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クチャの戦い

 チベット・イギリス連合軍は、クチャの南西から東にかけて布陣し、攻撃の機会をうかがっていた。


「……」

「緊張してます?車長」


 砲手席に座るミカが車長席のツェダに話しかける。


「……率直に言わせてもらえばその通りだ。今までは歩兵相手の、いわば弱い者いじめみたいな戦いだったが、今回は相手もクルマに乗っている。しかも、ロシアの突車は我々よりも重装甲で、我が方の装甲をやすやすと抜いてくるという話ではないか」


 緊張しないわけがないだろうと、ツェダはミカに正直に答えた。


「逆に考えるんですよ車長、的がでかくて当てやすいから、歩兵の相手より楽だって考えるんですよ」

「……お前の突拍子もない思考回路がうらやましいよ、本当に」


 ミカが前世で打ち込んでいた戦車ゲームには歩兵が登場せず、純粋に戦車同士の撃ちあいのみで勝敗が決着していた。勿論ミカはそのことを覚えてはいないが、相手が歩兵の時よりも戦車の時の方が、彼女にとって気楽に感じるのも、ゲームで慣れ親しんだ状況に近いからである。


「実際歩兵の皆さんってすごいですよ。あの重たいものを丹念に偽装して不意打ちしてくるんですから。それに比べれば、あんなうすらでかいハリボテ、この75mm砲の錆にしてくれましょう」


 実際にロシア軍の歩兵戦闘車がミカの言う通りのハリボテなのか、ここで性能差を確認しておこう。


タプチ砲兵工廠 十年式軽戦闘車改

車体長3.7m

全幅1.9m

全高1.8m

乾燥重量:5.5t

 戦闘重量:6.9t

乗員数:3名(運転手、車長兼無線手、砲手兼装填手)

主砲:八四式車載砲(三八式野砲ベースの戦車砲)

装甲

 砲塔正面:38mm

 砲塔側面:13mm

 砲塔天蓋:7-13mm

 砲塔背面:13mm

 車体正面

  上部:13mm30°

  下部:13mm30°

 車体側面:13mm90°

 車体背面:7mm90°

 車体上面:7mm

 車体下面:7mm

エンジン:帝国人造繊維"A040C" 強制掃気2ストローク強制空冷水平対向4気筒

 最高出力:120hp/3000rpm

 最大トルク:34.7kgm/1400rpm

最高速度:42km/h


ハリコフ機関車工場 T-14歩兵戦闘車

全長:6.9m

全幅:2.9m

全高:2.9m

重量:20t

乗員数:3名(運転手、車長兼砲手兼無線手、装填手)

 乗客:12名(歩兵一個分隊分)

武装:M1924 45mm戦車砲もしくはM1927 76.2mm戦車砲×1、7.62mm MT機関銃×1

装甲

 砲塔正面:45mm

 砲塔側面:20mm

 砲塔天蓋:10mm

 砲塔背面:20mm

 車体正面

  上部:20mm30°

  下部:20mm60°

 車体側面:20mm90°

 車体背面:10mm90°

 車体上面:10mm

 車体下面:10mm

エンジン:ホール・スコット リバティ L-8 自然吸気4ストローク水冷90°V型8気筒 300hp

最高速度:45km/h


「ハリボテとは言うが、我が方は500m迄近づいてなおかつ真正面から打ち据えないと車体正面上部を抜けないぞ?対する向こうは1km先からこちらのあらゆる部位を貫通できるんだが」

「500m迄近づかないと車体正面を抜けないのは、従来の40mm砲を装備している車両の話ですね。75mm砲を装備する十年式戦闘車改であれば、最も堅固な砲塔正面も1km先から余裕で貫通できますし、逆に砲塔正面への着弾なら高確率で防ぐことができます」


 ツェダの指摘に対して、ミカがオタク特有の早口で反論する。車両スペックを暗記することはユニカムの第一歩だ。


「……だが、見ての通りこのあたりには起伏も障害物もほとんどないぞ。先に撃った方の勝ち、になるのではないか?」

「味方を使いましょう中隊長。イギリス軍の『主攻はこちらで務める』という連絡は、『我々に誘引されている敵突撃車を横から撃ってほしい』という意味です」


 なおも心配するツェダに対して、キャロリンが横から口をはさむ。


「うーん……」


自分達の戦果だけを見るならこの考えは正しい。相手からもそのように動いてくれと要請されているのだから、素直に従えばいいのだが、味方を踏み台にしているようでツェダには申し訳なかった。


「あまり他人、特に歩兵を盾にするような戦いはしたくないのだが」

「ねえ知ってる?ロシアとインドと中国では、畑で人が取れるんだよ」

「唐突にどうしたんだミカ……」


 唐突に敬語を崩してギャグに走ったミカにツェダは困惑する。


「どうしたって、豆知識を述べただけですが」

「この状況でそれを言うってすげーよミカは」


 キャロリンも呆れていた。それを無視してミカは続ける。


「自分で言うのもなんですが、私達が戦場に引っ張り出されている時点で我が国の人的資源は厳しいのです。一方、インドは人が余っていますから、最低な考えなのはわかってますけど、我が国より余裕があるのです。それにあれですよツェダさん」

「……なんだ」


 ツェダは怪訝な顔をしながらも続きを促した。


「インドの皆さんが大損害を被るほど、我々はもたもたするとお思いで?」


 ミカが挑発するように言い放つ。


「……そうだった。そうだったな。わかった。悩むのはやめることにしよう。我々は、私は最善を尽くすまでだ」


 ミカの言葉を聞いて、ツェダは吹っ切れたように獰猛な笑みを浮かべた。





戦いはイギリス軍側の砲撃から始まった。教本通りの20分程の砲撃と、混乱に乗じての広正面攻勢。一般的な浸透強襲である。


「イギリス軍は煙幕を使わないんですね……」

「同士討ちや、自分達まで混乱するリスクを背負いたくないらしい。戦力で勝っているなら、順当な考え方だな」


予備戦力として待機しながら、ミカとツェダは戦況を分析していた。


「戦闘教義って面白いですね。戦車や突車もそうですけど、各国のお国柄が出て面白いです」


夕方ごろにはイギリス軍が敵第二線まで浸透突破し、第三線に迫る。そしてこのタイミングで新疆側は反撃に転じ、ロシア機械化歩兵をはじめとする予備兵力を投入してまだ抵抗している第一線を使い、逆包囲を試みた。


≪イギリスより敵突撃車発見の報あり。出番だぞ諸君≫

≪了解しましたテンタ大隊長。一中隊、出撃します≫


他の中隊もテンタ少佐の命令に応答し、イギリス軍から要請のあった場所に急行する。


≪敵の装甲車を発見!≫

≪敵の装甲車を発見!≫

≪敵の装甲車を発見!≫

≪仲良いなお前ら!一斉に同じことをしゃべるんじゃない!≫


複数人から報告があった通り、インド兵に対して猛攻を加えるロシア機械化歩兵部隊の姿を確認した。


≪敵はインド人をいじめるのに夢中になっている。横あいからドツいて叩きのめすぞ!40mm装備車は全車突撃!75mm装備車は後方から狙撃せよ!≫


テンジン・タシ少佐の号令一下、チベット教導戦闘車大隊は攻撃を開始した。


「方位3-5-5、敵突車!」

「距離1100!照準、ヨシ!」

「放て!」


ミカ車から初速510m/sで放たれた破甲榴弾は、垂直20mmの車体側面装甲を易々と貫いて砲塔直下で炸裂する。


「命中!汚い花火だ!」

「よくやった砲手!次、方位0-1-0、敵突車!」


チベット戦車隊は、奇襲効果もあって敵歩兵戦闘車を次々撃破していく。しかし、敵もさるもので徐々に態勢を立て直し、チベット側に反撃するようになった。


≪発動機をやられました!脱出します!≫

≪生きて帰れよ!≫


突撃した40mm装備車に被害が出始めている。取り敢えず近くの敵に反撃するのは当然の心理だろう。


≪肉薄して周囲を走り回ればあいつらは追従できないはずだ!≫

≪んな無茶な!≫

≪ラサ防衛戦を思い出せ!貴様らならできる!≫


中隊長車から叱咤激励が飛ぶ。少々無理押しになっているが、ここで引こうとしたらさらに効果的な反撃を受けるだろう。


≪……!方位2-9-0より敵突車群!≫

≪突撃中の40mm車を横から殴るつもりか!75mm装備車は敵増援に目標を変更しろ!こちらを相手させるんだ!≫


チベット史上初の装甲戦闘車両同士の戦闘は、いよいよ激しさを増していった。









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― 新着の感想 ―
[良い点] 一斉に同じ報告するほど沸いてる「敵突車発見」がもうゲームチックで笑ってしまいました でもなかなか緊迫してきましたね75mmで狙撃する戦車戦?はよいですよね!
[一言] ハードウェア面でソ連戦車と正面から互角に殴り合える日系戦車の活躍に目尻がじんわり…
[良い点] 戦車の性能差が勝敗の優劣ではないこと。 ミカは状況判断能力がずば抜けてますね。 [一言] チベットは畑から人が取れませんから、命大事にですね。軍の再建に時間は取られたくはないので。
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