宿っているのかどうかは、本人にもわからないため、定かではない。しかし、人形やぬいぐるみが動いている姿はとても愛くるしく、雄太はその様子を見るのが好きだった。
しかし、この能力は他人から見ればよくわからない不気味な能力に見えてしまうため、基本的にはあまり他人に見せることはなかった。
真衣を笑顔にするために最初に思いついたのはこの能力を使うことだったが、それでは不気味に思われてしまい、余計に泣かせてしまうのではないかと危惧したため、やめることにした。
「いないいない…ばぁ!…うーん、これでも駄目かぁ…。」
雄太は色々な手を尽くしましたが、少女は中々泣き止みません。これは困った…。雄太はかなり困りました。こうなってしまっては最早残されているのは魔法を使うことのみです。
(でもこの魔法を使うと気味悪がられるからなぁ…。)
雄太は悩みましたが、この方法しかない以上、試してみるしかないと思いました。
(この際試してみるしかないかぁ…。)
雄太は鞄から熊のぬいぐるみを取り出した。このぬいぐるみは某テーマパークで見かけて、すごくかわいいと思い、衝動のまま買ったものです。以来、このぬいぐるみは肌身離さず持っています。
「真衣ちゃん、ここに熊のぬいぐるみがあるでしょう?」
「うん…。」
真衣は熊のぬいぐるみを見て、不思議そうにしていました。
「今からこのぬいぐるみは可愛らしく歩くよ。よく見ててね。」
真衣はますます不思議そうな顔をしました。不思議そうな顔をしている前で、雄太はぬいぐるみに向かって指を向け、その指で頭に少し触れました。
するとなんということでしょう。ベンチに座っていたぬいぐるみが突然立ち上がり、歩き出したのです。これには真衣も思わず目を見開きました。なにせ本来動かない筈の熊のぬいぐるみが突然立ち上がり、歩き出したのです。無理もありません。
「お兄ちゃん、今なにしたの!?」
「ふふ、魔法をかけたんだ。」
魔法と聞いて、真衣は目を輝かせました。
「すごーい!!どうやってやるの!?」
真衣は先程までの泣いている様子が嘘のように元気になりました。しかし、ぬいぐるみの動かし方を聞かれて、雄太は困りました。何故なら、この魔法は誰にでも使える物ではなく、自分にしか使えないからです。
「ごめんね、真衣ちゃん。この魔法は僕にしか使えないんだ。」
「えー!?なんで!?」
「なんでと言われても…そういうものとしか答えられないなぁ…。」
真衣は自分ではできないと聞いて、ブーブー文句を言いました。
「まぁまぁ、またこの公園に来てくれればもう一度見せてあげるから!」
「むぅ…。わかった!約束だよ!また明日来てね!!」
雄太は一安心しました。今までこの魔法を使うと気味悪がられることが多かったため、今回もそうだろうと思っていたのですが、真衣は違いました。とても喜んでくれました。なので雄太も、またこの公園に来て魔法を見せてあげようと思いました。
そう思っていた矢先、小さな公園に一人の女性が来ました。齢にして三十程なので、おそらく真衣の母親だろう。雄太は母親らしき人物に挨拶をすると同時に、真衣の娘であるかの確認もしようとしました。
しかし、母親らしき女性は雄太の後ろの光景を見て、酷く驚いた様子だった。無理も無い、その女性の娘であろう真衣の周りを熊のぬいぐるみが歩き回っていたのである。
「あなた、真衣に何かしたの?」
この時点で、雄太は確信した。この女性は真衣の母親だと。しかし、雄太は困った。母親は完全に雄太を疑っているのだから。この状況をどう説明したものか非常に悩みました。
「早く帰って!じゃないと警察を呼ぶわよ!」
「ち、違いますお母さま!私は決して不審なものでは…」
「不審者程そういうのよ!早く帰って!!」
母親の疑いは最早革新に近づいていた。傍から見ればただの思い込みにしか見えないだろうが、いざその現場に遭遇すれば疑ってかかるのも無理はないだろう。
「ママ、違うの!この人、すっごく優しいんだよ!」
真衣はそういうが、母親は信用しなかった。
「違うのよ、そうやって優しいふりをして人を騙す人は沢山いるのよ。」
母親はそう諭すように言った。
「でも…。」
「でもじゃない!さ、何か起こらない内に早く帰るわよ!」
「ま、待ってください!」
母親はその言葉も聞かずに、娘の真衣を連れてそそくさと帰った。
「…はぁ、結局こうなるのかぁ…。」
今までもこのように気味悪がられ、距離を置かれることが多かったので、こうなることには慣れている筈でした。しかし、一度は喜んでもらえたので、その分落胆は大きかった。
「…帰ろうか。」
雄太は小さい公園を出て、とぼとぼと自宅に帰ることになりました。やはり理解はされないのだなと、思いながら。
翌日…
雄太は昨日と同じ昼下がりの時間に、また小さな公園に来た。理由は、真衣と約束をしたからだ。あのようなことがあっても、雄太は約束はしっかり守らなければならないと思っていた。普通ならば行かない人が多いだろうが、雄太は約束は何があっても守りたいと思う人間だ。来ずにはいられなかった。
その小さい公園には、約束をした真衣と、母親、そして父親らしき人物もいた。なぜ家族そろってこの小さな公園にいるのか、雄太にはあまり想像がつかなかった。
恐る恐る公園に入ってみると、母親が駆け寄ってきて、開口一番こう言った。
「昨日は本当に申し訳ありませんでした。」
雄太はぽかんとした。昨日あのような仕打ちを受けたばかりなのだから、彼にとって想定外だったのだ。
「え、あの、どうされたのですか?」
「あなたは迷子になった私の娘をずっと見ていてくださったのでしょう?それなのに私はあなたを不審者扱いしてしまいました。」
父親も謝罪の言葉を口にした。
「昨日の事は妻と娘から聞きました。ぬいぐるみが動いていたと聞いた時はすごく驚きましたが、それも全て娘を笑顔にさせるためだったのですね。」
そこに、真衣が口を挟んだ。
「雄太お兄さん、昨日の約束覚えててくれたんだね。ママがいっぱい酷い事しちゃって、もう来ないかと思っていた。」
雄太はそれぞれの発言を聞いて、心底安心しました。一時は嫌われたかと思って自己嫌悪を起こしていましたが、自分のやったことは正しかったんだと思いました。
「いえ、私もあのような変なことをして驚かせてしまって、本当に申し訳なかったです。」
「謝らないでください、受け取り方を間違えたのは私ですので。」
余程反省しているようで、雄太も少し困り気味だった。
ともあれ、今日ここに来なければ、このまま仲がこじれたままだったので、本当に来てよかったと、雄太は思いました。
そして、真衣は雄太に向けてこう言った。
「雄太お兄さん、また熊さんのぬいぐるみ、動かして!」
雄太は、快く引き受けた。
「勿論!」
そして、雄太は鞄から熊のぬいぐるみを取り出して、昨日と同じく、指をぬいぐるみに向けて、その指で頭を触った。
fin
今回の小説、いかがでしたでしょうか?拙い部分はまだまだ多々あると思いますので、ご感想、ご意見、ご指摘等お待ちしています。この小説を楽しく読んでくださったのであれば、それは私にとって至上の幸せです。