裏の裏
折角挿絵機能があるんだから、戦況とかをちゃんと描いた方がいいのになまけるのでこうなる
「妙だ」
キャロに指示された目標を撃ちながら、ミカは難しい顔をしていた。
「ツェダさん、敵の戦力は師団規模の歩兵なんですよね?」
「そうだな!」
ミカが質問すると砲弾を装填しながらツェダが答える。
「現在われわれは攻撃側で、戦闘車2個連隊と歩兵1個連隊で夜間強襲をかけているんですよね」
「……そうだな」
「……手ごたえ、どこ行った?」
その言葉にツェダがはっとした。
「たしかに……!絶妙に弱い……!日本軍が頑張ってくれているおかげかと思っていたが、それにしたって若干弱い……!」
意識してみると、たしかにわざと手加減されているような感覚がある。衝撃を受けたツェダに対し、ミカはさらに畳みかけた。
「考えられる状況は1つ」
「主力はここにはいない……!」
「想定される可能性は2つ」
「2つ!?えっと、我が方の右翼側に伏せているか……市街地に立てこもっている!」
ミカは正解、とつぶやくと、ツェダに意見具申する。
「車長、ここは大隊長の判断を仰ぎつつ、新疆軍西側陣地を側面攻撃しましょう。あわせて、予備戦力を我が方の右翼側に先行投入し、新疆軍の側面攻撃を迎え撃つように提案すべきだと思います」
「わかった」
ミカの考えをツェダがテンジン・タシ大隊長に伝えると、教導戦闘車大隊全体で現在の突破点から西側に向かって攻撃を行うよう命令された。あわせて、右翼側の備えを固めるように連隊長にも上申してくれるという。
≪と言うわけだ。我々もコルラ守備隊西側陣地に攻撃目標を変更するぞ!≫
ツェダの檄が中隊に飛び、20両と少しの豆戦車が日蔵軍左翼側戦線に加わった。
それから1時間。戦況は日蔵軍有利ではある。
「命中確認!次、方位300の敵機銃陣地!」
「了解!キャロちゃん、少し左に車体回して!」
キューポラから外をうかがうツェダの命令を受け、ミカが装填作業をしつつキャロに指示を飛ばす。
「Roger that!」
日本製戦車お得意の遊星歯車式操行装置により、十年式戦闘車系列は超信地旋回ができる。ツェダ車は車体を30度ほど回して砲塔を目標に向けるのを手伝った。
「……照準ヨシ!」
「放て!」
75mm野砲が火を噴き、榴弾によって機銃陣地が爆発四散する。
「次!方位340の特火点!弾種破甲榴弾!」
「了解!」
ツェダが指揮に専念し、ミカが装填手を兼任しているということは、戦線が不明瞭になり、乱戦気味の戦況であるということだ。
「全体で見れば私達がどうやら押せているらしいのはわかるんだけど、局地的には勝っているのか負けているのかよくわからない戦場になっちゃったなあ」
後ろで忙しそうにしているミカとツェダの様子をうかがいながら、キャロはため息をつく。教導戦闘車大隊の攻撃目標変更を皮切りに、ミカの読み通り新疆軍主力が日蔵軍右翼に襲い掛かったり、チベット機動連隊と日本歩兵第48連隊がミカたちに気を取られているコルラ守備隊西側陣地を強襲したりと、お互いに側面を突きあう戦いになったため、戦場が混沌としているのだ。
≪前方だけでなく、後方にも気を配れよ!日本軍は強いが、完璧ではない!≫
≪了解!≫
テンタ少佐からの指示が飛ぶ。
「左前方に突撃車!あのシルエットは……三年式!」
「機動連隊の方々でしょうね。ということは……」
「コルラ守備隊の西側陣地は突破できたってことでいいのかな?」
そんな会話を会話をしているころ、チベット戦闘車連隊と機動連隊の間ではこのような交信が行われていた。
≪機動連隊より旅団本部へ!西側陣地を突破した!我々はこれより市街地へ突入し制圧を図る!≫
≪旅団本部より戦闘車連隊へ。機動連隊が市街地へ突入する。貴隊は東側陣地から市街地へ後退するであろう敵軍を攻撃されたし≫
≪了解した!機動連隊の武運を祈る!≫
市街戦は火力が発揮しづらく、攻撃側が防衛側を制圧しにくいため、犠牲が多くなりやすい。戦闘車連隊長が機動連隊の身を案じたのも、そう言った事情に由来していた。
≪教導戦闘車大隊より各中隊へ!機動連隊が西側陣地の突破に成功した!諸君らは東側陣地から市街地へ後退しようとする敵軍を少しでも多く減らせ!≫
チベット側が新疆側の側面攻撃を適切に迎撃し、コルラ守備隊西側陣地を攻略できた時点で、勝敗は決したと言っていいだろう。
≪了解しました!≫
≪無理はするなよ!もう勝ちは決まってるんだ!ここで死ぬのはもったいないぞ!≫
テンタ少佐がツェダ達に釘を刺す。ここからはどれだけ損害を抑えることができるかの勝負であり、特に(忘れがちではあるが)まだ士官学校生の身である教導戦闘車大隊の兵士たちが消耗するのはいただけなかった。
「……安心するのはまだ早いが、どうやら我々の勝利らしい」
「そうですか……第1中隊は何両やられましたか?」
ミカがツェダに自隊の損害を聞く。
「脱出の報告があったのは2両だ」
「声を上げる間もなく爆散した子がいなければいいんだけどね……」
コルラをめぐる戦闘が終結したのは、その日の昼前ぐらいの事であった。
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