夜を駆ける
昨日は更新できずすみませんでした
さて、日本軍の大攻勢(に見せかけた助攻)は奇襲効果によって瞬く間に新疆軍第一線を各所でうち破り、第二線もそろそろ抜きそうという雰囲気である。
「目標、敵トーチカ」
「見つけた……照準ヨシ」
「放て!」
豆戦車たちも主砲を撃ち、間接射撃では処理しきれない敵の防衛施設を撃滅していく。
「命中! キャロちゃん、次は?」
「えっと……そっから少し右にある特火点!」
双眼鏡で観測を行うキャロが、次の目標をする。
「そ、ら、よっ、と。装填完了だ」
「……照準ヨシ」
「放て!」
直径75mmの破甲榴弾が、口径の31倍の長さを持つ砲身の中で510m/sまで加速され、目標めがけて飛翔した。
「当たった!」
「……もう一発欲しいかも」
「はいはい、もう一発、ね!」
3人が淡々と目標を打ち据えていく間にも、敵からは反撃が飛んできている。つい先ほども正面の火点から37mm砲の直射を受けたばかりだ。……砲弾は明後日の方向に飛んでいったが。
「命中!」
「……敵特火点、沈黙!ツェダさん、前進したほうがいいですか?」
「ちょっと、待ってろ!」
ツェダは破甲榴弾を装填口に押し込んだ後、キューポラから頭を出して戦況をうかがう。
「……そうだな、砲撃に夢中になっている間に味方は少々前に行ってしまったようだ」≪第1中隊、各自の判断で前進しろ!功を焦って前に出過ぎるなよ!≫
≪ヨーソロ!≫
≪了解!≫
少し判断が遅れたが、ツェダ達第1中隊は各々がダックインしていたクレーターを飛び出し、前進を開始した。
「……!即時停車!」
ツェダの号令に合わせてキャロリンが急ブレーキをかけると、車体の鼻先を車体右後方から着弾音がする。
「方位330ぐらいに発砲炎!あれは……」
彼女は左斜め前方からの発砲炎を見たため、見越しを狂わせるために停車を命じたのだった。何から撃たれたのか指示しようとツェダが目を凝らしていると、ミカがそこに割り込む。
「それだけで十分です!対物砲陣地発見!照準……ヨシ!」
「……放て!」
主砲が咆哮すると、着弾地点が派手に爆発した。どうやらその辺に散らかしてあった即応弾薬に誘爆したらしい。
「……おみごと」
「ありがとうございます」
ミカはにこにこしながら自分で砲弾を装填している。
「……あと200mほど走ったらクレーターにダックインしよう。前進」
もしミカが外していたら、反撃で撃破されていたかもしれない。今になってぞっとしたツェダは一瞬放心したが、すぐに持ち直してキャロに前進を命じた。
「今日ほどミカの射撃の腕に感謝した日はないな」
「えー、今までは何とも思ってなかったんですかー?異議を申し立てますー」
ツェダのボヤくと、それにミカがふざけて返す。
「いままでは自分のことに精いっぱいでそれどころじゃなかったからな。だがさっきのは危険なのが冷静に分かってしまったから……しかし、士官学校の時から思うんだが、ミカの射撃の腕は尋常じゃないぞ?その辺の4年生よりも成績良かったと思うんだが」
ツェダは照れ臭そうに弁解しつつ、ミカの技量をほめた。
「んーなんでしょうね、なんかこう、数発撃たせてもらえれば、後は体が勝手に当たりそうな諸元を覚えてくれるんですよ。隠れた自慢の1つなんです、これ」
「座学と射撃は飛び抜けてうまいし、多分指揮も平均以上なんだけど、操縦は平凡なんだよね」
実際のところ、ミカの指揮や射撃の腕は、前世で何千時間もプレイした戦車ゲームで培われたものである。操縦自体も、頭に思い描いているライン取り自体は熟練兵のそれなのだが、その通りに車両を操作する行為には前世の経験が活きないため、結果として平凡であると評価されてしまうのだった。
「何だとキャロちゃん、自分の方が操縦うまいからってさー」
「まあまあふたりとも……」
その点、特にそういったバックグラウンドがないのにもかかわらず、優れた操縦能力を持つキャロリンの才能は恐ろしいものがある。さらに言うと、彼女たち3人は士官学校も出ていない新兵だらけのこの戦闘車大隊に於いて最強クラスの戦力なのだが、周りが熟練兵だらけなせいで本人たちに自覚がないのだった。
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