お家芸
やっぱり最低でもこのくらいの文字数がないと話が綺麗にまとまらない……
浸透戦術の概念は、近代陣地に対する攻撃において欠かせないものになっている。この世界では日露戦争での日本軍が先鞭をつけ、各国陸軍はいかに敵陣地を浸透突破し、分断包囲し、無力化していくかを研究していった。
ロシア軍は数に任せた広正面攻勢と執拗な反復攻撃によって多数の突破点を作り出し、敵の対応能力を飽和させることが肝要だとしている。
一方ドイツ軍は事前の偵察による弱点の選定と、そこへの戦力集中、そして一度突破した後の迅速な進撃により、敵の対応を後手に回らせることが重要であると考えた。
「そして本家本元たる日本軍と、その愛弟子を自称するチベット軍は、事前の工夫によって奇襲効果を最大限に発現させることが最強だと信じ、日々訓練を重ねてきたというわけですね」
灼熱の昼と、極寒の夜を繰り返すのが砂漠と言う土地である。ミカたちは航空機がまともに運用できない夜間のうちに進撃し、昼間は徹底的な偽装とロプノール飛行場からのエアカバーでやり過ごすことによって、じりじりとコルラへ迫っていた。
「夜の戦闘車は見えない聞こえない当てられないの三重苦と考える国もいるようだが、彼らには2つ足りないものがある」
「それでも何とか戦闘車で夜間戦闘ができるようにするための努力と、そんなの歩兵だってそうかわらないという分析であります」
ツェダの言葉に、豆戦車を操りながらキャロリンがわざとらしく続く。
「戦闘車だって夜襲はできるということを彼らに教育してやりましょう。……まあ、今回私達は助攻なんですけどね」
航空偵察の結果、コルラは東側を重点的に守るように防御陣地が築かれていることが分かった。なので、ミカ達戦車部隊と日本軍歩兵旅団であえて東側から攻撃することによって注意を引き付け、その隙に突撃車に乗った機械化歩兵が比較的防御の薄い西側から急襲、コルラ市街地まで突入する流れになっている。
西と東で何故陣地の強度に差があるのかといえば、新疆の中でも特に栄えているトルファン盆地に敢えて日蔵軍を誘い込み、その強烈な高低差を利用して盆地の中に封じ込めようと敵は考えたのだろう。コルラはその「トルファン盆地包囲網」の西側の要として機能させる構想だったようだ。
「同士討ちを避けることも兼ねて、今回は運動戦ではなく火力戦を行うことになる。ミカの消耗を軽減するため、装填作業は基本的に私が行うから、キャロは周辺警戒をよろしく頼むよ」
「Yes, mam. まあ任せてください」
キャロが胸を張って答える。
「敵が逆襲してきて乱戦になりそうだったら、いつもの役割分担に戻すんですよね」
「うむ、そうせざるを得ないだろうな。その時は頼むぞ」
これまでの様子から察するに、ツェダは未経験のトラブルに弱い傾向がみられた。ミカは念のため「緊急時にはいつもの役割分担に戻すこと」をツェダに意識させ、慌てさせないようにあえて確認を行う。
「……攻勢発起線に着きました」
「停車して定刻まで待機」
最大限に奇襲効果を得るため、攻撃を開始するまでは無線の使用を禁止する「無線封止」の状態になる。遠くに敵の防御陣地をうっすらと認めつつ、ミカ達は攻撃開始時刻が訪れるのを待った。
「そろそろか」
砂漠に夜に砲声が響き渡る。チベット機動第1旅団内の全自走砲中隊と、各日本軍歩兵連隊の砲兵中隊が準備砲撃を開始したのだ。
「砲撃は急速かつ短時間に留め、敵を混乱させることに重点を置くべし、ね……」
「防衛施設を破壊できると最高なんですけど、執拗に砲撃しても案外生き残っちゃうって、フランス人が言ってましたし」
一次大戦序盤のフランス軍は戦術研究が遅れており、ドイツ軍陣地への攻撃に際して1昼夜以上にわたる執拗な準備砲撃を何度か実施したことがある。しかし、日本軍が演習で導き出した「歩兵陣地は案外堅固であり、砲撃のみで撃滅するのは困難を極める」という研究結果を皮肉にも裏付けることになってしまい、想定外の反撃で大損害を被ってしまったことが何度かあったのだ。
「しかし派手にやってますね」
「助攻を助攻だと気づかれたら意味がないからな」
旅団規模の本格的な戦闘はこれが初めての3人は、今まで目にした中で一番の火力戦に舌を巻いた。
「ふーん。なら、向こうの気を引くのもいいけど──別にあの陣地を突破してしまっても構わないんだよね?」
例によってミカは昂ってきたらしい。
「……?ああ、遠慮はいらないぞ。ガツンと一発痛い目に遭わせてやろうじゃないか」
「はい、慢心はそこまで。良い気になっているときこそ事故は起こるものって学校でやったじゃん」
とりあえずノッてみたツェダに対して、なんとなく嫌な予感のしたキャロは冷や水を浴びせるのだった。
99%の人は死亡フラグが建てられたことに気を取られて機関車ネタが混ざっていることに気づかない。